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希望を叶える支援のカタチ〜社会福祉士を目指すきっかけとなった実践〜
【心に残る支援経験】社会福祉士を目指すきっかけとなったAさんの支援
デイサービス生活相談員として働く中で、忘れられないエピソードがあります。
社会福祉士を目指すきっかけとなったAさんの事例です。
ある日、地域包括支援センターの主任ケアマネジャーから、Aさんの支援について相談を受けました。
■Aさんの希望『社会復帰への挑戦』
Aさんは介護保険第2号被保険者で、要支援2の認定を受けている女性です。
数年前に脳卒中を発症し、右半身不全麻痺と軽度の言語障害を抱えています。
短距離なら杖歩行が可能ですが、普段の生活では車いすを使用しています。ADL(日常生活動作)はほぼ自立しているものの、入浴の際には着脱や浴槽をまたぐ動作に介助が必要です。
IADL(応用動作)は、一人での外出は難しいですが、レンジ調理や洗濯ができ、手先を使う細かい作業が得意という特技も持っています。
💡Aさんの願いは、『リハビリ病院を退院後、アパートで一人暮らしを再開し、自立して社会復帰を果たすこと』でした。支援者として何とかその夢を実現させたいと強く思いました。
Aさんの意向を支えるため、多くの専門職の方々と連携しながら、Aさんに寄り添った支援を考える日々が始まります。
多職種連携と主任ケアマネジャーの手腕
Aさんのサービス担当者会議には、地域包括支援センターの主任ケアマネジャーをはじめ、多くの専門職が集まりました。
それぞれの立場から意見を出し合い、最適な支援計画を話し合う場となりました。
〇地域包括支援センターの主任ケアマネジャー
支援計画を担当し、サービス担当者会議を主導されました。Aさんの意向を最大限叶えるために、介護保険サービスだけでなく障害福祉サービスやインフォーマルサービスを組み合わせた支援を提案されました。
〇医療ソーシャルワーカー(MSW)
リハビリ病院でのAさんの治療経過や退院後の生活を見据えた意見を共有してくださいました。
〇移送ボランティア
Aさんの外出支援、就労継続支援B型事業所への送迎や通院についての提案をしてくださいました。
〇訪問介護サービス提供責任者
デイサービスとの密な連携について意見をくださいました。買い物や掃除などAさんの一人暮らしをサポートしながら、入浴介助や服薬確認といった健康管理の部分でも重要な役割を担っていただけることが確認されました。
〇デイサービス生活相談員(私)と看護師
私たちは健康管理や入浴介助、機能訓練の具体的な内容について説明し、Aさんの社会復帰を後押しするためのデイサービスでの支援計画を共有しました。
〇福祉用具専門相談員
Aさんが自宅やデイサービスで安全に過ごすために必要な福祉用具の選定についてアドバイスをいただきました。
〇障害者相談支援専門員
Aさんの「社会復帰したい」という意向を叶えるため、はじめの一歩として就労継続支援B型を提案されました。
〇就労継続支援B型事業所サービス管理責任者
Aさんの今後の就労支援について具体的な計画が議論され、Aさんが特技を活かしながら無理なく働ける環境づくりに向けた貴重な意見をいただきました。
多職種が一堂に会し、Aさんにとって最適な支援計画を練り上げるプロセスに携われたことは、私にとってとても心強く、学びの多い経験となりました。
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Aさんには、脳卒中の後遺症の他にも高血圧症や便秘といった健康上の課題があり、当初は一人暮らしを支えるために訪問看護での健康管理と服薬管理が検討されました。
しかし、Aさんの「社会復帰を目指したい」という希望を何より重視した主任ケアマネジャーの提案により、健康管理はデイサービスと訪問介護で担うことになったのです。
この提案には、Aさんが人とのつながりを感じながら、社会参加の感覚を取り戻せるようにとの配慮が込められていました。
主任ケアマネジャーの豊富な知識や経験だけでなく、「利用者の人生に寄り添い、その可能性を広げたい」という強い情熱を感じました。
Aさんの前向きな変化
実際、Aさんはデイサービスで機能訓練や工作などのレクリエーションに積極的に参加されました。
福祉用具の活用や訪問介護の支援もあり、徐々に一人暮らしに自信をつけたAさんは、現在、移送ボランティアを利用して就労継続支援B型事業所に通われています。
そこでは、得意な手先を活かしてバリ取り作業などを行い、仕事への喜びを感じていらっしゃるようです。
後日、主任ケアマネジャーから、「訪問看護で病状の安定を図ることだけにとらわれず、デイサービスを提案して良かった。デイサービスの皆さんとの交流がAさんを勇気づけ、就労継続支援の利用にも繋がった」と言っていただけたとき、私は胸が熱くなりました。
Aさんの生活が変わっていく過程に携わることができた喜びとともに、主任ケアマネジャーの支援をコーディネートする力に心から感動した思い出です。
「その人らしい生き方」を支える福祉の本質
Aさんの支援を通じて、私は福祉の仕事の本質に触れました。
Aさんがデイサービスで得意の手先作業を楽しみながら、少しずつ社会とのつながりを取り戻していく過程。そして、自分の力で生活を築こうとする前向きな姿勢。
何より、主任ケアマネジャーがAさんの希望に耳を傾け、介護保険や障害福祉サービスという枠を超えた支援計画を描き切った手腕に心が震えたのです。
社会復帰という難しい課題に向き合い、ボランティアを含むさまざまな社会資源を活用ながら、Aさんの意向を最大限叶えようとする姿を目の当たりにし、私もいつかそんな支援ができるようになりたいと強く思いました。
私は生活相談員として、そして社会福祉士として働きながら、この実践を何度も振り返っています。
「その人らしい生き方を支える」ということの尊さと、それを実現することの難しさを日々痛感していますが、一人ひとりの希望や可能性に真摯に向き合う姿勢を忘れずに、これからも利用者の皆さまの歩みに寄り添える存在でありたいです。