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プレイバックたまちゃん 2025/2/17

 きょう2月17日はたまちゃんの命日だ。別に好物を買ってきて手を合わせるとかではないが、こういうことは覚えておくのが大事だ。いつかボケて思い出せなくなるまで、たまちゃんという素敵な家族がいたことをしみじみと思い出すのが大事なのである。

「せんぱい! にんげんはぼくがかじります!」


 聡太くんと比較するとずいぶん大人しい印象のあるたまちゃんだが、それでも相当悪さをした。
 たまちゃんは病弱だったので、不妊手術をせずカプセルを埋め込んだのだが、そのせいか聡太くんより活発だった印象がある。まあ猫なのだから好奇心の赴くままに生きていてもおかしいことはなーんにもない。
 ハチが家に入ってきたときは恐れず戦って仕留め、秋田県民心の味こときりたんぽを煮ていたらガスコンロの上からはたき落として床一面見事なきりたんぽの海にした。子猫のころは廊下のレースカーテンにチョッカイを出してひっからまって身動きが取れなくなり、「ニャーン……」と哀れっぽく鳴いたこともある。いま思うとけっこう武勇伝っぽいことをしているんだなあと思う。

 たまちゃんはお腹が丈夫だったので、人間の食べ物をよく分けてもらっていた。
 お刺身や焼き魚はもちろん、なんとカレーの豚肉まで欲しがった。味を吸って脂身をちぎって分けてやるとモグモグモグモグと歯のない口で食べていた。
 変な食べ物が好きだった。おいなりさんの皮を食べたがる猫というのはなんなのだろう。獣医さんと話していて(もちろん昔からお世話になっているフレンドリーでリーズナブルな中島らも似の女医さんである)、「おいなりさんの皮を食べたがるんですよ」と言ったら、「うーん。歳をとって甘じょっぱいものが好きになったのかな?」と言われたが、果たして猫は歳をとって甘じょっぱいものを欲しがるようになるのだろうか。

絶妙な顔。


 たまちゃんはパワーがあまりなかったので、高いところや重いふすまを開けることはできなかった。なので台所の、奥の物置につながるふすまは開けられなかったし、聡太くんがよく登っている台所のコップを並べている棚に登ったりはしなかった。
 でもいっぺんだけ、コップの棚に登ってしまったことがあるらしく、「どうやっておりよう」という顔をしていたらしい。母氏が「ここからこう、こう、こうって降りておいで」と説明して、その通り降りてきたという。けっこう賢かったのではなかろうか。

 たまちゃんはたまに脱走した。玄関を開けて出て行ったり2階の窓から屋根の隙間に逃げたりした。逃げても隠れているだけなのになぜか逃げた。猫というのはよくわからない。
 脱走されると心の底から悲しかった。でも玄関でずーっと待っていたら帰ってきたこともあるし、野良猫に追いかけ回されて怯えきって帰ってきたこともある。
 あと家のなかでどこに行ったかわからなくなったことも何回かあった。たいてい物置に隠れていて、家族でさんざん探して「まさか脱走した……?」と言い始めたころにヒョッコリ出てくるのだった。

完全に野生を忘れている。


 たまちゃんは可愛かった。いまだに「脂がのっている」のステッカーの貼られたカツオの刺身(亡くなる前の日、なにも食べなかったたまちゃんが唯一自分から食べたものがカツオの刺身だったのだ)を見るとウッとなるくらい可愛かった。「アニメージュとジブリ展」の物販コーナーにあったまっくろくろすけのぬいぐるみを見て泣きたくなるくらい可愛かった。
 でもその悲しみからは少し立ち直ったと思う。聡太くんという新しい家族を迎えて、毎日かじられたり猫パンチされたりしているからだと思う。
 薄情と思われる方もいるかと思うが、ペットロスにいちばん効く解決法は、状況が許すなら新しい動物の家族を迎え入れることではないだろうか。新しい家族に振り回されるうちに、だんだんと傷が癒されていくというか、悲しんでいる場合でなくなるというか。
 それでもたまちゃんのことは忘れない。黒くてちっちゃかったたまちゃんは可愛かった。

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