小説『人間きょうふ症』38

 ぴー。ぴー。ぴー。
 聞き慣れない機械音が耳元で囁いていた。薄く目を開くと、見慣れない黒い点がいくつもある白い天井に、薄い色のカーテンが自分の周りを囲っていた。ここがどこなのか考えながら身体を起こそうとしたが、金縛りのような感覚を覚え、起き上がることはできなかった。手も足もあまり動かせない。声は唸り声。私はどうしたものか。
 数分して周りの状況が掴めるようになったのか、とある話し声が聞こえた。
 「佐藤さんの容態は無事ですかね…?!」
 「落ち着いてください!きっと大丈夫ですから!」
 「きっとでは安心できませんって!佐藤さんのところへ行かせてください!」
 「静かにしてください!他の患者様がご迷惑です」
 「でも…」
 泣き噦るような声が段々と大きくなっていった。
 「佐藤さん!佐藤さん!どこ…!?」
 以前にも聞いたことがあるような声だ。きっと…。
 「せん…せ…い…。ここに…います…。」
 かなり霞んだ声で返答した。私の声が聞こえたのか、さらに近づいてきてカーテンを開いた。
 やっぱりK先生だった。
 「せ…んせ…い…」
 先生は頑張って声を張ろうとする私を素早くぎゅっと抱きしめた。
 「ごめんね…。本当にごめんね…。」
 なんで謝っているのだろう。何かしたのかな…?

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夕渚
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