31.エロに文句をつけるのは心が狭い証拠よ。/渡会さんは毒を吐きたい
本文
渡会(わたらい)は美人だ。
だから、席に座って、本を読んでいるだけで凄く絵になる。
その読んでいる本が純文学か何かだった暁には、写真に収めて印刷して、額縁に入れ、ちょっといいホテルのロビーに飾っておいても誰も違和感を抱かないのではないかというレベルの完成度なること請け合いである。
そんな超絶美人の彼女だが、ひとつだけ弱点がある。それは、
「ねえ、四月一日(わたぬき)くん。どうしてこう金持ちってのは心が狭いのかしらね?」
しょっぱなからこれである。
飛ばし過ぎるにもほどが無いだろうか。
四月一日はため息ついでに、
「……どうしてそう思うんですか?」
「そんなの決まってるじゃない。いい?四月一日くん。これだけは覚えておきなさい。実際の世界に影響を及ぼすわけでもない創作の表現に文句をつけるやつは、一人残らずクソよ」
そう。
何を隠そう渡会は、口を開けば二言目には毒舌と暴言しか飛び出さないのだ。
黙っていればまったく想定できないような台詞が次から次へと出てくるのだが、よくもまあ、そこまでさまざまなことに毒を吐けるものだと感心する。彼女が好きなものなんてこの世にあるのだろうか。
「あら、失礼ね。好きなもの位あるわよ」
「……当然のようにモノローグに反応するのやめませんか?」
「いいじゃない。もうお決まりみたいなものでしょ?」
変なお決まりを作らないでいただきたい。四月一日からしたら心の鍵をこじ開けられて、がっつりと中をのぞき見されているような状態なのだから。
まあいい。
こんなことを言うのもあれだが、既に慣れっこだ。
四月一日は話を戻して、
「……で?なんでクソなんですか?」
「……なにがかしら?」
さっきあんたが言ったんだろう。
忘れるのが早すぎる。
四月一日がじっとりとした視線をぶつけていると、渡会は「ああ」と思い至り、
「そうそう。創作よ、創作。不思議よね、四月一日くん。別に自分がレ○プされるわけでもなんでもないのに、エログロ二次創作に文句をつけるのがいるのよ、ああいうのってどういう教育を受けてきたのかしら。いやぁね……これだから下賤な民は」
「さっき金持ちがどうこうって言ってませんでした?」
「そうとも言うわね」
そうとも言わないと思う。
ただまあ、言いたいことは分からなくもない。
もちろん、二次創作と言うのは基本的に作者が許す限りで行うのが当然だし、作者が駄目だといえば、それは駄目なのだ。そこに神がいるとすれば大元になる作品の作者だし、その意向はあくまで絶対だ。
ただ、一方で、二次創作で「覇権」を握った作品があるのもまた事実だろう。言ってしまえば「エロで人気が出る作品もある」っていうことだ。
そのあたりに作者が規制をかけるのはむしろ作品の伸びしろに蓋をしているようなものだ。恐らく渡会はそういうことを言いたいのではないだろうか。
毒は毒だ。
ただ、珍しく納得できる話をしていたので、四月一日は、
「それで?渡会さんはどんな作品の二次創作が書きたいんですか?」
「書きたいわけではないわよ。ただ、ほら、私は基本的に酷い目にあってるものが好きだから」
とんでもない告白を聞いた気がする。
そして更に続けるのだった。
「やっぱり夢のまた夢なのかしらねぇ……○マ娘のレイ○ものは」
「本気でやばいことになりそうなものを引き合いに出すのやめてもらっていいですか?」
前言撤回。
今日も渡会はとんでもないのだった。
…………連載再開一回目になんてことをするんだ、まったく。