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Y.S.とK.M.によるエッセイやレビュー、コラムなど

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最近の記事

こんな本を読んだ②ー『ランサム』ジェイ・マキナニー

セックスもドラッグもロック(ンロール)も、今の世の中に依然として残っているものなのに、その三つが揃うと、急に時代が遡ってしまう気がするのはどうしてだろうか。ジェイ・マキナニーが本作を発表したのは1985年。デビュー作『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』の翌年のことである。 京都を舞台に、アメリカ人の主人公=ランサムが空手を学びながら英語講師として生計を立てる、日々の暮らしを描いている。まるで最初からウケを狙ったかのような設定はいただけないが、マキナニー自身が2年間日本で暮ら

    • こんな映画を観た③ー『夕やけ雲』1956.木下恵介

      「木下恵介のときは”女”ではない女優が、成瀬が撮ると女優になる」といったのは誰だったか。この言葉を真に受けてしまったが為に、木下恵介の映画を長らく敬遠していたのは全くの間違いだった。劇中で女優の口から零れ落ちる「昔だって今だって女は女だもの」という台詞を耳にすれば、この映画に登場する人々は紛れもなく”男”と”女”であると言わざるを得ないだろう。 戦後の暗さを目一杯引きずった本作は、魚屋を営む貧しい一家の生活を、過度にウェットにならないよう、省略を味方につけて、流れるように描

      • こんな本を読んだ①ー『八本脚の蝶』二階堂奥歯

        クロード・シャブロル『引き裂かれた女』(2007)の中で、フランソワ・ベルレアンは小説家として登場する。彼は「引用病」という病を患っており、彼が日常で発する言葉の何割かは、何らかの書物を「引用」している。 元・国書刊行会編集者である二階堂奥歯の日記であり、遺書である『八本脚の脚』もまた、書き手が重度の「引用病」であることを示した作品であると思う(ここでは敢えて「作品」であると言い切ってしまいたい)。引用と引用を並べ、連ね、重ねていくその流れは、まるでゴダールの映画のようであ

        • こんな本を読む①ー『THE GHOST WRITER』PHILIP ROTH

          海外文学を原文で読める人はかっこいい。スターバックスで珈琲を脇に置きながら、MACをカタカタさせてる人よりもかっこいい(あいつら何やってるんだ?ツイッターか?)、と思う。しかし、どの本を読めばいいのだろう。どの本が、比較的長続きするだろう。そんなことを考えていたら、一年が経っていた。 案その1「日本人作家の英訳小説を読む」矢張りここに落ち着くのが一番平和なのではないかと何度も思った。ハルキ・ムラカミなんか台湾に行ったとき、嫌というほど見かけた。恐らく英訳は沢山されている

        こんな本を読んだ②ー『ランサム』ジェイ・マキナニー

          こんな映画を観た②ー『アメリカン・スリープオーバー』2010.デヴィッド・ロバート・ミッチェル

          夜の映画が大好きである。 あてもなく街をブラブラと歩いているだけの映画ならば、尚良い。照明が全て落とされた真っ暗な空間に身を埋めながら画面上の夜に浸っている時間は、何物にも代えがたいくらい心地が良いと思う。 デヴィッド・ロバート・ミッチェルのデビュー作『アメリカン・スリープオーバー』は、あまりにも正しいティーンエイジャーたちの「夜の徘徊映画」だ。女を求めて男は歩き、男を求めて女はさ迷う。そこに明確な目的地は存在しない。その単純さが、良い。 プールで視線を交わす、互いの名

          こんな映画を観た②ー『アメリカン・スリープオーバー』2010.デヴィッド・ロバート・ミッチェル

          sketch.2

           コリアンタウンとして知られるこのエリアだが、最近ではネパール、ベトナム、インド、ブラジル等々、東南アジアを中心にあらゆる国の人々がこの街へと移り住み、店を営む。エスニックな料理店が立ち並ぶメインストリートから路地へ。何気ないふうを装い、道すがらガラス張りの店内を覗くと、レジの前に背中を丸めた大男の姿――東京の多国籍地帯の一角に、かつて〝蒙古の怪人〟と恐れられたその男は店をかまえる。ひょっとしてモンゴリアン・チョップの一発でも浴びせられやしないかと怯えながら、中へ。いらっしゃ

          こんな映画を観た①ー『パターソン』2017.ジム・ジャームッシュ

          休職し始めてから、もう二週間が経ってしまった。 ここまで両手両足を暇にしているのは学生のとき以来だから、大体一年と八か月ぶりの解放感を味わっていることになる。 会社という場所はその日毎にやられければいけないことが明確に決まっていて、やけに一日を立体的に捉えていたように思う。「今日は何月何日の何曜日である」ということを念頭に置きながらせっせと仕事をこなしていくのは、なかなかに神経をすり減らす行為だった。 いまは、一日を立体的に捉える必要がまるでない。かと言って、一週間とい

          こんな映画を観た①ー『パターソン』2017.ジム・ジャームッシュ

          sketch.1

            旅人マモとの友人関係は、まもなく十年近くになろうとしている。休暇ともなればバックパックを背負い空港へと急ぐ習性を身につけてしまった彼は先日、二度目のヴェネツィア旅行へと出かけた。歴史上の名だたる作家たちを魅惑してきた水の都。その地に佇む老舗「Harry’s Bar」のカウンターに腰かけ、飲み干した一杯は、ドラッグと酒にまみれた作家の生涯を短めるのに一役買ったにちがいない。 「これは冷たい弾丸さ」 そう言いながら、彼はあのかん高い笑い声を響かせたろう。  イタリア系移