EX1.エイプリルフールなんてもっと気楽でいいのよ。
本編
「ねえ、四月一日(わたぬき)くん。エイプリルフールなんて下らない習慣だと思わない?」
「それ4月1日当日にいう事ですかね……」
渡会(わたらい)は涼しい顔で、
「あら何を言ってるの四月一日くん。4月1日なんて春休みの真っ最中に、あなたが私と会話なんかできるわけないじゃないの?頭大丈夫かしら」
「ええ……」
渡会はため息を1つつき、
「いい、渡会くん。エイプリルフールっていうのは得てしてそういうものなのよ。私が突然異世界に飛んだり、性転換したり、逆に四月一日くんがどこか違う世界に飛んで行ったり、男性だからこそ複雑な感情を抱いている弟が女性として登場する夢を見てみたり、自分にとって越えなければいけない相手と直接競う機会を得られる夢を見てみたり。そんなことがいとも簡単に起こるのがエイプリルフールの世界なのよ。それくらいすっと受け入れなさいな」
今具体的な作品意識しなかった?
まあいいや。
「で?渡会さんはなんでそんなエイプリルフールが嫌いなんですか?」
「あら?別にエイプリルフール自体は嫌いじゃないわよ?」
「え、でもさっきそんなことを」
「ああ、それはね。エイプリルフールに思いっきり力の入りまくった企画を作るのがもう当たり前みたいになってきてて、それがかえってサムいし、イタいし、それを追っかけるのも面倒になったって話よ」
「……それ4月1日当日にいう事じゃないですよね、絶対」
どうしてこう、この人はあらゆるイベントを当日に否定してくるんだろう。この分だとクリスマスには「あークリスマスをセッ○スする日だと思ってるアホが死なないかなー」くらいは言い出しそうだ。
「……あなた、時々私の言ってないことを先回りしてるけど、そのうちそっちが炎上するわよ?」
「なんでですか……別にこれは俺が思ってることじゃないですからね。後、人のモノローグを読むのをやめてくださいよ……」
「いいじゃないの。エイプリルフールなんだから」
エイプリルフールをなんでもありの無法地帯か何かと勘違いしていらっしゃる?
渡会は「やれやれ」といった具合に首を振り、
「ま、力の入りすぎたエイプリルフールはともかくとして……四月一日くんは彼女なんているのかしら?」
「また唐突ですね……いませんよ。いるとおもいます?」
渡会は結構真剣に悩み、
「うーん…………過去にはいたことがあってもおかしくはないけど、どうせ小学生のころとかそんな感じで、それを「俺、彼女いたことあるんだよ」って言って、彼女いない歴=年齢の相手にマウントを取りそうな感じには見えるわね」
「冷静に分析してその結論だすのやめてもらえます?」
渡会は意外という感じで、
「あら、これでも褒めてるのよ?「彼女いたことなさそう」とか「そもそも女性に嫌われてそう」とか「男が好きそう」とかそういう感想じゃないだけよかったじゃないの」
そんなとんでもない例と比較されても困る。
「ま、そんなわけだから。小学校の頃の彼女でマウントを取るのはいい加減やめなさいな。せっかくこんなに可愛い彼女がいるのだから」
「あのですね……別に小学校のころの彼女でマウントなんて……はい?」
なんだ?
今なんて言った?
渡会は笑いながら、
「いやぁねぇ。四月一日くん、忘れたの?私はあなたの彼女じゃない。それとも彼女の顔も思い出せなくなったのかしら。今時流行らないわよ?記憶喪失ものなんて」
四月一日はなおも理解が出来ずに、
「え、まって。どういうこと?エイプリルフール?」
渡会は不満げに、
「失礼ね。私が四月馬鹿ごときで脱いだりするわけないじゃないの」
そんな言葉で四月一日はようやく状況に気が付く。
場所……どっかのホテル。薄暗い照明。
参加者……渡会と四月一日。シーツで隠れていて分からないが、恐らく全裸。
時間……不明。多分4月1日。
「は、はあああああああああああああ!?」
◇
「はっ!?」
瞬間。
意識が覚醒する。
目を開けると、そこは保健室のベッドだった。そして、
「あら、おはよう。渡会くん。駄目よ、ハッスルしすぎちゃ」
「…………何に?」
エイプリルフール。
それはちょっとしたお遊びが許される日。
嘘か誠か。
夢か幻か。
それは神のみぞ知る、のかもしれない。