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犬の系譜 ④

17.SNS時代の狩場

 セミナーで出会った同年代の女性がいた。その女性も同じ匂いがする一人だったが、その匂いがする時としない時がある。もしかしたら何かわかるかもしれないと思い、休憩時間にその女性に声を掛けた。
「お仕事ですか?」「いえ、友達に誘われて・・・」何か悩んでいる感じがしたので、セミナー後、お茶に誘ってみた。普通のOLだった。セミナーに参加した理由を聞いてみた。
きっかけは最近参加しだしたあるSNSグループからの誘いで参加したとのことだった。その女性は失恋をきっかけにそのグループへ参加をしていた。失恋の悩みだけでなく、いろんな悩みを持つ人たちが集まるグループだったので気を許していた。
最初は悩みやつらい思いを吐露してなぐさめ合う事が中心だったが、次第にオフ会とかに誘われることが多くなり、ある時断れずに参加した。
 そこではカウンセラーと称した男性が現れ、悩みを解消する活動を動画も交えプレゼンテーションしだした。それはとても巧妙な宗教への勧誘だった。その後、勉強会と称した会合で拘束されることが多くなり、巧妙にすり込まれる教義を信じる気持ちも大きくなりだした。
 啓蒙セミナーへの参加はその勉強会に関連する組織からの指示だった。SSNSのグループで知っている他の人も参加している様だ。セミナー参加料金は安くなかった。OLの給料では厳しいが、その組織からの指示なので断れない。貯金を取り崩しながらの参加に疑問を感じている。
また経営者や事業をしている他のグループメンバーにはセミナーの参加以外に、ある経営コンサルとの契約も指示されていた。古参女子の支援者の経営コンサルだった。
 彩里はその勉強会の組織の名前を聞いた。聞いたことのない組織だった。記者のネットワークを通じてようやくその組織が問題の教団と繋がっている可能性を見つけた。教団メンバーとカウンセラーの一人が名前は違うが同一人物だったのだ。
 後日その女性に組織の正体を話し、離脱することを勧めた。しかし、家族でもないので強くは説得できない。悔しいが、これ以上はどうしようもない。彩里はつらい思いをかみしめた。
 今まで調べたことを整理してみた、巧妙な金の流れだった。元総理次男の支援者のセミナー主催者も、古参女子の支援者の経営コンサルも事業自体は何も不審なところが無いように見える。きわめて普通の事業だ、しかし見方によっては何の変哲もないセミナーや特徴のないコンサルが事業として成り立っていること自体が不思議だ。セミナーの参加者や、コンサルフィーを払う顧客が例の教団の犠牲者なのである。
 いつの時代も弱者がターゲットになる、心に悩みを持つ人たちに巧妙な罠をしかけたSNSを狩場としているのだ。
 宗教勧誘だけではない、いまやSNSは狩場として無法地帯だ。匿名性に守られたアンダーグラウンドな連中が跳梁跋扈している。
 悪い連中はそういうところに目を付けるのが速い、教団への直接的な寄付や心霊商法と言われる商材の販売は今は出来ない。新たな集金手段としてセミナーやコンサルティング事業を活用していることが明白で、一種のマネーロンダリングとも言える。そしてそのお金が政治資金として政治家に流れている。見えてきた構図はそういう事だった。

