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11.旧知/瑠壱は智を呼ぶ

前回のあらすじ

 沙智と連絡先を交換し忘れた瑠壱。結局のところからかわれる前提で冠木に聞くしかないと腹をくくり教室へと足を運ぶ。
 が、そこで瑠壱は違和感を覚えることになる。その正体を探っている彼のもとに、田中(仮)が現れ、こういうのだった。

「お前、合コン主催したんだって?なんだよ、俺も誘ってくれよ」

本文

「ご、合コン?」

 覚えがない。

 もちろん、合コンと一口にいってもその内容は様々だろう。ただの男女混合飲み会みたいなものから、実質乱交パーティーのようなものまで内包されたそのワードは、発信者によってその意味を変えてくるのは事実である。

 が、もしそうだとしても、瑠壱(るい)からはおおよそ縁遠い言葉だ。

 どんな内容であれ、その参加人数は男性2名の女性2名が必須な会など参加はおろか、主催など出来るはずもない。

 知り合いをかき集めれば頭数だけは揃うが、そこに待っているのは合コンではなく、身内同士の集いであり、せいぜいが一緒に飯を食うかカラオケに行く、

 カラオケ。

 瑠壱の頭に一つの可能性が浮かび上がる。

「なあ、もしかしてその合コンとやらの開催場所は、カラオケだったんじゃないか?」

 田中(たなか)(仮)は「今更何を言うんだ」でも言いたげな顔で、

「そりゃそうだろ。お前、自分で開催しておいて覚えてないのか?」

 覚えていない。

 合コンに関しては。

 でも。

 瑠壱は更に質問をぶつける。

「もう一つ聞いていいか?その情報は誰に聞いたんだ?」

 田中(仮)は何が言いたいのかが分からないという顔で、

「どうしたんだよ全く……俺はまあ、又聞きだけど、そいつは佐藤(さとう)に聞いたって言ってたな」

 佐藤。

 よくある苗字だが、このクラスにその姓を持つやつは一人しかいない。

 瑠壱は視線を“佐藤”のいるほうに向ける。その瞬間。明らかに視線を逸らし、手元の本をめくり始める姿が視界に入る。

 間違いない。

 犯人はあいつだ。

 瑠壱は田中(仮)に礼を告げ、

「ありがとな、田中」

「お、おお……って、俺は田中じゃなくて中田(なかた)だって!」

 何度言えば覚えるんだよ!という文句を背中に、瑠壱はずんずんと教室内を歩みゆく。

 流石に、走って逃げたりすることはないだろう。それならば、こんな手段は取らないはずである。

 瑠壱が登校し、違和感を抱き、聞き込みをしたうえで、自らにたどり着くことまでが計算の内なはずだ。

そうでなければ瑠壱が中田と会話をしている時ですら、ずっと視線を向けているはずなどない。

 やがて、このクラス唯一の佐藤──佐藤智花(ともか)の席にたどり着く。

 手元には英語の教科書があった。白々しい。どうせなら読み物の一つでも用意しておけばいいのに。

「どういうつもりだ」

 詰問する。もはや細かな説明や、遠回りな表現など必要はない。

 間違いない。

 クラスに「西園寺(さいおんじ)瑠壱が合コンを主催した」などという、ありもしない風説を流布したのは他でもないこの女、佐藤智花なのだ。藤ヶ崎学園高等部三年生。漫画研究会会長。そして、

「どういうつもりって……何が?」

 しらばっくれる智花。その視線は手元の教科書から動こうとしない。

 瑠壱はしゃがみこんだうえで、智花の正面に回り込み、教科書を無理やり引っぺがして、

「しらばっくれるな。お前だろう。訳の分からんデマを流したのは」

 瑠壱の視界に、智花の顔が映りこむ。

 その表情は…………楽しみ?

智花はにやりと口角を上げ、

「仕方ないじゃない。だってそうでもしないと西園寺くんは私のことを見てくれないんだから」

 瞬間。

 その声色ががらりと変わった。

 そして、それは瑠壱が何よりも嫌いなもので、

「おま、何が西園寺くんだ。そもそもお前は、」

「いいじゃないの。それとも、瑠壱くん、って呼んだ方がいい?」

 痺れを切らした瑠壱が智花のことを語りだすよりも、智花が瑠壱の口をふさぐ方が早かった。

 幸か不幸か、二人のやり取りを真横から見られる位置に他の生徒はいない。傍から見れば瑠壱に智花がアプローチをかけているようにしか見えなかった。

 智花は続ける。

「ねえ、西園寺くん。私とデートしてくれないかしら?ね?いいでしょ?なにせあなたは、合コンなんて企画しちゃうくらいモテるんだから、私一人くらいどうってことないでしょ?」

 意味が分からなかった。

 ただ、その後智花は瑠壱にだけ聞こえるような小さな声で、

(付き合ってくれたら例の彼女……山科沙智(やましな・さち)の連絡先、教えてあげるから)

 声は、出なかった。

 いや、出せなかった。

 智花が口元を抑えていたからである。まさかそれが良い方に作用するとは思わなかった。

 一体何を企んでいるのかは分からない。ただ、一つだけ言えるのは、この場を収めるためには、彼女の提案を飲むしかないということだ。

 瑠壱は小さく縦に頷く。それを確認した智花は口元に当てていた手をゆっくりとはなし、

「よかったー。断られたらどうしようかと思った。それじゃ、放課後ね」

 と、一方的に約束を取り付ける。

 瑠壱の視線はといえば、彼女自身ではなく、先ほどまで自らの発言権を取り上げていた、彼女の手に向けられている。その指には綺麗にマニキュアが塗られていた。

 恐らく自分で塗ったのだろう。それ以外でも随所に“変化”が感じられる。

 それらは皆、中学校に進学してから身に着けたものに違いない。少なくとも小学校を卒業するまでは、化粧になんて欠片も興味を示していなかったはずなのだ。

 佐藤智花。

 藤ヶ崎学園高等部の三年生にして、漫画研究会会長である彼女は、

 瑠壱の、幼馴染、なのだった。


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