24.五円玉は御縁があるといって、縁起が良いのよ。/渡会さんは毒を吐きたい
本編
「大したものねぇ……」
「だなぁ」
二人の視線の先には、掃いてあつめたであろう落ち葉があった。
もちろん、ただの落ち葉ではない。
それらは綺麗なハート型になっていたのだ。縁結びを意識してのことだろうか。
「さて、お参りをするわよ、四月一日(わたぬき)くん」
そう言って本殿へと向かう渡会(わたらい)。四月一日もそれに従うようにして本殿へと向かう。
早い時間だからなのか、タイミングが良かっただけなのか、順番待ちはせずに済んだ。二人は横に並び、
「四月一日くんは、お参りの作法を知っているかしら?」
「知ってますよ。二礼二拍手一礼、ですよね?」
渡会はそんな反応を完全に無視し、
「さ、お参りしましょ。お賽銭は投げ入れたらいけないのよ」
そう言って、ポケットから五円玉を賽銭箱にそっと入れる。どうやら間違うのを期待していたらしい。あっていたら完全に無視された。ううん、この傍若無人っぷり。
とはいえ、わざわざ突っ込んで反応を貰っても仕方がない。返ってくるのはせいぜい「なにようるさいわね。静かにお参りも出来ないのかしらゴミムシくん」くらいが関の山である。触らぬ神に祟りなし。藪をつつくべからず。出てくるものは蛇で済めばいい方だ。
ぱん!ぱん!
小気味のいい音がする。
渡会だ。横を見ると既にお参りをする渡会がいる。両手を合わせ、瞳を閉じ、じっと何かを願う姿はとても絵になる。
いっそのことこのまま切り取って、絵にして保存しておきたいほどだ。口を開かせるとろくなことにならない。
ぱん!ぱん!
と、そんなことを考えている場合ではない。四月一日も二礼二拍手一礼の作法に従ってお参りをする。
ちなみに、神社というのは基本的に願いを“かなえてくれる”ものではない。従って、お参りをするときはあくまで自分の気持ちを“誓う”ような形が一番良いのだそうだ。豆知識。
渡会にも話してやりたいが、恐らくすればするほど嫌な顔をするのでやめておこう。自分の方が上に立っていないと不機嫌になるのが渡会千尋という生き物だ。
やがて四月一日がお参りを済ませると、隣から、
「何をお願いしたのかしら?」
その顔は大層にやけていた。これはいけない。どっちに転んでも四月一日にとって良くないことになる。そういうときは、
「あ、渡会さん。おみくじがありますよ。引いていきません?」
話を逸らすに限る。そうすると流石に深追いはしてこない。あくまで相手が罠にかかるのを待つ。それが渡会のスタイル。ならばその罠を無視してしまえばいい。簡単なことだ。ただ、この対処法には一つだけ大きな問題がある。それは、
「…………チッ」
わたらい の きげん が がくーん と わるくなった!
そう。
渡会がすこぶる不機嫌になるのだ。四月一日からしてみれば、先に仕掛けてきたのはそっちだろうと思うのだが、そんな理屈が通用する相手ではない。あくまで自分が一番なのだ。天上天下唯我独尊を都合よく解釈したような生き様である。
とはいえ、おみくじ自体には興味があるようで、
「へぇ……おみくじねえ」
「興味あるんですか?」
渡会は不満げに、
「あなた、私を何だと思ってるの?」
「何だと思ってるのと言われても……こういうものには興味がなさそうな気がしてました」
ため息。
「あのねぇ……わざわざゴールデンウィークの旅行で、神社を行先にチョイスしておいて、興味が無いわけないでしょうに。馬鹿なの?あ、馬鹿だったわね」
一言多い。
ただ、それなら話は早い。
「それじゃ、引いてみません?試しに」
渡会は軽く頷き、
「そうね。それじゃ、この七福神みくじってやつにしようかしら」
「これですか」
七福神みくじ。
おみくじはおみくじでも、七福神のミニチュアが付いてくるようだ。別にそれを目当てにするわけではないだろうが、七福神だけに七種類ある。全部揃えたら何か起きないだろうか?
「……あなた、今罰当たりなこと考えてなかった?」
「気のせいですよ。それじゃ、これ、引いてみましょうか」
「ええ」
賛成2反対0。全会一致での決定。2人はそれぞれ200円を投じて、おみくじを引き、中身を確認する。
「中吉……なんともコメントに困る……」
四月一日がコメントに困る結果になったのとほぼ同時に渡会が、
「大吉」
見せつけてきた。
なんだその自慢げな顔は。おみくじはそういうものじゃないと思うぞ。
「はいはい……」
四月一日が軽くあしらおうとすると、渡会が、
「意気投合してやさしいロマンスの花が咲く……ですって?」
「…………は?」
「恋愛運よ。なに?もしかして期待した?ねえ、期待した?期待したでしょ?ねえねえ?今どんな気持ち?ほら、教えて頂戴よ?私とのロマンスを期待しちゃった?期待したわよね?正直に答えなさいな、怒らないから。ほらほらほらほら」
うるさい。文字数がうるさい。