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27.発言内容なんて大した問題じゃないのよ。/渡会さんは毒を吐きたい

本編

「ねえ、四月一日(わたぬき)くん。どうして人は言葉の内容ではなくて、発信者で物事を考えるのかしらね?」

「かしらね?と言われても……」

 休み時間。

 渡会(わたらい)さんは「そこにちょうどいい暇つぶし相手がいたから話しかけてみたの」とでもいわんばかりの唐突さで話を切り出してきた。恐らく相手の事情など一切考えていないと思うし、なんなら見てもいないと思う。

 ちなみに今の四月一日はというと、ちょうど飲み物でも買いに行こうかなと思い、立ち上がった瞬間だった。むしろ嫌がらせでこの瞬間を狙っていたまである。

「ああ、いいの、そのまま聞いて」

 嫌だ。

 少なくとも立ち上がるか、座るかはしたい。

 今の四月一日はまさにその中間。中腰体勢なのだ。

 そんなわけで、上がりかけた腰を再び椅子に戻して、

「で、なんですか?」

「チッ……」

 なんで舌打ちするの?絶対タイミング見計らってたよね?

「まあいいわ。それで、便所コオロギくん。なんでかしらね?」

「なにがですか?」

 渡会さんは「はぁ……」とため息をついて、出来の悪い息子を見る目で、

「精子の頃はこんなじゃなかったのに、どうしてこんな子になってしまったんでしょう……」

「さかのぼる場所がおかしくないですかね?」

「そんなことないわよ。要はね、四月一日くん。SNSなんかでものすごーく良い発言をした人がいるとするじゃない?でも、その人は見向きもされないの。そして、他のジャンルで凄く知名度のあるやつの、知識ゼロのゴミみたいな見解にハエが群がるように人気が集まるの。どうしてだと思う?」

「そんなことより、その口の悪さはどうしてなのかを議論した方がいいと思いますね……」

 どうしてこう、人に喧嘩を売るような発言しか出来ないんだ。オブラートなんて存在は当の昔にポピュラーではなくなったかもしれないけど、「オブラートにつつむ」という言葉くらいは覚えておいて欲しいものだ。こんなもの直接接種したら、最悪死人が出る。

「人の発言を毒薬扱いしないでもらえるかしら?」

 人のモノローグを勝手に読まないで貰えるかしら?

「……渡会さんが具体的に誰と誰のことを言いたいのかは分かりませんけど、その「すごーく良い発言」をした人間っていうのはそんなにその道に精通しているんですか?」

 渡会は「待ってました」と言わんばかりの得意顔で、

「そりゃそうよ。その道のトップランナーと言っても過言ではないわ。はぁ、いつだって天才は世間には認められずに迫害される運命なのね……」

 よよよと泣くふりをする。

 ただ、そこまで言うのならば、

「その人ってなんて人ですか?」

 四月一日はポケットからスマートフォンを取り出す。ジャンルによっては分からないこともあるとは思うが、渡会さんがこれだけ認めている相手だ。きっと面白い人間に違いない。そして、そういう人は知っておいて損はない。一風変わった人間ほど、面白いものはない。

 ところが渡会さんは、

「四月一日くん、UFOが飛んでいるわよ。ちょっと軽く捕まえてきてくれるかしら?」

 下手くそか。

 気をそらすのが下手くそか。

 淡々と言うから、ほんの一瞬だけ、窓の外を見かけたじゃないか。こんな真昼間に、簡単に発見できるようなUFOなどいてたまるものか。そんなものがいたら全国の研究家たちは全員ぼんくら揃いということになってしまうではないか。

 急な話題変更。

 その前の話題はずばり、「渡会も認める人」だ。

 どうやらそれは渡会にとっては触れられたくない話らしい。

 なぜか。

 答えは簡単だ。

「……もしかして、自分のことですか?それ?」

 渡会は一瞬口元がひくつき、

「そ、そんなことないじゃないの。いやぁねえ。これだから類人猿は」

「じゃあ、誰か教えてくださいよ。違うなら出来るはずじゃないですか」

「うるさいわね、ちょんぎるわよ」

 何をだ。

 こうなってしまうと渡会は基本的に会話に応じてくれなくなる。

 会話の発端は向こうなのだから、打ち切る権利もあると言われれば確かにそうかもしれないが、大体において「渡会にとってちょっと不利な話題」が出たときに出るフレーズであり、それはさながらゲームで負けそうになった途端に回線を切断する切断厨のよう、

「……言っておくけど、あなたも大概よ、言葉」

「いいんですよ、口に出さなきゃ」

「モノローグと会話は別に変らないと思うけど……」

 ちなみに、後日機嫌の良いときに渡会のSNSアカウントを見せてもらったところ、ここではとてもお見せ出来ないようなフレーズが並びまくっていた。これでよく「すごーく良い発言」なんて言えたな、ホント。


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