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第3章#01_スープな建築考「もしも、後ろの土地が増えたなら!」

いよいよ、「建築」のおはなしです。スマイリングのガスパッチョ隊長が語ってきた「スープタウン構想」というお題に対して、ハード面から答えを導きだしていくのか建築家さんたちのミッションです。設計担当は、愛知県名古屋市内にある建築事務所「ナノメートルアーキテクチャー」+「withU architects」の合同チーム。ナノさんの事務所には、スタッフやインターン、学生さん含め、常時10名ほどが出入りされています。そして、そこに時々、「未来の建築家」だという幼い男の子ふたりが出社してきて縦横無尽に走り回ります。いま、3歳と6歳!?

スープタウン建築現場(2024年6月)
奥に見える建物がスマイリングのデイサービス。
一級建築士であるさわやかなキャラの、
ビシソワーズ野中さん(左)とサムゲタン三谷さん(右)。

ビシソワーズ野中=はい、上が6歳、下が3歳、どちらも男の子です。「スープタウン」のお仕事の話が舞い込んできた時、私のお腹には次男がいたんですよね。産休に入ったぐらいで、夫とコミュニティデザイナーのPOT内海さんと庭師のビスク溝口さんが豊田市にはじめての現地調査にいったはずなので、次男とスープタウン・プロジェクトは同い年です。この6月で3歳になったから…もう、3年以上もプロジェクトに関わっているんですね。
 
チャウダー竹村=実は、僕もそこに加わるんです。入社後すぐにスープタウン・プロジェクトを担当することになりました。だから、僕もナノの社員になってまる3年。現在は、進行管理という立場で、週に1、2回のペースで豊田市にあるスープタウン予定地に通っています。

スープタウンと同い年の建築士、チャウダー竹村さん。
メンタルの強さはチームNO.1!!

POT内海=時々、ミーティングの場に長男くんと次男くんも来ていることがあるんですが、そういうのもすごくいいと思っているんです。スープタウンはみんなでこれからの介護福祉のあり方を考えるお仕事ですし。実際にスープタウンでは高齢者だけでなく、放デイ(放課後等デイサービス)の子どもたちもいっしょに過ごすことになります。常識にとらわれず、いろんな世代がその場にいることで何が起こるか、どうしたら支え合えるか、そういった視点が建築空間を考えていくうえでとても重要ですから。
 
ビシソワーズ野中=私たちは、世代的にまだ介護福祉の世界が身近ではないんですが、POT内海さんに「いっしょにやってみませんか?」と声を掛けていただいてから、今までとは違った視点から建築を考える機会をいただきました。高齢の方や障がいのある方、うちみたいに幼い子どものいる家庭などさまざまな立場の生活者が、社会から切り離されることなく、ほどよい距離感で過ごす空間をどう建築的につくっていくか? そういうことが「スープのさめない距離で暮らそう」というコンセプトからのお題だと思うので、みんなで突き詰めて、温かい空間を作っていこうと思っています。

サムゲタン三谷=建築チームは、僕たち「ナノメートルアーキテクチャー」の野中、三谷、竹村。時々いっしょにプロポーザル案件などに挑戦するwithU architectsのミネストローネ鵜飼さん。そして、今日の対談にはいらっしゃらないのですが、庭づくり担当のビスク溝口さん。高齢者の心に寄り添った環境をデザインしてくださる感情環境デザイナーのブイヤベース杉本さん。全体を統括しているのは「みんなの温度管理人」POT内海さん。このメンバーで毎回、密度の濃い~~会議を重ねています。

POT内海=「スープのさめない距離で暮らそう」というのがプロジェクト全体のコンセプトなんですが、ビシソワーズ野中さんは大学時代に生物学を専攻していたことから、アイデア会議の時に、「原始のスープ」のことを話してくれましたよね。 

ビシソワーズ野中=そうでしたね。「スープなまちってなんだろう?」「SOUPってなに?」というのを建築チームで紐解いていったんですよね。その時にふと、昔、勉強したことを思い出したんです。簡単に言いますと、地球が誕生したとき、生命の源である有機化合物はなかったそうです。一説によると、無機物のみの原子の海で、雷や熱の力もあり有機物ができ、濃厚な「原始のスープ」になったとか。その中から生物が誕生しました。地球のスープから私たちが誕生した、と考えると、スープタウンはまさに新しい何かが生まれる「原始のスープ」なのかもしれない…そう考えるとアイデアの幅もぐっと広がりますよね。

基礎工事の様子。真夏の現場は・・・!!
どうか水分をいっぱいとってください!!!!

生命体のはじまりにも「スープ」があったなんて!!というか、こんな風にして建築家さんたちはアイデアを膨らませていくんですね。すごく面白いです。ところで、はじめて豊田市のスープタウンの予定地に行ったときは、いかがでしたか?

