「フリーランス新法」について思うこと
こんにちは。サウンドブリックスの上野です。
僕は普段フリーランスとしてテレビなど映像に音をつける「音響効果」という仕事をしています。noteではお仕事に関わることや関心のあることなどを書いていこうと思っています。
2023年4月28日に、「フリーランス新法」とも呼ばれる新たなフリーランス向け法案が成立したことを、皆さんはご存知でしょうか?(詳細はフリーランス協会のホームページでご確認いただけます)正式には「特定業者による取引の適正化等に関する法律」と名付けられており、今から1年以上先に施行される予定とのことです。僕自身もフリーランスとして活動していますので、この新法について自分の思いを書いていきたいと思います。
近年、働き方の多様化に加えてコロナ禍によるリモートワーカーの増加が見られます。それに伴い、フリーランスの数も年々増加しているように感じます。これは音効業界でも例外ではなく10年ほど前と比べると、質の良い機材が手ごろな価格で手に入るようになったことや、リモートワーク用のインフラが整備され、インターネットの速度も上昇したことが要因として挙げられると思います。また、終身雇用の時代が終わりつつある現在、フリーランスに注目している方も増えているのではないでしょうか。
「フリーランス新法」は、フリーランスが増加する一方で未払い等のトラブルも増えていて、その結果、立場が弱い事業主を保護しようとする目的で制定された法案です。ちなみに僕自身は会社員時代から未払いに遭遇したことは一度もありません。音効業界では報酬の体系が確立していなく、契約書もない世界です。「今回のギャラはこれくらいでどう?」というようなざっくりとした話し合いで報酬が決まることが多いのです。一般的な企業では考えられないかもしれませんが、これが我々の慣習です。しかし、これまで未払いやその他のトラブルがなかったのは、恵まれたお客様のおかげであり、また放送業界における「信用」が重要な要素となっているからだと思っています。
フリーランス新法で何が変わるのか?
税理士河南先生のYouTubeチャンネルで分かりやすく解説されていたので、僕も勉強の身ながらこちらを参照しつつ見ていきたいと思います。
誰に影響があるのか
この法律が影響を与えるのは、主に二つのグループです。
保護される側: フリーランスやその法人、従業員がいない企業など、特定の受託事業者と呼ばれる人々です。彼らは法律により保護されます。
保護する側: 特定の委託事業者、つまり仕事を依頼する側であり、フリーランスや法人、中小企業などが含まれます。彼らには、フリーランスを適切に扱う義務が課せられます。
ただし、一般消費者と事業者との取引はこの法律の適用外です。つまり、主に事業者間の取引がこの法律の対象となります。
新法によって何が変わるのか
この法律の施行により、次の二つの大きな変化が生じます。
書面による条件提示の義務化: 依頼する業務の内容、報酬の金額、支払い期日など、仕事の詳細を書面で明確に提示する必要があります。これにより、口頭での業務依頼はNGとなります。
報酬の支払い期日の設定: 業務完了または給付受領の60日以内に報酬を支払うことが義務づけられます。
違反したらどうなるのか
この法律に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、または厚生労働大臣から助言や指導を受けることになります。具体的には以下のような行為が禁止されています。
受託用の拒否
報酬の減額
著しく低い報酬の設定
これらを違反行為としているほか、命令違反や検査の拒否などに対しては、50万円以下の罰金が課せられます。
ざっとまとめるとこんな感じです。一口にフリーランスといってもいろんな業種があるとは思いますが、僕のようなクリエイティブな業界で働く方は特に多いのではないでしょうか。施行自体はまだしばらく先なので今後も色々と整理されていくとは思いますが、個人的にはフレキシブルな働き方が求められるクリエイターにとっては「まだなんともいえない法案」と感じてしまうのです。
たとえば「最初に報酬や期日等の条件を提示する」というものがありますが、報酬って最後までやってみないと決められないことも多いと思うんです。修正がどのくらいあるのか、期間が思っていたよりも長引いてしまった…など。また支払いの期日も孫請けで仕事を請け負ったりすると発注元の支払いが終わってからフリーランスの元に支払いがされることもあるため、作業してから報酬の支払い期間が数ヶ月あいてしまう、なんてこともあるでしょう。これではフリーランス新法になぞらえて「業務完了または給付受領の60日以内に報酬を支払う」というのも困難かもしれません。
この法案によっていろんな条件がつけられることによって保護されるフリーランスには頼みにくい、という企業だってあると思います。僕ももし同じ仕事内容、同じスキルの人であれば、「保護されていない事業主」に発注するかもしれません。そうなってしまっては本末転倒ですよね。保護されるべき人がこの法案によって保護されなくなってしまう…。正式に法律が施行される前にしっかりと現場の意見を吸い上げて欲しいなと心から願います。
ちなみに僕は「保護されない」フリーランスにあたるのですが、逆に安心しています。フリーランスの強みってフットワークの軽さや柔軟性だと思うので、それが活かせなくなったら働きにくいと思うからです。
気になることがあればまたフリーランス新法について綴っていきたいと思います。フリーランスの皆様のご参考になれば幸いです。
それでは今日はこの辺で。