言葉の呪縛:未来を閉ざす占い師の一言【鑑定小説】
これは、ある女性から聞いた話だ。
彼女がまだ中学生の頃、占い好きの叔母に連れられて地元の占い館を訪れたことがあった。古びた館には、静けさと重苦しい空気が漂い、薄暗い照明の中で、一人の年老いた占い師が彼女を待っていた。年齢は60代半ば、目の奥に冷たい光を宿したその男は、まるで彼女の未来を見透かすかのような視線を投げかけたという。
当時の彼女は、音楽に夢中だった。当時の人気歌手に憧れ、自らもピアノやギターを手に取り、日々音楽の世界に没頭していた。彼女の夢は、いつか歌手としてステージに立つこと。その希望を胸に、占い師に未来を占ってもらうことを期待していた。しかし、彼女の期待とは裏腹に、その占い師は古ぼけた本を無言でめくり、冷淡な口調でこう言い放った。
「あなたには、歌手の才能がない。介護師が向いている。」
その瞬間、彼女の心には寒気が走り、血の気が引いていくのがわかった。占い師の言葉は、まるで彼女の夢を真っ二つに切り裂く冷たい刃のようだった。何度も耳に響く「才能がない」という言葉は、深い絶望感を呼び起こし、まるで呪いのように彼女の心に深く刻まれた。
彼女は、その言葉を信じるしかなかった。占いの結果を信じた両親も、音楽の道を進むことに反対し、彼女は渋々介護師の道を選んだ。しかし、現実は甘くなかった。介護師としての厳しい日々は、彼女の身体と心を疲弊させ、毎日が重苦しい苦痛に満ちていた。激務の中で、人間関係に疲れ果て、休日さえも心休まることはなかったという。
占い師に言われた一言が、彼女の人生を縛り続けた。それはまるで目に見えない鎖のように、彼女の可能性を閉じ込め、未来を奪っていったのだ。しかし、数年後、彼女は別の占い師と出会ったことで、その鎖から解放されることになる。
「あんた、介護師になんか向いてないよw」
その気さくで飾り気のない一言が、彼女の心を揺さぶり、涙を誘った。ようやく、彼女は自分が本当に進みたかった道に気づいたのだ。占い師の言葉に縛られ続けた二十数年間から、解き放たれた瞬間だった。彼女は占い師としての道を選び、今では夢に向かって前進しているという。
しかし、彼女は今でもあの中学生時代の出来事を忘れられない。夢を断ち切られたあの瞬間を、そしてその後の苦しい人生を。それは、まさに呪いだったと彼女は言う。占い師が放った無責任な言葉が、彼女の未来を暗転させたのだ。
占いには力がある。しかし、その力をどう使うかは占い師次第だ。人の可能性を開く魔法となるか、それとも未来を閉ざす呪いとなるか。彼女の話は、占い師が持つその力の怖さを、私たちに教えてくれるものであった。
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