23.もっと地に足をつけて生きなさいな。/渡会さんは毒を吐きたい
本編
「来たわね」
「ここ、ですか」
二人は今、一つの鳥居の前に立っている。そこに記された名前は「来宮神社」。熱海駅から徒歩三十分ほどの位置にある神社だ。パワースポットとしても有名で、縁結びなどの効能もあるという。
「これ、あれですかね、インスタ映えってやつ。ねえ、渡会(わたらい)さ」
「何かしらコバエくん」
すすすっと距離を取る渡会(わたらい)。
「あの、渡会さん?」
「うるさいわねクロバエくん。とっとと映え散らかしなさいな。いっておくけど、そこに私を入れたら潰すわよ」
何をだ。
「もしかしてですけど、渡会さん、イン」
「大嫌いよ」
「スタとかって……あの、早押しクイズじゃないんで、ちゃんと聞いてからにしてもらえます?」
渡会は「けっ」と嫌そうにしながら、四月一日のもとに戻ってきて、
「いい、四月一日くん。インスタ映え~なんてやってる女は大体不細工なのよ」
「旅行先でやめません?」
またちょうどよく四月一日にしか聞こえないボリュームなのが質が悪い。周りにちょうど人がいないのも把握したうえでやってそうだ。
四月一日は、
「まあ過度にアピールするのは俺もどうかとは思いますけど……写真撮るくらいならいいじゃないですか、撮りましょうよ」
「え、嫌よ?」
普通に断られた。
「なんでですか。いいじゃないですか、減るもんじゃないですし……」
「嫌よ。写真なんて撮らせたら何に使うか分かったもんじゃないでしょ。どうせあれでしょ?今日のオカズが確保できたぜうへへって感じに思ってるんでしょう?」
「思ってませんよ……」
一体渡会の頭の中では四月一日はどうなっているのか。
「じゃあ、一緒にとかじゃなくていいんで、俺の写真撮ってくださいよ。スマフォ渡しますから」
「え、なにそのリア充的思考。蒸発すればいいのに」
「なんでですか……はい、これ。ここを押したら撮れますから。お願いしますよ」
それだけ伝えて鳥居の前まで行く四月一日。ところが渡会は暫くスマートフォンを持ったまま立ち尽くしていたかと思うと、
「すみません」
近くを通りかかった人に話しかけ、
「写真撮ってもらってもいいですか?」
持っていたスマートフォンを渡して説明をすると、とととっと四月一日のところまで駆け寄り、
「おい、なんで知らない人なんかに……なっ!?」
腕をつかむと、思いっきり胸元に抱き寄せ、
「いいですよー」
撮影役を任された老人は目元を緩ませ、
「ほっほっほっ……仲良きことは美しきかな。それじゃ、撮るぞ。はいチーズ」
パシャリ。
パシャパシャパシャリ。
何度かシャッターが下ろされ、気が付いたら撮影は終わり、渡会が老人にお礼を言ってスマートフォンを受け取っていた。
そんな彼女は四月一日の姿を見るとそれはそれは悪戯っぽい笑顔で、
「ちょろいわねぇ~……美人局とかに引っ掛からないように注意した方がいいわよ」
うるさいわ。
と、言うか、
「写真には写らないんじゃなかったのか?」
そんなツッコミに渡会はあっさりと、
「気が変わったのよ」
えらい簡単に変わるな、気。