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 「草野心平」という詩人を知ってはいたが、詩集はもっていなかった。先日、古書店で目にとまり入手した選集を紐解いたもののピンと来ず。少し検索してみたら詩がみつかった。

 「つきない時間のなか」の「かなしい湖」か。「かなしい」は、どの漢字を思い浮かべているだろう。うれしかなし涙が、かなしうれし笑みが、ひとつに溶け合い、太陽さんさん。

自然と人間のなかにはいると。
そのまんなかにはいってゆくと。
かなしい湖が一つあります。
その湖がおのずから沸き。
怒りやよろこびに波うつとき。
かなしみうずき爆破するとき。
わたくしに詩は生れます。
日本の流れのなかにいて。
自然と人間の大渾沌のまんなかから。
わたくしは世界の歴史を見ます。
湖の底に停車場があり。
わたくしは地下鉄にのって方々にゆき。
また湖の底にかえってきます。
なきながら歌いながら。
また歌いながらなきながら。
つきない時間のなかにいます。

詩集「大白道」序詩 - 草野心平