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作品の一番最初のファンは誰か

むかし、ある映画制作の現場で、監督が編集者に厳しい口調で指摘されているのを目にしました。

あるシーンの編集プランが固まって、監督が、

「よし、これでいきましょう」

と言ったところ、編集者が熱を帯びた口調でそれに待ったを入れて、別の案を提示してきたのです。

監督と編集者の議論は白熱してきました。

僕も含め周囲の他のスタッフは、黙ってそれを見守っていましたが、中には、

「これでいいでしょう。もうこれでいきましょうよ」

と言いながら、一刻も早く仕事を終えて家に帰りたがっている人もいました。

監督と編集者の議論が終わり、ようやくその日の作業は終了となりました。

その帰り道、僕が監督に、

「編集の○○さんにいろいろ言われて苦労しましたね」

と言ったら監督が、

「やまちゃん、それは違うよ。○○さんがいろいろ言ってくれて僕は嬉しかったんだよ。編集を含め映画に携わるスタッフというのはみんなそのプロジェクトのために集められた雇われ人だから、自分の仕事が終わったらさっさと帰りたいはずなんだ。それなのに○○さんは、僕がよしと言った後もアイディアを出してきたよね。それは、彼がこの映画をもっと良くしたいと思っている証拠であり、この映画に夢中になっているということなんだ。まず作る側が作品に夢中になって、作品の一番最初のファンにならなければ、多くの人に愛される作品にはならないと思うよ」

とおっしゃいました。

その時の監督の言葉が、今でもとても心に残っています。

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山谷 知明 Tomoaki Yamaya
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