木造音楽室の音響・防音効果の最適化
近年(約5年間)の担当現場の事例分析を加えて、木造防音室(ピアノ・ヴァイオリン・金管楽器・ドラム・チェロなど)の音響・防音効果の最適化について検証してきました。この記事は、音楽防音室の新築又はリフォームを検討している施主および建築士に読んでいただければ幸いです。
木造音楽室の課題をクリアするには、いくつかの条件がありました。「木造軸組在来工法の現場に絞り込む」「音域(周波数帯)の広いピアノ室の分析」「木製品と防音材の組合せ研究」という主に3つの視点・研究対象に限定しました。
ツーバイ工法を除外したのは、費用対効果が計測しにくい事と、プロの音楽家は大半が、音響と間取り変更の自由度を考慮して木造軸組在来工法で音楽室を作るという2つの理由からです。(※もちろん、ツーバイ工法にも共通して適用できる重要事項を含んでいます)
特に、新築を計画している施主向けの情報として、この記事を投稿しますが、現在更新中の防音職人情報サイトの重要なコンテンツのベースとして関連付けます。※随時、色々なページにこの記事のリンクを付けます。
木造軸組在来工法とピアノなど音楽室
新築業者が木造音楽室に慣れていないと、色々な問題が計画段階から起きます。まず、使用する断熱材を発泡材仕様にしようとしますので、リスクを説明することから始めます。
そして、木造音楽室の特長を石膏ボードを厚くしたり重ねて量を増やそうとして台無しにしますので、これを必要最小限に抑える提案をします。特に狭い部屋を音楽室にする場合は、石膏ボード仕上げは音響の面で致命的になります。
石膏ボードは、あくまで表層の奥の下地材のみに限定します。耐火基準をクリアできる範囲で調整することになります。
住宅の生活防音、ピアノやヴァイオリン、チェロなどの防音室に対して、木造軸組在来工法の換気・通気が不利に作用することはありません。むしろ、床下換気の機能を遮断して潰すことのほうがリスクが大きくなります。
木造軸組在来工法の建物は適正な防水と合わせて、床下換気、壁内などの通気機能によって、建物の寿命を伸ばし、木部などの劣化を抑える伝統的な木造建築です。防音構造と換気・通気機能は問題なく区分したり、複合化することが出来ます。将来のリフォームにも容易に対応できる可変性に富んだ優れた工法です。
音響・周波数帯と木造ピアノ防音室
木造音楽室の中で、ピアノ防音室が難易度が高いのは、ピアノ音の主な周波数帯が、低周波の約30Hzから高い周波数の約4200Hzを主成分とする幅広い音域特性を持っているからです。
音響と防音効果のバランスを調整しながら、木造の特長を活かす仕様書・工法、細かい施工要領を組み合せることになります。高性能な防音材を活かすためには、音の周波数帯や木製品を含めた素材の特性を経験則と分析データから読み解くことが重要になります。
提示する設計仕様・工法はシンプルなものですが、コロンブスの卵のようなものであり、説明されれば施主だけでなく、現場を担当する建築士・職人の誰もが理解できるようになります。
ですが、考えるべき要素が多いのが、木造音楽室の特徴とも言えるでしょう。設計マニュアル化するのが、とても難しい分野です。
音の周波数帯に着目した建築材料や防音材の効果、天井裏・壁内・床下の通気層(空気層)における音の減衰などに着目した設計・施工が必要です。
力任せに遮音材を多用し、部屋の内側に空気層を大きくとる手法では、構造体への過大な負担をかけ、空間を狭くすることになり、費用も嵩みます。
高い周波数の音は、音源からの距離に応じて減衰させることができ、吸音材などの活用で効率的な防音効果を出すことができます。
また、低い周波数の音でも、音源に近いコンパクトな遮音・制振層によって減衰効果を高めることが可能です。
ピアノ室の設計仕様は、大半の楽器防音室(音楽室)に適用できますので、これが基本になります。昔は、小中学校などの音楽室における色々な工夫が経験則として生かされていました。現在でも、木造音楽室に継承されている仕様があります。
木製品と防音材の組合せ研究
音響と防音効果に大きな影響を与えるのが、木材の軸組と下地の木製品です。そして、木製品や軸組木材と相性の良い防音材を組み合せることが、費用対効果と最適化に重要になります。
このことは、どんな設計マニュアルにも記載されていませんので、担当実例の経験則によって音響・防音設計を調整することが、木造軸組在来工法の特長を活かすことに直結します。無垢材・合板など木製品の特性や相乗効果を把握していないと仕様書そのものが作れません。
経験則および木製品のデータなど資料をストックしたり、担当する現場の職人や木造建築士から提供される情報をフィードバックさせて総合的に評価することが必要です。これが木造現場の基礎研究になります。
防音材の特長だけでなく、現場の基礎研究や音測定を地道に積み重ねて得られたものが「木造音楽室の音響・防音設計に関する仕様書・施工要領」になります。
机上の理論を現場経験や実例報告をもとに補正することが、木造音楽室(防音室)の生命線です。机上の簡易的な遮音・音響計算式が通用しないマニュアルの世界です。人間の手仕事で調整する設計・施工技術と言っても良いかもしれません。
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