【✏】えんぴつ堂#473~#501
使用の手引き… https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!
【473】
【✏】あたしのハートはペンキぬりたて。だから、だぁれも近づかないで。あたしのハートはペンキぬりたて。べたつくからみんな嫌いでしょ?あたしのハートはペンキぬりたて。傷を隠して、心を上塗る過程の見せつけ。あたしのハートはペンキぬりたて。…手が汚れてもさわってくれる誰かも、いるの…?
【474】
【✏】救急車へ運ばれる家族。松葉杖やギプスで登校してきた友人。とても苦しそうに微笑んだ恋人。剣も魔法もない現実で「守りたい」なんてフィクション言葉だと思ってた。でも、暮らしに重りが載せられる瞬間を見て痛感した。もっと知恵や技術をつけて、もっと…音もない辛さから、皆を守りたいって。
【475】
【✏】「畜生!自分達だけ仲良く美味そうに食いやがって!こちとらテレビの前で見てるしかできんのに!許せねえ!こうなりゃこっちも買いに行ってやる!店は何県だ!同じメニューの用意があるかあらかじめ問い合わせてやるからな!くそーっ!」「店側も食レポスタッフもニッコニコのリアクションだよ」
【476】
【✏】「あいつにさ、やっぱり気持ち…伝えようって思うんだ。誠実に、心からの言葉を伝えて…許してくれるならまた、出会いからやり直したい。一日一日、さ…」「…難しいんじゃないか」「それでもだ!甘えてごめん、寄りかかってごめん!だからやり直そう。俺の、連休~~っ!!!」「諦めろ!!!」
【477】
【✏】流れ星を捕まえた。夜じゅうかかって星取り網で追いつめ、星籠に閉じ込めた。明日あの子に見せてあげよう。だけど星は透明な箱の中、壁に身をぶつけて輝いていた。「…誰かがきみに願いをかけたの?」想いの横取りはきっと罪だ。結局、暴れ星を夜空に放した。目と喉の奥がツンと熱かった。
【478】
【✏】定期を忘れて切符を買ったら、行先欄にきみの名前が書いてあった。いつもやたらと微笑んでいる、その心の中にまで飛べるのだろう。(他のやつが買ってたらどうすんだよ)何食わぬ顔でもう一枚、今度は正規の切符を買った。色々遅刻しなきゃいいが。僕はすっかり、きみの遺失物係となったらしい。
【479】
【✏】「もうすぐお嘆生日会場に着きます。悲しいバースデーが見込まれる人や、不幸に襲われた人を招待しています」案内役は兎のキメラ。会では何をするの?「駄弁ったり愚痴ったり酒を飲んだり眠ったり。満たされれば忘れます」忘れちゃうの?「綺麗に。さあ、恵まれない嘆生日に妬きたてケーキを!」
【480】
【✏】「折れた心はご自身で持ってて下さい」救急車内のストレッチャーに寝かされ、長細い結晶を手渡された。綺麗に折れた自分の心。抱えれば熱くなってまたすぐ冷えて、不安定だ。「他の人と比べないで下さいね、もっと割れて折れますので。発進しまーす」サイレンが鳴り出し、救急車は滑り出した。
【481】
【✏】「ありがとうございましたー!」自動ドアからそそくさと立ち去る背に、コンビニ店員の声が眩しくはじけた。痒くて気まずくてたまらない、何せ求人誌しか貰っていないのだ、何も買っていないのだ。お金が貯まったらまた絶対来て、カゴ一杯に買おう、どんどこ買おう。無料の冊子を強く握りしめた。
【482】
【✏】砂糖を入れて、蜂蜜を入れて、かき混ぜながらキミからの返事待ち。(今日空いてるんだよね?仕事って言ってたっけ)スマホを持つ腕に顔をうずめて、きっとこの惑星にはありふれすぎてるやきもきに囚われる。こんなに甘くしてもまだキモチは乾いてる。ああ、メープルシロップまで注いでしまいそう。
【483】
【✏】ゾンビと椅子取りゲームをして遊んだ。彼らの間で流行しているらしく、パイプ椅子を並べる所から手伝った。しかし一様にゲーム中の動きが鈍く可哀想で、わざと座り損ねて鬼になったら手を叩いて喜ばれた。ゲーム後は体育館の出口まで見送られた。…監視者日誌には、適当な事を書いて誤魔化そう。
【484】
【✏】「あたしの人生にはあたし自身が付き添ってる。あたしの決断にも、いつだってあたし自身が立ち会って手を繋いでる。人生は独りじゃないよ、なんて事はないけどさ。だけどあたしは…小さなことでも自分の手でやり遂げられた過去を信じてる。あたしはあたしの最強の証人で、付添人で立会人だっ!」
【485】
【✏】「いただきます…」ブドウ一粒はとても小さい。次の一粒を食べる元気しか入っていないのかもしれない。だけど、二粒、三粒…口に運び噛むうち少しづつ、甘酸っぱい世界が広がる。元気を出すって、螺旋階段を上がっていくような事かもしれない。粒のなくなった房に手を合わせた。「…ご馳走様!」
【486】
【✏】「直角の世界は極端で、鋭くて冷酷で。それにひとたび傾けば、たくさんのものが転げ落ちてしまう。だから僕は世界のあちこちにスロープや手すりを作ってるんだ。不格好でも、皆が安心して笑っていられる、なだらかな世界になるようにって。きみもどうか、この世をもっと緩やかに変えてほしいな」
【487】
