30.大事なのは可愛い絵の存在なのよ。/渡会さんは毒を吐きたい
本編
ある日。
「第一回、もっとバズるにはどうしたらいいか会議~」
渡会(わたらい)さんが壊れた。
「ちょっと、壊れたってなによ」
「いい加減、モノローグに突っ込むのやめません?」
「モノローグに突っ込んだっていいじゃないの、人間だもの」
自由詩で受け答えをするんじゃないよ。
渡会はなおも続ける。
「第一ね、四月一日(わたぬき)くん。別にモノローグってのは主人公だけが見えているものであるべきではないと思うのよ」
「はあ……」
「要はね、面白ければいいのよ。と、言うわけで、何かネタを考えて頂戴な。私が書記をやるから」
と言い、手元にノートを広げ、シャープペンシルの芯をカチカチと音を立てて出す。
四月一日が、
「それはいいんですけど……またなんでそんなことを言い出したんですか?」
渡会がさらっと、
「え?バズったらなんでも上手くいくからよ?」
「なんでもって」
「なんでもよ。いい、四月一日くん。世の中はね、雪玉みたいなものなのよ」
「雪玉?」
渡会が手元のノートに一つの小さな丸を書き、その下に線を書いていく。
「丘の上に小さな雪玉があるとするでしょ?その目と鼻の先には坂道があるの。四月一日くん。この雪玉をどちらに転がす方が大きくできるかしら?」
そう言って坂道側と、その反対側に矢印を伸ばす。四月一日が、
「そりゃまあ……坂道の方じゃないですか?」
「そう。そういうことなのよ」
「どういうことですか……」
渡会ははぁ……とため息をつき、
「物分かりの悪い子ねぇ……」
坂道に丸をいくつか書いていき、
「いい?雪玉は基本、坂道を転がっていくわ。そうすると斜面の雪がくっついて大きくなる。大きくなると転がる速度は速くなる。後はその繰り返しで、加速度的に雪玉は大きくなっていく。バズるっていうのは、この雪玉がいきなり坂道の上からスタートするようなものなのよ」
「その方が楽ってことですか?」
「当たり前じゃない。世の人間は基本、話題になってるものしか見ないんだから、話題になってるものの方がいいに決まってるわよ。だから、炎上商法なんてものがあるのよ」
そう締めくくって、ノートのページをぺらりとめくり、
「と、いうわけだから、バズる方法を考えようってことよ。さ、無い知恵使って考えて頂戴なスノーマンくん」
誰がスノーマンじゃ。
とはいえ、言いたいことは分かった。
確かに、話題が話題を呼ぶ、ということはある。行列の出来ている店は美味しくて、出来ていない店はそうでもないように見えるのと同じだ。人は、往々にして他人の反応を見ている。だから、サクラなんてものも成立するのだろう。しかし、
「小説でバズるってあるんですかね?」
「あるわよ。剣劇を全部「キンキンキンキン!」で表すとか、1ページ全部使って「ぎゃああああああああ!!!!」みたいな叫び声にしちゃうとか」
「それ、どっちも悪い例じゃないですか……」
ちなみに後者は前後関係を考えれば全然不思議な描写ではないことを付け加えておきたい。
渡会はぽつりと、
「いっそのこと、会話文の頭に喋ってる人物の名前を書いておく方式ってどうかしら。これなら誰が喋ってるのか、一瞬で分かるわよ。例えば、」
と前置いて、
渡会「こんな感じ。どうかしら?」
四月一日「キャラクターが持ってていい権限じゃないと思うんですけど……」
渡会「そんなことないわよ。この作品の中心は私なんだから」
四月一日(世界が自分を中心に回ってるってのは聞いたことあるけど、その枠外まで自分の思い通りにするのは初めて見たな……)
渡会は突然ため息をつき、
「駄目だわ、これ」
「なんでですか?」
「「思った以上に描写がしにくくて、逆にやりづらい」そうよ」
「作者の気持ち代弁するのやめてもらえます?
ちなみに、この後延々と会議が続いた結果、渡会さんは、
「やっぱり私に可愛いキャラデザが付いて、神絵師が描いた挿絵が付くのが一番ね」
と結論付けていた。元も子もなさすぎる。