30年前に自分が書いた手紙を読みながらのタイムトラベル 〜スコットランド、湖水地方一人旅編(その2)〜
「30年前に自分が書いた手紙」シリーズ、前回に引き続き、初めて北の地、スコットランドや湖水地方を一人旅したときのことをもう少しだけご紹介します。太字の部分が手紙の抜粋です。
泥棒がいない町
「インヴァネスからスコットランドの西にあるスカイ島に移動しました。途中の景色はイギリス一と言われるだけあり、まさに圧巻でした」
ネス湖があるインヴァネスから最果ての島、スカイ島へ。そこでのことは手紙には書かれていないのですが、一つだけ印象に残っていることがあります。
いつもは旅先の民宿(B&B)では必ず家の入り口と宿泊する部屋の2本の鍵を渡されるのに、スカイ島の民宿のおばさんは家のドアの鍵1本しかくれません。部屋の鍵は?と聞くと、「このあたりには泥棒するような人は一人もいないから要らない」と、やや心外といった様子で答えてくれました。
言われてみれば、周りは旅行者以外は全員子供のときからの知り合いばかりで、しかも皆、純朴で正直者、というような土地柄。旅人だって、わざわざスカイ島まで泥棒しにくるような人はいません。自分はロンドンでの警戒心や緊張感をそのまま北の果ての地まで持ち込んでいたのだな、とちょっと恥ずかしくなりました。
スコットランドで日本の干物の味に出会う
スカイ島から今度はバスで5、6時間南下してスコットランドで一番大きな湖、ローモンド湖へ。ここではラスという湖畔の小さな村で一泊しました。
「・・石造りの小さな家が20軒位あるだけの本当にかわいい村です。私は少し丘を上がったところにあるB&Bを見つけました。これが大当たりで、丘の途中なので山にも行けるし、湖の眺めも良いのです。」
「ここの奥さんが気さくで本当に良い方で、一人部屋がないのにツインの部屋を一人分のお金で泊めてくれました。朝食も、毎朝ベーコンエッグで飽きたでしょう、とニシンの燻製(キッパー)を出してくれました。これがなかなか美味で、日本の鯵の干物のような味がしました。毎朝B&Bの朝食は本当に素晴らしいのですが、さすがに毎日だと飽きるので、奥さんの心遣いはとても嬉しいものでした。」
キッパー(kipper)とはニシンの燻製をグリルしたもので、かつてはイギリス全土で朝食に食されていたものらしいです。今でもロンドンのお魚屋さんやスーパーで売っていますが、最近はキッパーが何かを知らないイギリス人も増えたということがこちらの記事に書いてありました。
私はその時がキッパー初体験で、思わず「これ、日本の朝食と同じ味です!」と叫んでしまいました。日本人としては、「これで炊き立てのご飯があったら最高なんだけどなー」と思いながらも、トーストと共に美味しく、そしてありがたくいただきました。
湖水地方でヤギになる
その後はスコットランドに別れを告げ、イングランド北西部の湖水地方に南下。
「・・湖水地方に来て町中をうろうろしても仕方ないので、バス・ツアーに思い切って参加しました。これが成功で、マイクロ・バスなので狭い山道にもどんどん入っていけます。美しい場所を説明を受けながら効率よく見ることができました。途中綺麗な場所があるとバスを停めてくれたり、小さな宿屋でお茶を飲んだりと楽しいツアーでした。」
「マウンテン・ゴート」(白岩ヤギ)という旅行社がやっているこのマウンテン・ゴート・ツアーは、今でもまだやっていて、数年前に湖水地方を再度訪れたときにも迷わず参加しました。自家用車でも入れない所なども、ヤギさんのようにどんどん入って見せてくれるツアーで、おすすめです。
30年前の願いが叶っていたことに気づく
20代の頃に両親に宛てたこれらの手紙の中で、「いつか〜してみたい」などと書いてある箇所があります。そんなことを願ったのはすっかり忘れていましたが、今読むと、「このときの願いがいつの間にか叶っていた」と気づくことがあります。
願いと言っても些細なことですが、例えばバスの移動中に風光明媚なスコットランドの景色を眺めながら、そのときの私はこんな風に思っていました。
「・・・山や谷を走り抜けると急に美しい湖が現れたり、と次々と景色が変わります。次に来る時は車で来たい、と思わせるような素晴らしい所でした。バスや電車で移動すると、好きな所で止まれないので少し残念です。」
それから20年位経ち、回り回ってまたなぜかイギリスに住むことになりました。6年前に再度スコットランドを訪れた際には、自家用車でゆっくりと周り、感動するような絶景の場所では自由に車を止めて、という旅をすることができました。30年前にそうしたかったので、というのではなく、自然にそうしていたのですが、今回手紙を読み返してみて「あっ、あの時の願いが叶っていた」と気づいた、というわけです。
* * *
かなり欲張って短期間で色々な場所を回った北の地への旅も終わり、その後また仕事の日々が始まりました。今回の旅行の報告の手紙は、「会社の同僚たちに旅のことを話すと『すごいエネルギーだね』と呆れられたこと」「旅が終わったのでとうとうダイエットを始めたこと(笑)」などが書かれて終わっています。
それにしても、2023年の現在、9日間自由に一人旅をしておいで、と言われたら同じような気楽さと元気をもって体験に飛び込むことができるのだろうか、と考えてしまいます。今の私も昔の私に「すごいエネルギーだね」。そして、「そういう私が自分の中にいることを思い出させてくれてありがとう」。
また機会があれば、別の旅について書いた手紙のことなどもご紹介したいと思います。ここまでお読みくださりありがとうございました。
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