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11.もっと有意義な暇つぶしを教えなさいな。/渡会さんは毒を吐きたい

本編

 ある日の休み時間。

 渡会(わたらい)はとんでもない提案をしてきた。

「あぁ~……暇だわ。ねえ、四月一日(わたぬき)くん。ちょっと「うひょー!!」とか叫びながら女子トイレに突撃してきてくれない?」

「……一応聞きますけど、それって俺にメリットあります?」

「あら、あるわよ。もしかしたら女子のトイレ姿を目撃出来るかもしれないじゃない」

「個室なのにですか?」

「だからそこに突撃するのよ。いやぁねえ。これだから物分かりの悪い猿は困るわ」

 はぁとため息をつきながら、頬に手をあてて憂うような表情をする渡会。なぜそんな表情が出来るのか。

 もしかしてこの人は「自分が正しい」という雰囲気を出しておけば、そのうち事実になるとでも思いこんでいるのだろうか。そんなことは全くないので、今すぐやめていただきたいところだ。

「で、暇なんですか?」

「……あなた、最近私の扱いが雑になってきてないかしら?」

 慣れてきた、と言ってもらいたいものだ。

 最初のころは全ての言動に突っ込みをいれては藪をつつき、さらなる無茶ぶりとトンデモ発言という蛇を引っ張り出していたのだが、四月一日だって馬鹿ではない。

 深追いをするのはよくないということや、困ったら強引に話を戻せば案外ついてきてくれるということくらいは流石に学習するのだ。

 その証拠に、

「まあいいわ……暇なのよ。で、なにかいい暇つぶしはないかと考えていたら、目の前にいいおも……話し相手がいたから、取り合えず女子トイレに突撃させてみようかしらとおもっただけよ?」

「いまなにかい言いかけましたよね?」

 渡会は再びためいきをつき、

「でも残念ながら、猿だから私の要望を理解してくれないみたい。ねえ、ニホンザルくん。代わりになにか暇つぶしを考えて頂戴な」

「いまおもちゃって言いかけましたよね?人のこと、おもちゃ扱いしてますよね?」

「でも残念ながら、猿だから私の要望を理解してくれないみたい。ねえ、ニホンザルくん。代わりになにか暇つぶしを考えて頂戴な」

 一字一句たがわずにリピートされてしまった。

 RPGの質の低い村人みたいだ。

 なんど話しかけても「ここは、はじまりの村。のどかなところなんだよ」くらいのことしかしゃべらない、看板と大差ない価値のNPCみたいになってしまっている。

 これでは時間が無駄だ。仕方ない。四月一日は「おもちゃ」発言を追及するのは諦めて、

「だったら、スマフォゲーなんてどうですか?」

「ごめんなさい。私これから雲を眺めて「あれはなにに似た形をしているのかしらレポート」を作らないといけないの。ごめんあそばせオホホホホホ」

 と、エセお嬢様な嘘くさい笑い方をしてフェードアウトしようとする。四月一日が引き留めるように、

「自分から聞いておいてそれはないでしょう」

 渡会は眉間にしわを寄せて、

「だってそんなものが出てくるとは思ってなかったもの。四月一日くん。人生は有限なのよ」

 さっき暇だなんだと言っていた人間の言葉なのか?これ。

 四月一日は反論する。

「でも暇つぶしには良いですよ。そりゃ、のめりこんだら大変なことになりますけど。例えばですね……」

 ポケットからスマートフォンを取り出し、

「これなんかどうです?青春って感じがして」 

 ゲームを開いて渡会に画面を見せる。

「えーっとなになに……タイトルは、」

「読み上げるのやめてくれます?」

 ほんとやめてほしい。リアルの作品名を出そうものならあなたの感想は炎上間違いなしになっちゃうんだから。勘弁して。

 渡会も、流石にそこで食い下がるほどのやる気はなかったらしく、四月一日のスマートフォンを眺めながら、自分のスマートフォンでも検索をかけた上で、

「これかしら?」

 四月一日に見せてくる。

「それです。どうです?これを機会にやってみるのは?」

 渡会は画面をぼーっと眺めながら、

「四月一日はちゃんとやってるの?ログインボーナスもらってガチャしてるだけじゃない?」

「意外と詳しいですね……違いますよ。一応、ちゃんとやってます。やりはじめてからは皆勤ですし」

「ふーん…………」

 渡会は暫く考え込み、

「ま、気が向いたらね」

 気が向いたら。それはつまりやらないってことではないだろうか。

 まあいい。取り合えず渡会の要望には応えられた。やるにせよやらないにせよこれで暇は潰れたに、

「で?四月一日くんはいったいいつ女子トイレに突撃するのかしら?」

「しませんって」

 訂正。あまり潰れていなかったようだ。なんだったんだ、一体。


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