クリント・イーストウッド『クライ・マッチョ』にある癒し

クリント・イーストウッド監督・主演の『クライ・マッチョ』を観てきました。

私自身クリント・イーストウッドの大ファンで、あの唯一無二の渋さと
老いてもなお面白い映画を作り続けてくれるところに心底痺れます。
齢90を超えた彼が作る映画はどんなものだったのか。

・どんな映画?


舞台は1980年のアメリカ、テキサス。
イーストウッドが演じるのは、かつてカウボーイとして栄華を誇りながらも
落馬事故により引退、家族も失ってから失意のまま生きるだけの老人「マイク」。
あまりの荒んだ勤務態度から、長年勤めた牧場からも首にされる始末でした。
そんな中、元雇い主からとある依頼を引き受けることになります。

その依頼とは、遠く離れたメキシコに住む彼の息子、「ラフォ」を
テキサスに連れてくること。
分かれた妻から虐待を受けている疑いがあり、愛する息子を救いたいのだという…。
過去の恩から、半ば脅迫じみた形で依頼を受けることになったマイク。
無気力になった老人と、
心に傷を抱えた少年、
そして少年が唯一心を許す闘鶏「マッチョ」。
二人と一羽の、長いドライブの旅が始まる…
というのがこの映画のストーリーです。

・好きなポイント1 老人と少年の再生の物語

イーストウッドと「老人と少年」という組み合わせ、往年のファンなら『グラン・トリノ』を思い出すでしょう。
グラン・トリノは社会的なメッセージも強い映画でしたが、
今作はどちらかというと二人が支え合い、旅を通して立ち直ろうとする姿に焦点を当てています。
マイクは老いていく自分に落胆し塞ぎ込んでおり、一見ぶっきらぼうで不愛想な老人ですが、
長い人生から得た知見、カウボーイの仕事の中で培った動物との接し方をもとに、鶏のマッチョを通してラフォとの関係を縮めていきます。

対するラフォも可愛いんですよ。
母親からの虐待もあったとはいえ、ろくに家にも帰らず闘鶏で日銭を稼ぐ不良少年。
ところが父親が牧場主であることを伝えられると、馬や牛に囲まれる生活を想像して目を輝かせたり
比較的真っ正直に、自身の出自からくる寂しさを打ち明けてくれたりと素直な面も。
あんな荒んだ生活の癖に案外ヒネてないんだよなこいつ…

そんな二人が旅での経験を通し、寂しさを癒しながら立ち直ろうとしていきます。
大きな起伏のない非常にゆったりとしたストーリーなのですが、
不思議と退屈と思わず、穏やかさだけを心に残してくれます。

・好きなポイント2 鶏が可愛い

三人目の主役である鶏のマッチョ、この子がとてもおとなしくてかわいい。
もっとやかましく鳴き叫んでバタバタ動き回ってトラブルを巻き起こすのかと思ってましたが
レストランに入った時なんかも、椅子に置かれるとずっと大人しく座っているのにびっくりしました。
とてもかわいい…
先にも触れましたが、マイクが長年勤めたカウボーイという仕事。
荒馬を乗り回すロデオだけでなく、牧場に生きるあらゆる動物の面倒を見ることも含まれます。
当然鶏だってその対象に入るわけで。
マイクとラフォの間を繋ぐものとして、マッチョは大きな意味を持って行きます。

マッチョ以外にも意外と動物が出てきます。
これまで実際にカウボーイやガンマンとして多くの動物に触れる役を演じてきた、イーストウッドと動物の触れ合いが見れるのもこの映画の特徴でしょう。

・好きなポイント3 イーストウッドだから作り出せる空気

この映画本当にゆったりした作品なんですが、不思議と退屈さを感じないのは、イーストウッドの風景の切り取り方、空気の作り方が上手いからなのではと思います。
メキシコの大地を老人と少年が車で旅していく、その風景を眺めているだけでなぜかグッと来てしまう自分が居ました。
飯食ったり道路歩いたりしてるだけでやたら綺麗なシーンに見えてきてしまう。
イーストウッド、役者としても居るだけで雰囲気が出来上がってしまうのでズルい。


イーストウッドの映画って、「なんか分からないけどスゲーいい映画観ちゃった」って気分にさせてくれる
作品群だと勝手に思っています。
視聴後の満足感が凄い。


・総評

ここまで書いといて何ですが、今作イーストウッドのファンムービーとしての側面が非常に強いと思います。
出来事が基本的にイーストウッドの都合のいいように動いてくんですよね。
出てくる子供が最近のスマホにべったりなスネた子じゃなかったり、
最近のイーストウッド映画で顕著な、イーストウッドがなぜか若い女性に惚れられていい感じになるシーンがあったりとか…

それでもやっぱり流れてくる風景やシーンは美しいし、
心に傷を抱えた二人が旅を通して何かを取り戻していく、というストーリーは、見ていてほっこりさせてくれるものがあります。

ただ、ポスターのコピーにある「本当の強さを問う」みたいなのを期待していくとたぶん肩透かしを食らうかなーと… 劇中それに触れてないわけではないんだけど。
日本人、イーストウッドに本当の強さや正義を求めすぎなんじゃないですかね…
実際その辺の題材を扱った『許されざる者』とか『アメリカン・スナイパー』がヒットしちゃったのがなまじ悪い。


正月が終わって仕事が始まり、なんかちょっと疲れちゃったな…って週末を
十分に癒してくれる映画なんじゃないかと思ってます。

若干イーストウッド上級者ファン向けではあるけど、私は結構好きな映画でした。


・小話

今回は本当に「カッコイイおじいちゃんの元気な姿を見てほっとする」みたいな映画だったんですが、
過去数年の監督作では、実際の事件をもとにしたノンフィクション映画で結構見ごたえのある作品を作ってくれたりしてます。
『リチャード・ジュエル』は私けっこうオススメですね。
爆弾テロを阻止した警備員が、一転してテロの自作自演の首謀者だと疑われてしまい
唯一味方してくれた弁護士夫婦と共にFBIに立ち向かう、という映画です。
弁護士と容疑者のバディものとして見てもいいですね。
容疑者となった警備員のリチャードが、あまりの人の良さから次々と自分が不利になる行動ばかりとってしまい
最初冷静で優しかった弁護士が「お前よォ!!!!」ってだんだんキレ始める
シーンが面白い。

今日はこんなところで。

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