【✏】クラスルームはサラダボウル。可愛いあの子はプチトマトガール。所詮一枚の葉っぱなあたしはブルー。チャイムが鳴る、けどあの子はスルー。噂話もドレッシング。高級サラダの盛り付けみたく、見栄えよく持ち上げられて笑う。声も視線も照れ顔まで、キュートなあの子はプチトマトガール。
【488】
【✏】夕焼けに溶けたい。目を閉じて、不安定な色の空に身を委ねる。絵の具を足そう。赤、黄、橙、色の配分を操って、紫色も足して混ぜ用。空を派手に染め上げて、名残惜しくなるタイミングで、夜空のカーテンを引いて隠れてしまおう。夕焼けが手招く。きみと行くなら落ち葉のチケットは二枚必要だ。
【489】
【✏】「おはようございます。代読街中央役場より、朝のお手紙代読の時間です。この街の誰かから、この街の誰かへと手渡される感謝の気持ち。どうか今日も、私達の心の綺麗な部分を忘れないで欲しくって。伝えたい言葉がある方は、小鳥の形のポストにご投函ください。それでは、本日のお手紙──……」
【490】
【✏】滑り台が好きだ。滑り落ちるのに笑顔になれる。地面に足がつくまで容赦なく深く沈むのに、高所への階段をもう一度登ってみようって元気が湧く。駆け抜けていく景色、また着地。滑って落ちても青空と光に向かって体を動かせるって、僕たちは小さな頃からちゃんともう知っていたんだ。
【491】
【✏】疲れて閉じた瞼の裏で、きみの笑顔がまたたいている。記憶の中の笑い声が弾んで、嬉しさが照らして離さない。幻想の中で手を伸ばす。会いたい。笑いあいたい。本物のきみに会えたら、挨拶と天気の話もしよう。瞼の裏は屋根裏部屋。夜空はこんなところにあった。恋もこんなところにあった。
【492】
【✏】魔法瓶は二つ持っていこう。ひとつは旅路の飲み水のため。もうひとつは、泣きたくなった時に涙をためるため。いつかその涙から生まれた蝶や小鳥が、羽を広げて七色の空へと飛び立っていく。いまは一人ぼっちだけど、きっと素敵な仲間もできるって信じて。終わらない自由研究の旅へ出かけよう。
【493】
【✏】からんこ、ころん。空き缶の音。空の上で、誰にも見えない子どもが空き缶を蹴る。からんこ、ころろん。はしゃぐ声。見えなくてもみんなは子どもの存在を分かるから、地上から空を見て微笑んだり、祈ったりする。からんこ、ころん。そら色の空き缶。子どもは国境を越えて、遠くへ、遠くへ──。
【494】
【✏】一冊のノート。そのどこかに持ち主の本質が現れるなら、きっとそれは破られたページだ。悩みながら書いて千切る、書き殴った後に恥じて裂く。そして、そんな紙片など無いかのように、また何気なく書き始める。もしも…この世の破られたページだけを綴じたなら、どんなノートが出来るのだろう?
【495】
【✏】
たった一秒のダンス
何処にでもある道を歩いていた
向こうから来るあなた
あなたは車道側に
わたしはお店側に
寄って、すれ違う
ぶつからずに止まりもせずに
お互いの名前も知らない
歩いているだけなのに舞うよう
知らないお互い忘れるまでの間
何処にでもある交通
たった一秒のダンス
【496】
【✏】「救急車のサイレンを聞くと祈るようになったの。特に夜ね。患者さんも、付き添いの人も、隊員さん達も、明日の朝をおだやかに迎えられますようにって。もっとも、そう思うようになったのって自分が搬送されてからだよ。そういうとこあるよね、私たちって」車椅子の少女は、そう言って微笑った。
【497】
【✏】鳴らなくなった楽器たちが、魂を寄せあい耳を澄ませる。誰も知らない世界から、持ち主が立てる音を聞いている。静謐、賑やか。「寂しくなんてないよ」あの日奏でてもらった想い出が、音もなく重なり共鳴する。「ありがとう」のインストゥルメント。「嬉しかった」のオーケストラ。
【498】
【✏】眠れなかった朝のアイシャドウ。就業規則でラメはNG。薄ボンヤリしたAM時間、頭ばっかり忙しなく動く。冷凍庫で微睡むストッキング。腕時計のベルトをあくびで締めて、小さな弱音はヒールで蹴飛ばせ。スケジュールの外、ブラウンのアイシャドウを落とす時には、インソムニアをビンタしたい。
【499】
【✏】
ハンマーを握って!
フアンのアを潰せばファンになる。
指揮棒を握って!
ファとレをつければファンファーレになる。
深呼吸して両手を広げて、
大きく大きく息、吸い込んで唱えて。
「あまねく不安よ、ファンファーレに変われ!」
【500】
【✏】
真夜中に齧るリンゴ
歯型は歪すぎる三日月
甘くない食物繊維
空腹、懊悩かぶりつき溜息
特別な果実で昏倒できたら
誰かが
唇で起こしてくれるかしら
空想は闇に擦りおろされる
秒針の音 舌の上
林檎飴の夢を乞う
芯だけは強いつもりだった
だけど私
まだこの夜に馴染めない種子だ
【501】
【✏】
「オレ、お前の事テンサイって思ってた」
「は?どこが!?」
「いつもテストで超いい点じゃん、先生嬉しそうだし」
「でもそっちは足速くない?50メートル走で飛行機みたいだった、ビシュウウウンって」
「じゃ両方でよくね?」
「どっちも超天才?」
「そ、超天才ドーメー!」