地デジ用アンテナスタックの実験
地デジ波を用いて気象予測するのであれば、出来るだけ多くの異なる経路を通ってきた電波を拾って予測に寄与する情報を得たいものです。県内外の親局や中継局の電波を受信できるようにと、オールチャンネル用とローチャンネル用のアンテナをスタックして、幅広い帯域で十分な感度で受信するために設備を構築しましたが、どうしても面倒な課題がありました。
それはスタックの位相調整です。スタックの上下段で異なるアンテナを使用しているため、アンテナの位相特性が異なるので周波数ごとに位相調整してから混合する必要がありました。
自動的に全てのチャンネルの電波を観測するには、電子的に位相調整する装置(移相器)が必要になります。これがUHF帯となると設計製作がシビアで測定器がなければ自作するのは大変です。
そこでふと思いつきました。
電界中の無給電エレメントによる再放射は、波長に対してエレメントが共振長よりも短いと、見かけ上容量性リアクタンスのようになり電界に対して位相が進み、長いと誘導性リアクタンスのようになり位相が遅れます。
ローチャンネル用のアンテナは導波器の長さがオールチャンネル用に比べて若干長いので、28chあたりを境に周波数が上がるにつれてオールチャンネル用よりも位相が遅れてくるはずです。
ところで、以前実験でアンテナを水平よりも若干上に向けると、山岳回折により山を越えてくる隣県局のチャンネルの受信レベルが少し上昇することを確認しています。
上記の理屈からスタック上下段の配置はこれまでとは逆に、上段にローチャンネル用、下段にオールチャンネル用を配置すべきと考えました。この配置にすれば位相調整を適当な位置に固定した状態で上下段を合成すると、28chあたりを境に周波数が上がるにつれてビームパターンが上を向き始めるはずです。
これまでのアンテナ配置では主要な5波のうち、13ch,16chの2波か、28ch,30ch,32chの3波のどちらかに位相を合わせてから混合しなければ十分な受信レベルが得られないので、わざわざ周波数ごとに位相調整してから混合するという面倒な事をしなければなりませんでした。
しかし、上段にローチャンネル用、下段にオールチャンネル用を配置することで、わざわざ周波数ごとに位相調整してから混合するという面倒な事をせずとも、位相調整を適当な位置(配線長で設定)に固定したままで、山岳反射による主に周波数の低い県内局と、山岳回折による主に周波数の高い隣県局を、周波数によるビームパターンの変化を利用して全体的にそこそこのレベルで受信できるのではないかと思いました。
ともあらば、まずは実験。アンテナスタック上下段の配置を入れ替えて以下のようにします。
位相調整は配線長で設定し、上下段の信号を混合します。配線長はカットアンドトライで決めました。
結果は以下のようになりました。いずれも位相調整を固定した条件です。もともと受信レベルの高かった13chと16chは妥協しました。アンテナの地上高の影響を受けるので一概にビームパターンの効果とは言えませんが、思惑通り全体的にそこそこの受信レベルで、観測に使う分には十分です。
ローチャンネル用アンテナはメーカー公称スペックで13ch~34chまで対応となっておりますが、少なくとも実測可能な最も周波数の高いチャンネルである50chまではある程度利得があるようです。ローチャンネル用なので当然ハイチャンネルでは利得が落ちますが意外と粘るようなので、オールチャンネル用とスタックした場合、34chより上でも鋭さは無くなりますがビームパターンは若干上を向いているようです。