18.闇の深さ

 今まで調べた内容は記事にできるレベルではなかった。決定的なファクトの裏付けが無い。
 そうこうするうちに総裁選はターゲットの二人ではなく総裁選常連の古参議員が当選した。彩里はある意味ホッとした。しかし、所詮保守政党である。同じ穴の狢でその宗教団体と関係が無いとは言い切れない。総裁選は間に合わなかったが、衆議院選挙が年内に控えている。争点は裏金問題と教団との関係だ。
 彩里は改めて与党と教団との闇を調べた。そもそも宗教組織とその時代の為政者は歴史上も切っても切れない関係だ。神道に始まり仏教系の伝統宗教は歴史的にも密接であり、現代になっても仏教系の新興宗教が政権与党に食い込んでいるのが実態だ。なので宗教組織が政治と関係を持つこと自体は大きな問題にはなっていない。問題はその宗教組織が反社会性を孕んでいることだ。
 例の新興宗教組織は、数十年前から大きな問題を抱えている。カルト的な行動から反社会的な問題を数知れず引き起こしているが、なぜか教団の名前を変えて国民の眼をだましながら現在まで存続している。
 信者から違法な金を吸い上げていることが問題になっているが本質はそこなんだろうか?社会問題化してマスコミで騒がれるのだが、いつも知らぬ間に沈静化して忘れ去られることを繰り返している。
 この問題を専門に追いかけているジャーナリストも何人か存在する。NETで調べるだけでかなりの情報に触れることが出来る。
 彩里は、元総理の襲撃事件で初めてその存在を知ったのだが、マスコミで繰り返す報道は闇の争点が違っているような気がする。もちろん信者からの法外なお布施の吸い上げは問題なのだが、闇の本質はその黒い教義や時の政権への深い入り込みだ。
 もともとの教祖はもう死んでいる。集団結婚式とか血分の儀式とか親の世代には大きく世間を騒がした。しかしその教義について今まではあまり言及してこられなかった。
 改めて調べてみるとその教義は恐ろしいものだった。
 キリスト教が原点なのだが、アダムとイブの原罪を教祖が清めるというのである。
 具体的に言うとサタンと不倫をしたイブの子孫をキリストに変わって教祖がセックスで清めるというなんとも陳腐なセックス教団が始まりなのだ。血分の儀式はここから始まる。怖いのは、教義の中で韓国は男性器、日本は女性器を象徴していて、日本はサタンとセックスして血が汚れたイブの国という建付けになっているということだ。さらに太平洋戦争時の韓国に対する植民地支配の贖罪(しょくざい)が十分ではないので日本は韓国に奉仕するため、日本人の財産は全て寄付すべきだ、というとんでもないことを堂々と言っている。
 こんな恐ろしい教義の組織が、あろうことか時の政府と繋がっていたとは国民への裏切り以外の何物でもない。教義は政教一致国家を謳う、反共産を旗印に、保守与党だけではなく、野党の一部にも勢力を拡大した。この数十年で日本の政治や世論の誘導は間違いなくあるのではないか。いまその教団は「家庭」という名称を組織名に入れている。そこからわかるように「家庭」「家族」という概念を異様に尊重する。教祖を「お父様」その妻を「お母さま」と崇めていることからもその価値観は想像できる。
 日本は「夫婦別姓」を制限している世界でただ一つの国だ。女性の社会進出も先進国中一番遅れている。これを誘導しているのは政治だ。またこれも明るみになったことだが、「家庭」を中心にした考えを推進する条例の制定が日本中の地方自治体で進んでいる。その中心となっているのは、教団と関係する議員だ。その中には現役の信者議員もいる。
 もちろん今は過去の黒い教義は巧妙に隠され、今の信者のほとんどは、もっともらしい教義を信じている。しかし、教祖が死んだだけで、組織は連綿と続いている。今もまだまだ深い闇が横たわっている。こんな状態が平然と続き、また、世間に忘れ去られることは耐えられない。彩里はなんとかその端くれでも白日に晒したいという思いが強くなった。

19.解散命令

 新総裁は前言を違えて、すぐに解散・総選挙を決めた。明言していた「総選挙は急がない」ということを180度方針転換した。支持率が大幅に下がるリスクを冒してでも選挙を急ぐ事情があるのだろう。
 例の教団問題は、解散命令請求が文科省から出され、東京高裁での審議が継続中だ。教団側は徹底抗戦の構えを崩さず、審議は長期化が見込まれる。
 審議の進捗がまったく聞こえてこないのも政治の関与が疑われる。その間にも闇に引き込まれる弱者が増加する。教団の信者の勧誘方法は巧妙だ。職業や政治信条は関係ない、誰もが抱える心の弱さに忍び込む。
 もし審議にかかわる人たちが信者に取り込まれたらどうなるのだろう、その可能性は十分ある。
 彩里はセミナーで知り合った女性に再び連絡した。その女性は教団とつかず離れずの関係が続いていた。間違っていると分かりながらも、自分の居場所がそこにできてしまうと離れることはむずかしい。
 その女性に彩里は正体を隠している、女性の紹介でその勉強会に潜入することにした。
勉強会は穏やかな雰囲気だった。ただカウンセラーと称する年配の男性含め、ほとんどのメンバーが同じ匂いを発している。穏やかで揺らぎが無い、間違いなく信者だ。
 人が抱えている悩みには原因があり、それを取り除くための活動が必要だというのが教義の基本だ、ありきたりのものだった。ただし、その活動が多岐にわたる。寄付金の多寡はどうもその信者の経済状態に応じて集金スタイルを変えている様だ、活動も巧妙にその人のできる範囲の事を設定させる。
 活動の特徴の一つは強力な布教だ。教義の中に布教が言明されている。古来、宗教はその教義に布教活動がどれくらい含まれているかどうかでその教団の規模が決まる。
 キリスト教やイスラム教はその教義に布教活動が含まれているので、これだけ世界に広まった。それに比べ古い仏教は布教活動を教義に入れていないのであまり拡大していない。
 この教団はこの数十年で10万人規模にまで組織が拡大した。いかに強力な布教活動をしているかがわかる。
 総選挙の日程がほぼ確定し、与党は懸案の裏金議員の一部非公認を決めた。しかし、教団関連に関しては争点にならなかった。総裁選決選投票で敗退となった古参女子は裏金対象ではないが、教団関連の広報誌のインタビューを受けた経験があり、関係を疑われる。そもそも「夫婦別姓」に反対する議員グループを立ち上げた張本人だ。
 教団にとって解散命令はどこまで痛手になるのか?宗教法人としての税制優遇や、活動は制限されるが、組織として継続させる手段はいくらでもある。彩里が参加した勉強会は今のところ表向きは教団とのつながりは見えない。教団を専門に追っかけている記者によれば共通のメンバーが行き来しているので関連は間違いないらしい。もしかしたら解散命令を前提に組織の受け皿の準備をしているのではないか?教団にとって寄付だけでなく集金活動をしてくれる信者が最大の資産だ。そしてその信者の受け皿としての勉強会組織を切り離して構築しているように見えた。

