第4章#01_里山流スープづくり、ことはじめ(母体は、キッチンLABO!)
ココット
――はじめまして。スープタウンのレストランのお世話係ココットです。実は、ガスパッチョ隊長の実の妹なんです。介護福祉の世界とは関係ないところで働いていたんですが、ある頃から、「人」と真正面から向き合っていく兄のシゴトをすてきだな、と思うようになって、こっちに飛び込んで来ちゃいました。
ココット
――2021年の秋でした。スープタウンはまだ建物もなにもない更地の時代でしたが、私が入社したあたりから地域の人も一緒になっての話し合い(スープ会議)が始まりました。なにもかもが新鮮でしたね。
ココット
――そうです。私、介護職はまったくできないので、お料理でなら、兄が目指している未来をサポートできるかと思ったんですよね。
ココット
――ローゼルのおにぎり、ですかね。ローゼル(エジプト原産でハイビスカスローゼルともいう)というのは、真っ赤な実をつける植物です。秋~冬に旬を迎えます。栄養豊富でお肌にもいいんですよ。この辺りの里山で手に入るので、お茶にしたり、梅干のように漬けたり。畑で収穫した野菜や、地元の方からいただいた山菜なども使って、ランチタイムにはいつも20種類ぐらいのメニューを用意します。ランチタイムが終わったら、パックに詰めてリーズナブルに販売。働くママたちに大好評なんですよ。
ココット
――はい。お皿洗いとか、お掃除とか、畑仕事など、一定時間お手伝いをしてくださった方には、一食分の無料チケットを差し上げています。お店の入り口には、「応援ボード」がありまして、そこにチケットを寄付しておけば、他の誰かが使えるという仕組みも。お腹を空かせてここに来れば、誰でも、いつでも、とりあえず「なんとかなる!」という場にしたいんです。
ココット
――キッチンLABOは、地域食堂であると同時に、就労継続支援B型事業所です。高齢の方、認知症のある方、障がいのある方がそれぞれに出来ることを重ね合わせながら、運営しているんですよ。今は18名が在籍していますが、平均して12~13名の利用者さんが通ってきています。
ココット
――もともとはガスパッチョ隊長が、デイサービスにいる高齢者の方をずっと見てきた中で感じていたことなんですよね。高齢になったり、認知症になっても、まだまだやれることはある。人の役に立つことはできる。社会から切り離されることなく、おじいちゃんやおばあちゃんたちが働ける場をつくりたいと考えていまして。そこから、認知症のある方が働ける場所として、「キッチンLABO」をつくりました。
認知症のある方がシェフになって若者世代を支えるこども食堂イベント「ビストロ・スマイリング」などもこの場所で定期的に開催しています。(詳しくは、第0章#10_高齢者が若者を支えるライフスタイル「おんぶにだっこ」誕生秘話を!)
ココット
――ぜんぜん違うかも(笑)。朝10時にみんなが通ってきて朝礼をするんですよ。そこで、今日は誰がどこで何をするか?といった人の配置を決めます。たとえば、認知症のある高齢女性は、場所が変わることが苦手なんですね。いつも厨房に入ってくださって、料理の仕込みをテキパキとしてくださいます。野菜も切るのも的確だし、油揚げを巻くなど細かい作業も器用にやってくださいます。また、若年性認知症の男性はもともと車のデザイナーさんなので、つくるものが好き。グラスやお皿をピカピカに磨いてくれるし、里芋の皮などもきれいに向いてくれますよ。静かにもくもくと作業を続けるのが好きな方もいれば、お客さんとコミュニケーションするのが好きな方もいます。キッチンLABOは比較的、おしゃべりが好きな利用者さんが多いです。
ココット
――キッチンLABOのよい所は、いろんなタイプの仕事があること。スープタウンになるとこれが何倍も広がります。一般的な就Bは、工場のように同じ作業をずっとやることが多いんですけど、ここではお料理の仕込みをしたり、接客したり、畑作業に出かけたり、いろんな「働く」の種類があります。利用者さんの得意なことや、その日の体調をみながら、シフトを組み、バランスをとっていきます。
ココット
――車で、5分のところにあります。キッチンLABOで使う野菜や、デイサービスの食事として提供する野菜なども収穫できるようになりました。土を触るのは、高齢の方は慣れています。若い世代は珍しがりますが、自然の中にいるのでみんないい表情になるんですよね。草取りの日でも、いきいきした顔になります。
ココット
――私は福祉を学んできてないので、専門知識を持っていません。だけど同じ人間なので、認知症であっても人と人として接すればいいと考えてます。その人を想って接すれば難しい仕事ではない。その人にとっての「日常」を保つことができたらそれが一番です。若年性認知症の人は、誰かが見ていないければ生活できないんですよね。私たちがそばいるから、安心して仕事も生活もできる・・・そんな場所でありたいと思っています。たとえば、キッチンLABOがお休みの土日を挟むと様子が違うんですよ。たった2日顔を見ないだけでも違ってくるから、つねにサポートしてあげたいなと思っちゃう。「人」に対して、そういった想いが持てる人なら、前向きに働けると思っています。
ココット
――キッチンLABOのサテライトです。福念寺というお寺だった場所を、私たちの作業拠点として引き継いでいます。広いので、ここで大量の料理を仕込むときなどよく利用します。こんにゃくづくりや、お漬物、保存食をつくるにもちょうどいい空間。庭では、落ち葉のコンポストやミツバチの巣箱などもつくっています。緑がとても豊かな場所で、他の場所とは時間の流れが違う感じがして、みんな、お寺で作業するのは好きみたいですよ。
以前、この場所で、スープ会議のメンバーで企画した「DISCO SOUP」という夏の宴をしました。その時、10種類のスープを流しおそうめんの付けタレにして食べよう!という話になって、みんなでいろんなスープ・メニューを考えたのも楽しかったですね。
ココット
――まだ秘密。いまみんなで模索しているところです!ただ、高級フレンチのお店で出される「おいしい」とは、ひと味もふた味も違う、松平・下山で生まれ育った地域の方たちが毎日でも食べたくなるような、里山ならではの「おいしい!」を探っていきたいと思ってます。
ココット
――それと同時に、キッチンLABOに通ってくださっている利用者さんがそれぞれの得意なことを活かして、活躍の場が広がるといいな。スープもそうですが、ピザづくりが得意な利用者さんがいるのでその方に活躍してもらったり、元美容師の利用者さんが2名もいるので彼らがおばあちゃんたちの髪をセットしてあげるとか。お庭の野菜や植物に水をあげたり、手入れをしたり、リネン類を洗ったり畳んだり、放課後デイサービスの子どもたちの遊び相手になったり。キッチンLABOのメンバーが賑やかに活動している姿を、あれこれ妄想しています。
つづく。