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18.酒池肉林っていい言葉よね。/渡会さんは毒を吐きたい

本編

 ある日、背後から、

「はぁ~……ハーレムってどうやったら作れるのかしら」

 とんでもない言葉が聞こえてきた。

「……なんですか、突然」

 渡会(わたらい)は「どうしてそんな反応をするのかしら?」とでも言いたげな表情で、

「なんですかと言われても、そのままよ。ハーレムって作れないのかしら」

「なんでまたそんな発想に至ったんですか?」

「だって世の中ハーレムでウハウハの方が楽しいし受けるでしょ?だからさくっとハーレムを作ったら、受けるんじゃないかと思うのよ。そして私もウハウハ出来ていうことなし、と」

「言うことしかないですね……」

 渡会は不満げに、

「なによ。いいじゃない。私だって可愛い女の子から好感度マックスの視線を向けられてみたいのよ。分かるでしょ?この気持ち」

 分からない。

 とは流石に言いづらかった。

 そりゃ、もちろん、実現可能性を度外視すれば、ハーレムは悪いものではない。

 ただ、実際にはそんなことはそうそう起こりえるものではないし、好感度がマックスのまま一切動きもしないなんてのは幻想にすぎない。

 現に目の前に座っている、黒髪ロングのツンデレヒロイン然とした見た目の渡会千尋ちひろから四月一日に対する好感度マックスの視線は一切感じないし、ツンデレヒロインというよりはツンツンヒロイン(笑)といった塩梅で、ハーレム要員なんて夢のまた夢といった感じだ。

そして、四月一日(わたらい)が親しい、ヒロインと呼べる人間は彼女以外には存在しない。ハーレムなんてものは幻想にすぎないのだ。

 と、いうか、

「渡会さんってそっちなんですか?」

「そっち?」

「ほら、百合とかそういう感じの?」

「は?」

 疑問の声。

 割と地声だった。

 そんな反応をすることか。

 渡会は一つため息をついたうえで、

「別に私はレズじゃないわよ。ただ、可愛い子をはべらすのが好きなだけよ」

「そっちの方がより質が悪い気がするんですけど、なんでそんな自信満々なんですか?」

 渡会はきっぱりと、

「まあ、なんでもいいのよ。なんだったら下僕でもいいのだけど。そうだ、おまえ、私の犬にでもならない?」

「いつか言い出すだろうなとは思ってました」

 遂に出ちゃったよその台詞。

 渡会は嬉しそうに、

「あら。それならちょうどいいわね。ほら、お手」

 手のひらを向けてくる。四月一日はそれを突き返して、

「やりませんって。言うとは思ってましたけど、誰も犬になるとはいってないでしょ?」

 渡会は口をとがらせ、

「なんだ、つまらないわね。男ってのは犬扱いされて、踏まれると性的興奮を覚える生き物だと思ってたわ」

 謝れ。

 全世界のまっとうな性癖を持った男性諸君に謝れ。

 渡会は真剣に思案を続ける。

「だったら何がいいかしら……下僕……は駄目でしょうし……奴隷……はもっと駄目でしょうし……召使……も大して変わらないわよね」

 どうして君の思い浮かべるものは大体主従関係の「従」なんだい?

「執事……なんて出来るとは思えないし……メイド……は流石にないし……後残ってるのって何かしら」

 恐ろしいなこの人。

 本気でそんな関係性しか思いつかないのか。人を何だと思ってるんだろう。

 四月一日はぶつぶつと、

「別に色々あるでしょう。友達とか、恋人とか、そういうのは浮かばないんですか、全く」

 渡会はにやっと不敵な笑いを浮かべて、

「あら、四月一日くんは私と恋人になりたいのかしら?」

「…………はい?」

「でも駄目よ。私の理想に全く届いていないもの。あなた、私に「家事は分担するのがスタンダードだ」とか言って料理とか強要してきそうじゃない。いやよ?そんなの。あなたが10で私が0なのよ」

 酷い分担だ。名前が変わっただけで主従関係のままじゃないか。

「まあいいわ。ハーレムについてはそのうち考えましょ。なんだったら、四月一日くんがハーレムを形成して、私がそのおこぼれを貰う形でもいいのだけどね」

 それだけ言って、彼女は鞄から文庫本を取り出す。完全に自分の世界だ。

「全く……どこの世界に家事分担が10:0の夫婦がいるんですか……」

 そこまで呟いてふと思う。

 夫婦。

 おかしい。四月一日が例に挙げたのはあくまで恋人だったはずだ。ところがどうだ。彼女の出した例えば完全に夫婦のそれではないか。

 四月一日は思わず、

「渡会さんって、結婚願望とかあったんですね」

 渡会はぽつりと、

「読書の邪魔。えぐるわよ」

 何をだ。相変わずとんでもない人だった。


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