20.公安

 定年退職まであと2年となった時、段田は出向を命じられた。期間限定での警視庁公安部の捜査員だ。公安には社会不安を起こす可能性のある組織を専門に監視する部隊がある。
 段田の「鼻が利く」ことは警察庁全体に知れ渡っていたので、定年が迫った今、組織としてその能力を最大限に活用しようとしたのだろう。
警視庁公安部が監視する組織は多岐にわたる。その中でもカルト宗教の関連組織を監視している部門は、元首相の狙撃事件以来、担当するグループが強化された。例の教団を長年監視している担当がいるが、政権からの圧力もあり、事件が起こるまでは担当グループは解体されていた。
 しかし、教団の「解散命令」を控え、社会問題を引き起こすリスクが高まってきていることや、ここへきて保守与党内のパワーバランスの変化もあり、再度専任グループが組まれることになり、段田はそこに配属された。
 実は、元首相暗殺の数年前に教団がかかわったかもしれない大きな事件があった。国会議員「I氏」の暗殺だ。「I氏」は野党に所属していたが、一匹狼で独自の取材ルートで政治家の裏社会とのつながりを暴くことが得意だった。暗殺されたその日も、国会で質疑を行う予定であり、「国会がひっくり返るようなネタがある」と周りに話していた。
 その時世間では政権与党の政治家と例の教団とのかかわりが噂されていた。「I氏」はもしかしたらその決定的な証拠を握っていたのかもしれない。暗殺者は右翼のメンバーだった。「I氏」は右翼がらみのネタもつかんでいたので、その関連で怨みを買ったということに収まったが、公安は教団との関連を疑っていた。しかし暗殺者本人は自白をしない。いくら調べてもつながりが見えない。人間は嘘をつき通すことはできない。取り調べや、普段の行動の中にほころびがでる。しかし、そこに信仰が加わるとその嘘にほころびが出ないのだ。いくら調べてもボロが出なかったことの原因だったのかもしれない。
 段田は捜査員として、教団関連の組織を監視することになった。
段田にとって、対象が信者かどうかの判断は簡単だ。彩里と同じで匂いのモヤの揺らぎを見ることですぐにわかる。信者を見分けることで教団との関連を巧妙に隠された組織を特定していく。SNSグループのオフ会と称した勉強会が教団関連の疑いがあるとの情報をつかみ、段田はその会合中の喫茶店に調査潜入した、そのとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。姪っ子の彩里だ。段田は驚いて飲んでいたコーヒーを吹きこぼした。彩里も段田に気が付いたようだ。その場は会話することもなく別れた。その夜、彩里から段田の携帯に連絡が入り、とりあえず会って話をすることになった。

