兄弟が並んで「トトロ」観る背中これでいいのだいいのだこれで
仕事帰りに寄ったスーパーで、1人の女性客に目が止まった。
自分でもなぜその人を注視しているのかわからないまま3秒経った。
妻だった。
すぐに気づかなかったのは、見た目のせいではない。
栗色ベースに青色メッシュを入れたボリューミーな髪の毛を後ろで束ねている。いつもの髪型だ。
白のロンTにデニム、リーボックのスニーカーにカーキのパーカー。いつもの服装だ。
今朝出勤したときの、そのままの妻だ。
ただ、場所が違った。
会うと思っていなかったところで偶然会った。
それだけで、一瞬知らない人のように感じられて、不思議な感覚がヒュっと入り込んできた。
今とは違う人生もあり得たんだという感覚。
違う人と結婚する人生、結婚しないという人生、他の仕事をしている人生、いろんな可能性があったのだ。
そんな中で僕がひとつずつ選んできた結果、今の仕事に就き、今の家族と、今の家で暮らしてるんだなぁ。
スーパーでたまたま妻に会って、なんだかそんなことを考えた。
「おお」
「いやビールなかったから」
「保育園は?」
「今から」
「ほな先帰っとくで」
「ご飯炊いといて」
「2合?」
「やわらかめな」
並んでテレビを観ている我が家の中トトロと小トトロの背中を見ていると、
やっぱりこれ以外の人生はあり得ないと思い直した。