小澤征爾さんの思い出③ 奇蹟のニューヨークライヴ第2夜
先日再掲したニューヨークライヴ第1夜に引き続き、第2夜についても再掲したいと思います。
(以下再掲)
第1夜に続き、ニューヨークのカーネギーホールで行われた、小澤征爾本格復帰第2夜、サイトウキネンオーケストラのコンサートのレポートです。
12月15日も、とても寒い日でした。
カーネギーホールの周辺には、タクシーで乗り付けた人々であふれていました。
本日のポスターには、小澤さんと前半を指揮する下野さんの写真が大きく掲載されていました。
残念ながら売り切れにはなっていないようです。
演目はかなり良いと思うのですが、まだまだNYでは、サイトウキネンだけでは入らないのでしょうか?
今日も、日本からの方、在住の方がいっぱいでした。昨日に続き、隣りはどちらも日本人でした。またも、ぎりぎりになって席がどっと埋まります。
売り切れにはなっていませんでしたが、昨日とほとんど見た目は変わらないような入りです。空いている席はちらほら見える程度でした。
たしかWebで予約した時も、下の席は満席だった気がします。
●武満徹:ノヴェンバー・ステップス
指揮 下野竜也
尺八 三橋貴風
琵琶 田中之雄
演奏 サイトウキネンオーケストラ
ニューヨークフィルハーモニックの125周年のために委嘱された曲のひとつで、ニューヨークで小澤征爾の指揮で初演された武満音楽の傑作とされる曲。何度もCDで聞いていた曲ではありますが、生で聴くのは、この夏のサイトウキネンフェスティバル松本と今回で2回目です。
オーケストラがチューニングを終えると、袴姿の邦楽器奏者のお二方が、下野竜也さんとともに入ってきます。
深々と礼をされると、すっと静かな世界へと入ります。
オーケストラが独特の音を奏で、聴き手を引き込んでいきます。それが鎮まると、尺八の風のような音、そして琵琶の鋭い音がホールに響きます。
CDで聞くのと生で聴くのとではやはり印象が違います。
正直な印象は、琵琶と尺八の音が、以外にソフトだということでした。
これは、初演から演奏されており、CDなどでも聞いていた、琵琶の鶴田錦史さん、尺八の横山勝也さんの次の世代であるこのお二方の演奏法なのか、はたまた、CDだからこそ邦楽器のバランスが大きめに聞こえるのか、それは分かりません。
それでも、尺八のさまざまな音色、琵琶のはじく、こする、たたくなどの技法を駆使した音、そして、それに呼応する西洋楽器の不思議な音色。とても印象の強い曲です。
最後の尺八の強い音が響き渡り、静寂の中で下野さんが手をおろすと、拍手が静かに湧きおこりました。
熱狂的な拍手というわけではなく、良く解釈すれば、深く理解しながら今聞いたものを咀嚼しているかのような、悪く言うと、「ぽかん」のような拍手だったと思ったのは私だけでしょうか。
かつてのNYでの初演では、熱狂的な喝采を浴びたそうですが、武満音楽の定番となった今では、そこまでの反応ではないようです。それでも、何度もカーテンコールが繰り返されました。これまた深々と挨拶をしてるお二人が印象的でした。
●ベルリオーズ:幻想交響曲
指揮 小澤征爾
演奏 サイトウキネンオーケストラ
待ちに待った幻想です。
なぜ待ち待ったかというと、小澤&幻想は、まったく個人的な理由で、2007、2010の2度振られています。
2007には、台風で会場にたどり着けず、2010夏には、小澤さんの病気での降板です。何としても小澤さんの十八番を聞いてみたいと熱望していました。
今回も指揮台には椅子が用意されています。そして、サイトウキネン恒例となった、楽団員とともに、小澤さんが入ってきます。メンバーの一人という意思表示です。一旦鳴りやんでいた拍手が割れんばかりになります。
そして、昨日よりゆったりとした表情で、観客席を見渡し、拍手を受けていました。
第1楽章のフルートが静かに始まると、小澤さんは静かに腰をかけ、指揮を続けています。曲が盛り上がるにつれ、昨日同様立ちあがっての指揮になります。オーボエ、イングリッシュホルンの美しい音が、印象に残ります。特に第3楽章が美しかったです。
「恋人」の音色を奏でるクラリネットも、かつてのようにカールライスターというわけではありませんが、とてもきれいでした。
昨日は弦楽器が圧倒的な印象でしたが、今回は木管楽器の美しさが光ったように思います。
第4楽章、だ5楽章と盛り上がるにつれ、ほとんど立ちっぱなしでの指揮になり、最後のクライマックスに至っては、これまで何度も見ていた、ボストン交響楽団や、サイトウキネンの録画と変わらぬような、情熱的な指揮で、ホールが鳴り響きました。
大喝采の拍手とブラボーが起きたのは、昨日とまったく同じでした。一気にスタンディングオベーションが広がり、会場が興奮に包まれました。
幻想交響曲という演目も完ぺきでしたが、演奏も素晴らしかったと思います。
下野さんを連れてカーテンコールにこたえていましたが、腰痛もあるのでしょう。あまり多くのカーテンコールを受けず、楽団もお開きとなりましたが、スタンディングオベーションを続けている人もいます。
余韻を楽しみながら、階段を下りていくと、興奮冷めやらぬ日本人の方たちの会話が、周りからたくさん聞こえてきました。
思わず、外国人の多めの東京文化会館かと思うほどです。会場の前には、小澤さんの弟さん、小澤幹雄さんの姿もありました。
外のポスターは、18日に演奏されるブリテンの「戦争レクイエム」に変わっていました。この18日の公演で、サイトウキネンのNY公演は終わりになります。小澤さんが80分近い全曲を指揮される予定だそうで、聞きたいのは山々ですが、さすがにそうも会社を休んではいられません。
カーネギーホールの楽屋口の前を通りますと、下野竜也さんがインタビューに答えていました。日本の報道各社のカメラやレポーターの姿もありました。
小澤さんのお帰りを極寒の中見送って、ホールを後にしました。
(以上再掲)
小澤征爾さんは、実は疲れ跡寒さから、この後体調を崩したということは後から知りましたが、18日のブリテンにはしっかりと復活し、本来取らない休憩を途中で挟んだりをしながらも、全曲を指揮したとのことです。
2日に渡り、小澤さんの十八番をライヴで堪能したこのニューヨークでの体験は、私の宝物になっています。
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