21.悪魔の密約

 人の嘘がわかると言うのは危険を回避する優れた能力だ。危険な人物や危害を加える言動は簡単に察知できる。彩里もこの能力がある限り、悪意を持って加えられる攻撃を回避できるので段田も彩里のことをあまり心配はしていない。
 顔を合わせると嘘はつけないことはわかっているので、駆け引きは無い。まずはお互いの知っている情報を交換することにした。公安が監視する組織の危険な行為とは、テロや社会不安を引き起こす擾乱活動だ、危険な教義を持つ教団の活動は目が離せない。
特に政権に対する政治介入があるとしたら言語道断だ。今までのところ、証拠を見つけるところまでは至らないが、政治権力との癒着は昔も今も存在することは確かだ。
 政治家から見て選挙協力が得られるという事が最大で、対価としての便宜を図ることが癒着の構図に見えるのだが、この教団との関係は、それだけでこんなに長い年月関係が続くものだろうか?それも総理大臣までなる政治家がリスクを感じながらも関係を続けるのは根底に何があるのだろうか?彩里や段田にとってもこの点が一番腑に落ちない。
 そもそもこの教団と政治家との関係は、元総理の祖父である東京裁判を生き延びた戦後間もないころの総理に始まる。政治家は良くも悪くも選挙がすべてだ。選挙で勝って初めて自分のやりたいことのスタートが切れる。そういうことなので選挙で勝つためには何でもするというスタンスが強い。その為かスピリチュアルな組織や人物に傾倒する政治家は多い。
 その元総理は山口県で有名だったあるスピリチャルな教祖に総理になることを予言されたところから宗教団体との関係が始まる。ちなみに今もその教祖の息子は教団との関係が問題になったが、保守与党で政治家を続けている。元総理はもともとそういうものに引き込まれる素養があったのだろう、その総理の東京の自宅の隣に例の教団の教祖が引っ越してきたところから関係が始まったようだ。
 悪魔のような稀有な人間は確かに存在する。心の底に歪んだ思いがあり、その思いを成すためにすべてを犠牲にできる。良心のかけらもない。根底に黒ぐろとしたモノがある上に、非常に頭が良く、また人に好かれる外見があり、本人もそれを充分認識していて最大限活用するいわゆる人たらしだ。そういう悪魔に人は魅了され餌食となってゆく。例の教団の教祖はそういう悪魔だった。もしかしたら元総理も同類だったのかもしれない。その二人が密約を交わした。おそらくそれは選挙協力だけではなかっただろう。権力者には裏の活動が存在する。元総理の裏の活動は教団が担っていたのかもしれない。
 元総理はそもそも戦前から閣僚をしていたような人物なので民主主義に馴染まない。彼は憲法の改正に執着した。もしかしたら戦前の軍事体制への回帰が最終目的だったのかもしれない。教祖が死んだあと教団の目的は歪んだ教理の拡大と組織の増殖になっていった、そしてその集金システムは先鋭化していく。元総理と教祖の密約は孫の元総理に引き継がれた。そして孫の元総理が凶弾に倒れた後、悪魔の密約はどうなったかはわからない、他の政治家の誰にも「引き継がれなかった」と思いたい。

22.サイバー戦

 いくら公安と言えども法を犯す行為が無ければ検挙は出来ない。政治への介入は明らかなのだが、証拠が無い。まもなく衆議院選挙が始まり教団と関係のある政治家は動きを活発にするはずだ。その動きを明らかにすれば、当然選挙に影響が出る、そして審議中の解散命令への影響も最大となるだろう。
 彩里と段田は目標を共有した。彩里はそのまま勉強会に参加し、詳細を段田に報告する。段田は公安が掴んだ情報を彩里に流すことで公安ではできない目標に進むことにした。
 勉強会に数回参加したときに彩里はカウンセラーから別の会合に誘われた。出席してみると予想通り教団の会合だった。参加者はすべて信者だ。幹部が登壇して挨拶をする。
 その中で青年部の紹介があった。その青年はいわゆる2世だった。さすがに信者ばかりなので嘘のゆらぎがほとんどなかったのだが、その青年だけ、時々揺らぎが見える。なにか迷っているように見える。
「初心者なので、少し教えてもらえませんか?」彩里は会合の後その青年に声を掛けた。「いいですよ」やさしそうなまなざしで青年は答えた。彩里は会話の中でいろいろと探りを入れる。長年の信者なのだが、集金のシステムと政治介入には疑問を持っている、揺らぎはそこから来ている様だ。
教団の中のヒエラルキーは絶対で、数名の幹部が活動を全て牛耳っている。事件後、教団は注目されるようになり、表立っただった活動はすべて休止している。しかし、実態は幹部の指示の元、秘密裡な活動は続いている様だ。
 集金システムの元となる信者のデータベースや、資金洗浄のための電子マネー口座の管理等々、ITでの管理がますます重要になってきていて、ハッカーの信者がシステムを秘密裡に管理しているとのことだ。ほしいのは政治家へのお金の流れと選挙協力の情報だ。
どの政治家に何を支援するのかは、幹部がすべて決めて指示を出す。今まではメールやSNSを使っていたが、漏洩を恐れて普通の手段は使えない。その為痕跡が残らないテレグラムを使うことにしている様だ。
 公安にもサイバー部隊がいる、幹部の携帯やパソコンのアドレス、メールは監視しているが動きは無い。おそらくそれらはダミーで裏のネットワークシステムが存在するのだろう。いよいよ衆議院が解散となり、選挙戦に突入した。そのタイミングで公安のハッカーがとある仮想通貨のサイトにハッキングし、教団関連の口座があることを突き止めた。ダミーサイトをいくつか経由して入出金の指示を出していた教団の隠されているIPアドレスもそこからいくつか探り出した。IPアドレスは教団の隠しサーバのものと思われた、隠れネットワークは強固なセキュリティが施され侵入が厳しい。彩里は青年信者とメール交換をしていた、段田の指示でそのメールにウイルスを添付し、青年のPCを感染させることに成功し、ついに隠れネットワークに侵入することが出来た。
 サーバには欲しかった情報が揃っていた。信者の情報や教団資産、そして支援をしている政治家のリストデータを入手することができた。保守与党の三分の一ぐらいの政治家が支援対象となっていた。

