防音業界の技術革新とは何か
今回は分譲マンションと木造建物の防音設計に関する技術革新とは何かというテーマです。ご紹介する2つの防音課題・設計仕様は防音職人が力を入れて開発した防音設計の技術です。
分譲マンションについては、東日本大震災以降において、既存天井スラブに吊金物増設を目的としたインサート増設(孔開けによる金物取付)は原則として認められなくなっています。このため、管理組合理事会への工事申請に伴う設計図・施工図に詳細を明記することが条件となっており、二重天井及び下がり天井の改造は難易度がかなり高くなりました。
一方、戸建てなど木造建物における生活防音や音楽防音室の施工については、建築費および土地価格の高騰によって、建築面積だけでなく延床面積を大きく確保するような物件は少なくなっています。
このため、自宅の寝室や音楽防音室の部屋面積は小規模なものとなり、分厚い防音構造を構築する従来型の古い防音設計は通用しなくなっています。
これらの問題を技術的にクリアすべき、防音設計・施工の技術革新が必要となったのです。
分譲マンション二重天井の防音構造
現在のマンションの天井防音工事は、原則として天井スラブに金物を使用して孔を開ける事はできません。※インサートを増設することは不可能。
別の記事で、マンションの通常の二重天井構造は低周波音の共振体になることを述べました。主に天井裏の空気層が共振して増幅される周波数帯が生じます。同時に上階からの重量衝撃音は、既存天井の空気層だけではなく下地の軸組及びボードを共振させながら透過します。
これが、足音や重量物の衝撃音が階下に伝わる基本的なメカニズムとなっています。まさに共振体の装置のようなものです。
この問題に対処するには、既存天井を改造して、天井スラブと軸組が接触しない防音構造を構築することが必要です。※部分的な既存インサートを活用した吊金物は、既製品の防振ゴム仕様の金物を使用できるほど天井裏の深さ(フトコロ)を確保できない場合が大半です。使用できる金物は限定されます。軸組を新規に構築する場合でも、出来る限り共振・固体伝播を抑える細かい工夫が必要となります。
また、空気層の共振を抑えるためには、上階からの音を吸収する吸音材が不可欠です。使用する吸音材は、騒音の主成分である低音域の吸音率が高い製品を使用する必要があります。※グラスウールは不適格。
以上の内容を踏まえた防音構造こそが防音設計の技術革新の一つです。
小規模な木造音楽室・防音室に対応する工法・設計仕様
木造音楽室における音響と防音効果のバランス型の防音設計は、防音職人の特長を示すもので、構造的な仕様・施工要領として実践経験と防音設計の理論をコンパクトに凝縮した成果です。
約30年間、防音業界が技術革新を怠ってきた分野ですが、私が独立開業後約20年間かけて、担当現場における実践経験と先人が築いてきた伝統的な工法、取引先が開発した防音材製品の施工要領などを総合的に勘案して設計仕様として確立しました。
主に建築工法は音響および共振軽減に深く関わり、特に床や壁に衝撃音を発する楽器(ピアノ・マリンバ・ドラム・チェロ・コントラバスなど)の場合は、木造に関しては軸組在来工法一択になります。
*ツーバイ工法や軽鉄軸組併用型の工法は相性が悪く、防音対策の費用が嵩むのでご予算を圧迫するだけでなく、将来の間取り変更やメンテ・改修についても、かなり不利です。
また、硬質遮音材(遮音パネル・ALCパネルなど)の板状製品はコインシデンスによる遮音低下を起こす周波数帯があるため、木造防音室に関してはパネル製品ではなく、現場施工で建築材と防音材を組合せて施工する必要があります。適した施工要領とセットで防音設計の施工説明図と施工手順等指示書を作成することが不可欠です。
※参照ページ:防音設計とコインシデンス
防音職人では防音設計における施工説明図・仕様書・施工要領の中に、従来型の分厚い防音構造から脱却するためのコンテンツが収められています。
なお、小規模な木造音楽防音室は、全ての壁面を厳重に防音すると音響が最適化できなくなるので、必ず、1面だけは適度に音を透過させることが望ましいです。部屋を狭くしないコンパクトな防音設計の留意点となります。
このため、特に新築木造建物は、計画段階から最適な位置に音楽室を配置するように調整することが重要になります。
技術革新と言えども、万能ではありませんので、建築計画における工法選択や間取り調整はとても重要です。