チャウダー竹村=はじめての現地調査は、2021年の6月28日とノートにありますね。
 
サムゲタン三谷=難易度がめちゃくちゃ高い敷地だと感じました。まず、スープタウンの予定地は「市街化調整区域」といって、人が住むための住宅や商業施設などは基本的に建てちゃいけませんよと言われている敷地です。里山って、土地がいくらでもあって自由なイメージがするかもしれませんが、実は用途制限が厳しいエリアです。暮らしや風景が壊れちゃいますからね。「農地は農地」、「宅地は宅地」、「建てるなら、この高さまでにしてね」など、細かい制約があるんです。そこをどうしても変えたい場合は、「開発許可」という申請をしなきゃいけない。
 
ミネストローネ鵜飼=まわりが「崖」になっているという点も敷地としては、しびれる条件です。制度や土地環境を考えると、やめておいた方がよくないですか?と言いたくなるような…でも、その条件をクリアしながら、安全な建築物を築くにはどうしたらいいかを考えるのも、ぼくたちの仕事。初期段階で多角的に整理しているんですよ、実は。さらには、豊田市には矢作川(やはぎがわ)という地域を支える河川があるため、水環境への配慮も大事な設計上のポイントになります。
 
サムゲタン三谷=最初、スマイリングのガスパッチョ隊長さんからの与件は、今ほどボリューミーではなかったんです。「就労B」のレストランと「売店」、「有料老人ホーム」の3事業ぐらいだったと思います。
 
チャウダー竹村=6月末に現地調査に行った後、すぐにボリューム・スタディをしていますね。あ、ボリューム・スタディというのは、与件からどのような大きさの空間が必要かを整理したあと、「それがどんな建築の形になりそうか」を検討することです。

POT内海=8月末に、初回プレゼンをしていますね。建築チームのみなさんが10種類ぐらいの模型をつくってくださいましたよね。図面だけなら15パターンぐらいあって、それぞれ面白かったんです。積極的にチャレンジしてくださったのがとってもうれしかったです。
 
サムゲタン三谷=ただ、収益のことを考えると事業を増やさねばならず、それに伴って建物のボリューム(大きさ)も増えていったんですよね。「看多機(看護小規模多機能型居宅介護)」「放デイ(放課後等デイサービス)」「コインランドリー」「駄菓子屋さん」「工作室」などなど・・・そのあたりで、POT内海さんから建物規模が大きくなってきそうなので、建築チームの体制を見直してほしいって連絡があったんですよ。それで、大規模施設の経験が豊富なミネストローネ鵜飼さんにも加わってもらいました。
 
ミネストローネ鵜飼=僕が合流したのは、2021年の秋ぐらい。その時点では、敷地に対しての要望が膨れ上がっていまして、しびれる~~~って思ってました(笑)。

「しびれる~~~」と言いながら無理難題に答えてくれる
鵜飼さん。

サムゲタン三谷=これだけの事業を入れるには、どう頑張っても敷地面積が足りない。容積率を考えても、敷地いっぱいに建てることになり、「スープのさめない距離」なんていうステキな空間的なゆとりは生まれませんよ、というのが建築チームの見解だったんです。
 
ビシソワーズ野中=どんなパズルもはまらなくて、お手上げ状態になりかけてました・・・。

POT内海=そうなんです(汗)。なんとか打開策を見つけなければと、もがいてたなかで建築チームから、もし敷地の後ろ側にある擁壁上の土地が増えたらいけるかも…?という話が出てきたんです。こちらの資料を見てください。わかります? 

□資料1:もしも後ろの土地が増えたなら…

(左)土地に対して、建物の占める割合が大きいので、形状案の自由度が少ない。
また余白(庭空間含む)が少なく、スープタウンらしさがつくりづらい。
(右)後ろの土地分の面積が増えることで、回転幅が増え、可能性が格段に広がる。

サムゲタン三谷=後ろの土地が増えたとして、↓↓次の図を見てください↓↓。このように、現状の3階建てのビルのうち、2階にあたる部分をくるっと90度回転させると、ちょうど後ろの崖にのっかるようなカタチができるんです。

□資料2:ダルマ落としのように中央部分をくるんと回転!

