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ミサキミラー/大橋ちよ著【創作大賞感想】

大橋ちよさんの小説『ミサキミラー』を読ませて頂きました。
連載中リアルタイムで読んでたものの、最終話を読み終えボーっとしてしまい、先ほど正気を取り戻したところです。

ごめん!概ねこの通りなのだけれど、表現を間違えました。

読み終えた後ずっと、
気持ちのやり場に迷ってて、
やっと置き場所を見つけられた、

という表現が正確です。

言語化出来るくらいには落ち着いたので、感想というか、考えてたことを綴らせて頂きます。

人間を捕食する種族のケイプリアンと人間の女の子ミサキの物語。
大橋さん、書きながら泣いてたのではないかと思うほど、せつない恋物語でした。

人を喰らう種族“ヴァンラス”と人間の女の子の物語

~ 中略 ~

喰う側と喰われる側の心の交流は成立するのか。そして両者の間に平穏は訪れるのか。
ミサキとケイプリアンを通してこの世の正当性を問う。

ミサキミラー あらすじより抜粋

主人公のミサキは、環境に流され易く、主体性に乏しい女の子として描かれてます。ケイプリアンとの出会いも、敵対するヴァンラスと気づかぬまま接してました。
彼がヴァンラスだとわかってからも、拒絶することなく、良い関係であろうと考えます。

偏見のないとってもいい子。
きっと良い人達に愛されてきたのだろうと感じます。

突きつけられる厳しい現実に、非力を感じながらも、自分に出来ることを考え行動するミサキ。ケイプリアンとの出逢いが、少しづつ彼女を能動的に変えていきます。

その様子が健気で可愛い。
諦めるなよ!と、心で叫んでました。

ヴァンラスvs人間の戦争は激しさを増す一方。
つらい出来事を気力で乗り切るミサキ。それに追い打ちを掛けるような現実。その繰り返しの日々に疲弊していきます。
そして、ケイプリアンとの再会を果たせぬまま、戦争の終わりが告げられます。

戦争の終わりは何を意味するのか?
全てを覆す政府がとった政策とは?
そして彼女の愛が向かう先は?

ここまで、結構なネタバレと思われたかもしれませんが、私の心が大きく揺さぶられたのはここからです。

あらすじはこう締めてあります。
大橋さんに、考えてみて!と言われてる気がしました。

ミサキとケイプリアンを通してこの世の正当性を問う

ミサキミラー あらすじより抜粋

ここから下は私が考えたことになります。
ネタバレはありませんが、私に影響されることなく、純粋に作品を感じて頂きたいので、先に ↑↑↑↑↑↑ を読んでから、また来て頂けたらと思います。

最近お気に入り、@mohanmoller さんの
ゴールドレインをエンディングテーマにどうぞ。

では、後ほど。


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おかえりなさい。

ミサキミラーを読んでる最中、そして読み終えてからも、私はヘミングウェイを思い出してました。

彼は、第一次世界大戦で負傷し、その戦争体験で失った価値観ゆえ、ロストジェネレーション(失われた世代)と呼ばれた作家です。
彼の作品には戦争を題材としたものもありますが、題材に関わらず描かれてるのは、死の恐怖でも、愛する人に逢えない悲しみでもなく、
一夜にして、なんなら一瞬で、
全てが無になる事が常に側にある、
と言う現実です。

ミサキミラーにも同じ香りを感じました。
私が知る言葉で一番近いのは虚無です。

ベトナム戦争から帰還した兵士が、普通の人と同じような日常を送れず、今も苦んでおり、ドラッグに手を出すことがあるという話も耳にします。

ベトナム戦争の帰還兵を描いた映画ランボー(1作目)は、彼が抱える苦悩と、それを理解されない孤独、その一端を知ることが出来る希少な映像作品で、同じ香りがします。

私には、こうしたお話から想像するしか無いのですが、虚無とかトラウマとか、一言で片付けくようなものでは無いことだけはわかります。
一言で片付かないからこそ、物語として残すのかもしれません。

ここで戦争を語りたいわけではありません。
先ずは、現実を見ようと言いたい。

現代社会で、全てを無にできるといえば核兵器でしょう。
ひとたび落とされれば、そこにあった命も生活も文化・文明も全て無と化し、そこに人の思いが介入する余地は一切ありません。
非人道的兵器として世界的に減らす話し合いがなされているものの、抑止力という名目で今も存在してます。

こんな恐ろしいものさっさと無くせばいいじゃないか。
その通りだし、世界の過半数以上の人が無くなることを望んでることでしょう。
ただ、民族、生き方、考え方が違う人が一緒に暮らしてる以上、お互いが納得できる妥協点を見つける必要がある。それが叶わないとなれば、喧嘩するしか無くなり、あとは最悪を待つだけになります。

これが、私達のすぐ側にあり、いつでも起こりえる現実です。

恐怖心を煽りたいわけではないので、ポジティブな話もすると、
第二次世界大戦以降、どこかで核実験は続いているものの、戦争には使わていません。

これも、現実です。

これは、抑止力という仕組みが機能しているとも言えますが、どこかの誰かが考え続け、最後の一線を超えないよう食い止めてくれているからだと思ってます。
仕組みだけでは守りきれません。
結局、最悪のボタンを押すも押さないも人ですから。

ミサキミラーに話を戻します。

ケイプリアンとの約束を貫き通し、クライマックス、最後に取ったミサキの行動は、救いになりました。

受け入れがたい現実を目の当たりにしても、多角的に現実をみつめ、考え続けて欲しい。そして、自分に出来ることをやって欲しい。
こんな願いが込められてると感じました。

ヘミングウェイ、ランボー、ミサキミラー。
いずれも、善悪良心・正義といった言葉だけで語れない作品です。
是非読んで、自分と会話し考えてみてください。


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