生地
昼間とは打って変わった姿を現す人気のない静まり返った夜の街。どちらが本当の姿なのだろう、なんてことを人気のない早朝の山を思い出しつつ。昼になればごった返す山でも、朝はとても静かだ。どちらが本当の姿かは言うまでもない。
見渡すと、電車から見える富士山に感動しているのはどうやら俺だけのようだ。「富士山が綺麗ですよ」と声をあげたくなるが、皆スマホとにらめっこ。毎日見てますって? 失礼しました。俺だって富士山に登る前はそうだったろう、と。
『人生の謎とは一体何であろうか。それは次第に難かしいものとなる、齢をとればとる程複雑なものとして感じられて来る、そしていよいよ裸な生き生きとしたものになって来る』というサント=ブーヴの言葉を小林秀雄さんが引用している。
『人生の謎は深まるばかりだ。併し謎は解けないままにいよいよ裸に、いよいよ生き生きと感じられて来るならば、僕に他の何が要ろう。要らないものは、だんだんはっきりして来る』と続くが「解けているではないですか」と言いたくなる。
要不要を選択できる場合とできない場合があり、どちらも捨てがたいなんて時もある。「人生に無駄はない」なんて言葉を見かけるが少し押し付けがましい。「言」と「迷」が並んで「謎」か。言葉の、心の源泉。自然は常に無言である。
"Nature takes its course" という成句がある。「自然の成り行きに任せる」という翻訳が多いようだが「自然」を深掘りするほど響きが変わってくる。以前「自然」は動詞なのだ、と書いた。約37兆個の細胞は常に、黙々とはたらいている。