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第8話 外見を失った悲しみを象徴する夢

脱毛が止まらないことに思い悩む日が続く中、ある夢を見たことを覚えています。
夢というのは、起きてからしばらくすると完全に忘れてしまうことが多いですよね。でも、この夢は当時の自分の心境を表す象徴的なものだったので、今でも断片的に覚えています。

その日、夢の中では髪の毛が急に生えてきました。
ところが、ものすごく太い髪の毛なのです。直径1mmとか2mmくらいありそうな、極太の髪の毛。そして、伸びる速度がとてつもなく速い。朝、髪の毛が伸びてきたなあと思えば、夕方にはもう散髪しなくてはいけないほどに伸びている。
それはそれで困ってしまいます。
だけど、私は夢の中でとても安心しました。
生えてこない髪の毛には対処のしようがないが、伸びるのが早いのであれば毎日散髪すればいいだけだ。何の問題もないじゃないか。本当によかった。
傷だらけの体にモルヒネ注射を打ってもらったかのように、あたたかい安堵感に包まれたのです。

そして、そのあたりで目が覚めました。
なんだ夢か。そうだよな。そんなことが起こるわけがない。

とても辛く悲しい経験でした。
そんな夢を見てしまうほどまで、自分自身が髪の毛を気にし続けていることを再認識したのです。

この時期、起きている間はずっと外見のことを気にしていました。
朝起きて、鏡など見たくもないのですが、つい見てしまいます。頭皮や眉毛の抜けてしまった部分を調べて、薄い産毛が生えているのを見て喜んだり、でもこの産毛は前から生えていたのかもしれないと思い直したりと、非生産的なことに時間を費やします。
人と会うのが嫌なので外に行きたくないのですが、どうしても外にいかなければならない用事もあります。帽子を目深にかぶり、他人の視線を浴びないようにこそこそと歩きます。
食事をしていても、本を読んでも、音楽を聴いても、何もしなくても。とにかく、起きている間に考えているのは自分の外見のことでした。どうやったら以前の自分の外見に戻れるのだろうか、戻れないとしたらどう生きていけばいいのか。答えのない自問自答をグルグルと繰り返していたのです。

本当に、毎日がつらい日々の連続でした。ゴールが見えない暗闇を、ずっと歩いている気分でした。

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