トヨタ子会社、下請法違反で公取委から勧告を受ける
2024年7月5日、公正取引委員会(以下「公取委」)は、株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(以下「TCD」)に対し、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」)に違反する行為が認められたとして、勧告を行いました。本記事では、TCDが行ったどのような行為が下請法違反と判断されたのか、またその根拠条文や同社の対応について説明します。
1.下請法とは?
下請法は、下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的として定められた法律です。
親事業者(本件の場合、TCDが該当)とは、以下のいずれかに該当する事業者を指します。
・資本金3億円を超える法人
・資本金1千万円超3億円以下の法人に製造委託等を行う事業者
・資本金5千万円超1億円以下の法人に情報成果物作成委託および役務提供委託を行う事業者
また、下請事業者とは、以下のいずれかに該当する事業者を指します。
・資本金3億円以下の法人
・個人事業者
2.親事業者の義務・禁止事項
親事業者-下請業者間での取引においては、親事業者には以下の義務・禁止事項が課されます。
(1) 書面の交付義務(下請法第3条)
親事業者は、下請取引の際に、取引内容を明示した書面を下請事業者に交付しなければなりません。
(2)受領拒否の禁止(下請法第4条第1項第1号)
親事業者は、正当な理由なく下請事業者の給付を拒んではいけません。
(3) 下請代金の支払遅延の禁止(下請法第4条第1項第2号)
親事業者は、下請代金の支払を遅延させてはいけません。
(4)下請代金の減額の禁止(下請法第4条第1項第3号)
親事業者は、正当な理由なく下請代金を減額してはいけません。
(5) 返品の禁止(下請法第4条第1項第4号)
親事業者は、下請事業者の責任でない理由で給付物を返品してはいけません。
(6) 買いたたきの禁止(下請法第4条第1項第5号)
親事業者は、下請事業者に対して不当に安い価格での取引を強制してはいけません。
(7) 購入・利用強制の禁止(下請法第4条第1項第6号)
親事業者は、下請事業者に特定の物品や役務の購入・利用を強制してはいけません。
(8) 報復措置の禁止(下請法第4条第1項第7号)
親事業者は、正当な理由なく下請事業者に不利益を与えてはいけません。
(9) 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(下請法第4条第2項第1号)
親事業者は、下請事業者に対して有償で支給した原材料等の対価を過度に早期に決済させてはいけません。
(10) 割引困難な手形の交付の禁止(下請法第4条第2項第2号)
親事業者は、割引が困難な手形を下請事業者に交付してはいけません。
(11) 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(下請法第4条第2項第3号)
親事業者は、自己のために下請事業者に金銭、役務その他の経済上の利益を提供させてはいけません。
(12) 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(下請法第4条第2項第4号)
親事業者は、正当な理由なく、下請事業者に対して給付内容の変更ややり直しを要求してはいけません。
(13) 書類の作成・保存義務(下請法第5条)
親事業者は、取引に関する書類を作成し、保存しなければなりません。
(14) 下請代金の支払期日を定める義務(下請法第2条の2)
親事業者は、下請代金の支払期日を明確に定めなければなりません。
(15) 遅延利息の支払義務(下請法第4条の2)
親事業者は、下請代金の支払が遅れた場合に遅延利息を支払わなければなりません。
3.TCDの行為の概要
TCDは、自社が販売または製造を請け負う自動車の外装および内装用の製品の製造を、複数の事業者であって、資本金3億円以下の事業者(以下「下請事業者」)に委託していました。そして、TCDによる以下の2つの行為が下請法に違反していると、公取委により認定されました。
(1) 返品の禁止(下請法第4条第1項第4号)
TCDは、2022年7月から2024年3月までの間に、下請事業者から受領した製品について品質検査を行わないにもかかわらず、瑕疵(欠陥)があると主張して、下請事業者65名に対し、合計5,427万円相当の製品を返品しました。
この行為は、下請事業者の責任ではない理由で製品を返品することを禁止する下請法第4条第1項第4号に違反する、と判断されました。
(2) 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(同法第4条第2項第3号)
TCDは、下請事業者に自社が所有する金型や治具について、製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、2022年7月以降、下請事業者49名に対して合計664個の金型等を無償で保管させていました。
この行為は、下請事業者の利益を不当に害することを禁止する下請法第4条第2項第3号に違反する、と判断されました。
4.TCDへの要請
公取委がTCDに要請した対応事項は、以下の通りです。
(1) 無償保管費用の支払い
下請事業者に無償で金型等を保管させたことによる費用を、公取委の確認を得た上で速やかに支払う。
(2) 取締役会での確認
・製品の返品行為が下請法第4条第1項第4号に違反すること。
・金型等の無償保管が下請法第4条第2項第3号に違反すること。
・今後、同様の違反行為を行わないこと。
を取締役会で確認する。
(3) 下請法の遵守体制の整備
下請法の研修を発注担当者に対して行うなど、社内体制の整備を進める。
(4) 周知徹底と通知
上記の対応を自社の役員および従業員に周知徹底し、また取引先下請事業者に通知する。
まとめ
今回の勧告を通じて、TCDは、下請法の重要性を再認識し、適切な下請取引の実現に向けた改善を図ることとなりました。公取委の指摘を真摯に受け止め、再発防止に努めることが求められます。
企業、特に、一定規模以上の企業には、社会的責任を果たし、また、公正な取引を維持することが強く求められます。
自社の取引条件、取引実態が果たして下請法の要件を満たしているのか?これを明確にするためにも、定期的な社内精査の実行が肝要と考えます。
詳細は、公正取引委員会の公式ホームページ(公正取引委員会)をご参照ください。