23.凋落

 サーバデータを詳細に分析することで、総選挙に支援が計画されている政治家とそれぞれへの支援内容が明らかになった、そこには支援金の詳細も記入されていた。その支援金は帳簿に載らない裏金だった。
これでこの選挙に関する教団と政治家の癒着の詳細が明確になった。彩里は公安から極秘裏にデータを譲り受け、文芸夏冬社に持ち帰った。
 社内は特ダネに沸いた。広く国民に開示し、選挙の判断にしてもらう為、最新号とWebでの速報を組むこととなった。特集では現在進行形の教団と政治家の繋がりだけではなく、過去の教団と政権との密約についても切り込んだ。
 文夏砲の影響は絶大だった。総選挙の争点は裏金だったが、そこに教団疑惑が重なり保守党は大打撃を被る。野党の一部の議員も加わって裏金議員+教団関連議員のほとんどが落選となり、保守与党の過半数割れでついに政権交代が実現した。
 公安は逮捕者こそ出さなかったが、信者リストに教団の解散命令審議担当の裁判官が含まれていることがわかり、審議メンバーから外されることとなる。過去の疑惑は明確にならなかったが教団のたくらみは未然に防ぐことができた。選挙後、裁判所の審議は進み教団に正式に解散命令が出ることになった。
 教団関連の国会議員が一掃されると、次に地方議員の追及が始まった。サーバから入手した情報には地方議員のリストも存在し、後日それも文夏砲としてあからさまになった。単に選挙協力のみで生き残れる議員もいたが、信者であったり過去に教義に沿った条例を提案した議員たちはほぼ一掃されることとなる。
 これで国内の教団組織はとりあえず一掃となったが、これで解決とはいかない。教団という組織で価値観を共有した人たちはそう簡単に現実に戻れない。O真理教の残党がいまだに残っていることからもわかる。しかし、引き続き公安から監視されることとなるので、もう派手な活動は出来ないだろう。

 世界中どの国を見ても政治と宗教は表裏一体だ。そして宗教によっては他宗教の価値観を否定することもある。世界中で起こっている紛争の多くは宗教に起因していると言っても過言ではない。ヒトは「心」という厄介なものを抱えている弱い生き物である、時に宗教はその弱さを補ってくれる。しかし、それを悪用する連中が尽きないのも確かだ。日本人は宗教心の薄い民族だと言われる反面、同調性バイアスが強いとも言われる。つまり強いカリスマに従い易い民族だともいえる。もしかしたら仏教という比較的価値観の強制が少ない宗教が日本中に広まったのは幸福だったのかもしれない。
 とりあえず教団の恐怖は去った。しかし、SNS時代の今新たな恐怖が増大している、陰謀論や意図を持った流言が大量に飛び交い、人々の判断力を狂わせているのだ。また耳ごごちの良い、ポピュリズムやナショナリズムが台頭してきていることも新たな脅威となっている。そういった雑音から逃れて強く生きていくためには、宗教とは違った新たな心の支えが必要かもしれない。     
                                   おわり

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