③心房細動ってなんだ?
ミュージカル好き救急医の独白 vol.3
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -
はじめに
みなさん, 胸がドキドキすることってないですか. 緊張したときに起こるあのドキドキです. 布団に入った後など, 安静にしているときにドキドキ感じてしまう, そんな経験がある人がいるのではないでしょうか.
階段を昇ったあとは息が上がって胸がドキドキすることはあっても, 安静にしているときに同じようにドキドキしたらそれはちょっとおかしいですよね. なんで?これって大丈夫なの?って心配になることもあるでしょう. 前回, サラサラ薬の話をした際に, “心房細動”という不整脈を紹介しました. この不整脈は知っていて損はないので一読を.
今回のミュージカル
スカーレット・ピンパーネル
フランク・ワイルドホーン(Frank Wildhorn)作曲でブロードウェイで初演されたのが1997年. それから約20年, 2016年秋, 世界初の新バージョンとして日本で上演されました(主演, パーシー役は石丸幹二さん). 大好評で2017年に再演となりました.
私は初演の10月, 赤坂ACTシアターで観劇したのですが, 幕間にふと後ろを振り返ると, そこにはな, なんとフランク・ワイルドホーン(Frank Wildhorn)さんがいるではありませんか. ワイルドホーンさんと言えば, 私が最も好きなミュージカル, 『ジキル&ハイド』や『デスノート The Musical』を手掛けた作曲家です. 思い切って話しかけ思いを伝えたときにはドキドキ…ってことで今回は動悸のお話し.
心房細動とは?
不整脈を指摘されたことがある人はいるかもしれませんが, 具体的にどのような不整脈かをきちんと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか. よく脈が抜けると表現される期外収縮という不整脈がありますが, これは基本的にはあまり心配する必要はありません. しかし, 不整脈の中でも心房細動の場合には, ちょっと注意が必要です.
心房細動を表現すると, バラバラ, そんな感じです. 実際の脈を触れるときには, 橈骨動脈という手首の動脈を触りますが, ドク・ドク・ドクという一定のリズムではなく, ドク・ドドク・ドクドク・ドクとバラバラになるのです.
バラバラだと何がまずいのでしょうか. バラバラというのは心臓がバラバラに動いているというイメージです. 一定のリズムで収縮・拡張を繰り返しているのに対して, 不規則に動くと血液が乱れ, そこで血栓という血の塊ができやすくなるのです. そしてそれがドンと頭の血管に詰まると脳梗塞(心原性脳塞栓症)を引き起こしてしまうことがあるのです. もちろん, 心房細動以外に高血圧や糖尿病, タバコなどの影響もありますが, 脈が一定の方と比べるとバラバラの方は血栓ができやすいため注意が必要なのです.
そのため, この心房細動が見つかった方は, 血をサラサラ(通常の2倍程度)にして血栓を作りづらくするために, 抗凝固薬(ワルファリンなど)を勧められることがあります(リスク次第ですので必ずというわけではありません).
動悸を自覚したときには, 心房細動か否かは非常に大切で, 脈が一定だったのかバラバラだったのかをできたら確認して下さい. 健康診断で不整脈を指摘された場合には, その不整脈が心房細動であったか否かは確認しメモしておきましょう.
救急外来あるある
こういったことが救急外来ではよくあります.
72歳の男性(Cさん)が動悸を主訴に受診しました.
ベッドに入りしばらくしたら動悸を自覚し治まらないため受診しました.
Dr.S:「どのような動悸でしたか?」
Pt.B:「ドキドキ始まって, 心臓がどうかなってしまいそうで. いまは落ち着いていますが...」
Dr.S:「(机を叩きながら)トン・トン・トン・トンと一定で早い感じでしたか?それともトン・トトン・ト・トトン」とバラバラな感じでしたか?」
Pt.B:「バラバラな感じはしたような…」
Dr.S:「以前に健康診断などで不整脈を指摘されたことはありますか?」
Pt.B:「不整脈って言われたことはありますが, 症状がなければ気にしないでよいと言われました. 」
Dr.S:「なんという不整脈かは覚えていますか?心房細動や期外収縮というのが代表的ですが. 」
Pt.B:「わからないです.」
Dr.S:「…」
動悸に対しては, 心電図など必要な精査を行いますが, 発作的に起こる心房細動もあり, 簡単な様でなかなか原因の不整脈が捕まらないこともあるのです. 不整脈と指摘されたことのある方は, ぜひその名前も確認しておくとよいでしょう. 心房細動が見つかっているのであれば, 今回の動悸の原因としてぐっと近づきますから. では今回はこの辺で. ByeBye.
♪僕にいまなにができるだろう 悲惨な世界のために〜♬
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