これまでの案では、敷地面積の都合上、1~3階がほぼ縦に積みあがっている。
土地が増えた場合、 2階をダルマ落としのように擁壁上に回転させることで、
空間に新しい余白がいくつも生まれる、

□資料3:2階部分のズレが新たな「つながり空間」を創出。

2階をずらすことで、テラスが生まれたり、軒下が生まれたり。
斜めの視線も生まれ、新たな交流にもつながりそう。

ビシソワーズ野中=駐車場をとるのも難しい状態だったので、後ろの土地が増えて、余白がたくさん生まれました。大きな階段を作りたいね、レストランさんはこの辺になりそうだね。奥まったところに子どもたちの秘密基地ができそうだね・・・など話がわ~っと広がりました。
 
サムゲタン三谷=スープタウンは、いろんな人と人の関係をつむいでいく場所。ですから、建築空間にもそういった余白がやっぱり必要だと思うんですよね。カッコいい建築を作りたいとか、変わったアイデアを加えたいとか、そういうことではなく、「スープな関係づくり」のために必要な余白が、この方法なら生み出せるんじゃないかって思ったんです。
 
POT内海=「ぱ~~~~っ」と光が差したような瞬間でしたよね。もう、それしかないと思って、いそいでパワポでスマイリングのガスパッチョ隊長に説明する資料をつくって話をしました。

2階のテラスで食べるのもいいかも。
子どもたちの遊び場にもなるかも。

この流れからいうと、スマイリングのガスパッチョ隊長は、後ろの土地を買ってくださったんですよね?

サムゲタン三谷=そうなんです!!! ガスパッチョ隊長が土地の持ち主さんと交渉して手に入れてくださいました。それで、一気に道が開けていきましたね。
 
POT内海=やっと、骨格が決まったんですよ。スープタウンの建築部門における1つめの大発明です。まさか、1階と3階に挟まれた「2階」部分を90度くるっと回転させるなんて!そして、後ろ側にある一段高い崖の部分にエントランスをつくることで、2階がスープタウンの核になるんです。ここであの「サザエさん」の絵も生まれたんですよね(笑)。

ミネストローネ鵜飼=そうなんです。この形、何かに似ているなぁ・・・と思っていたところ、ふいに、「あ!サザエさんのエンディングのあれだ!」と(笑)。皆さんご存知の、リンゴの中からサザエさんが出てくるアレです。ゆかいなサザエさんがリンゴの真ん中にいるのと同じように、この建物も2階がゆかいな場所になるといいなと。

ビシソワーズ野中=1階と3階に高齢者の方たちの施設があって、真ん中の2階部分にレストランやフリースペースなどを持ってくる。そうすることで、高齢者の方たちとまちとの「つながり」が生まれるはずなんですよ。

みんなが笑ってるううう、おひさまも笑ってるうううう♪
るううう、るるる、るうううう、今日もいい天気~♪
ナノ事務所にはスタディを繰り返した模型が並ぶ。

あ~~~!!それが「サザエさん」だったんですね!納得です(笑)ありがとうございました。建築空間って、そこで過ごす人たちの関係づくりにまで作用する力があるんですね・・・正直、そんなところまで考えたことなかったです。次回もこんな発明のお話を聴かせてもらえるようで楽しみです。

つづく。

PROFILE_ビシソワーズ=野中あつみ/ナノメートルアーキテクチャー 一級建築士
愛知県一宮市生まれ。大学では生物工学を学び、大学院で遺伝子工学を専攻。6年間も、生物系の研究をしてきた稀有な経歴をもつ才女。2016年「ナノメートルアーキテクチャー」を設立。スープネームは、ビシソワーズ。じゃがいもの冷製スープのことだが、「冷製」キャラなので、わりと気に入っている。

PROFILE_サムゲタン=三谷裕樹/ナノメートルアーキテクチャー 一級建築士
大阪府豊中市生まれ。事務所の共同主宰者である妻とは、学生時代のとある卒業設計展で隣のブースだったというご縁。2025年に開かれる大阪・関西万博では、全国から集めた「困った木」を有効活用したとあるブースを建設予定。スープネームは、サムゲタン。理由は、あの白濁スープが好きだから。

PROFILE_チャウダー=竹村裕人/ナノメートルアーキテクチャー 設計スタッフ
岐阜県多治見市生まれ。大学の建築学科、大学院でも引き続き知見建学を深めていく。「ナノメートルアーキテクチャー」に入社したのは2021年。入るなり、スープタウン・プロジェクトを任されることになるが、強靭なメンタルの持ち主で、次々にやってくるスープショックを渡り歩きながらチームを支える。料理が好きで、麻婆豆腐がトクイ。

PROFILE_ミネストローネ=鵜飼浩平/withU architects 一級建築士
愛知県名古屋市生まれ。大学院修了後、建築設計事務所に10年ほど勤め経験を積む。公共施設や学校、パーキングエリアなど大規模案件の経験が豊富で、品質管理やエラーを起こさない方法を考えることもトクイ。スープタウンのみんなから出てきた突拍子もないアイデアを、「どうやったら建築として成立するか、安全に実行できるか」に集中する役割も担う。

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