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山の話1 山岳会入会記:18歳、冬山と出会う
山との出会い
10代の終わり頃、テレビドラマで見た山男の姿が、私の心を揺さぶった。
寡黙ながらも力強いその男は、山小屋で危機に瀕した女性を救い、私の中のヒーロー像を塗り替えた。
高度成長期の熱気が冷め、若者たちが将来への不安を抱えていた時代。
私もその一人だった。
昼は歯科技工所で働き、夜は定時制高校に通う日々。
そんな中、山は私にとって、閉塞感を打ち破る希望の光となった。
集会場
初めて訪れた集会場は、荒川のすぐそば、日暮里駅から少し歩いた場所にあった。
薄暮に包まれた晩秋、道行く人々が肩をすくめ急ぐ中、私は緊張しながら階段を上った。
部屋に入ると、そこには山をこよなく愛する人たちの熱気が満ちていた。
山男山女と呼ばれる先輩たちのたくましい姿に、まだ高校生の私は圧倒され、同時に強い憧れを抱いた。
入会
入会説明会では、○○さんの力強い挨拶が印象的だった。
「お茶くみはしないけど、会務をしている副代表の○○です」という言葉に、このクラブの活気と熱意を感じた。
昔から「より高き、より困難」という山岳会のモットーに惹かれていたので、迷わず入会を決めた。
初めての山行
入会して間もなく、いきなり11月の冬合宿の荷揚げしかも剣岳の荷揚げというハードな山行に連れて行かれることになった。
山のことなどほとんど知らなかった私は、その厳しさを全く理解していなかった。
金もなかったので、神田の○○スポーツで最低限の冬山装備を揃えなければならなかった。
ヤッケ、キスリング、登山靴……。店員さんのアドバイスを頼りに、一つ一つ選んでいく。
10月に入会し、慌ただしく準備を進めた。
パッキングの仕方も分からず、キスリングにテントや食料を詰め込み、形も崩れたまま上野駅へと向かった。先輩にパッキングを見てもらい、丁寧に教えてもらった。
他のメンバーも続々と集まり、特にリーダーの女性が、小柄な体で大きなキスリングを背負っている姿には驚いた。
小さな体から想像もできないほどの力強さを感じた。
夜行列車に揺られ、富山駅に到着。そこからさらにバスに乗り継ぎ、ようやく登山口へ。
剣岳早月尾根
初めての雪山に興奮と不安が入り混じる。
道中は、重い荷物を背負い、息切れしながら一歩一歩進んでいく。
息苦しいだけでなく、足元が不安定で、何度も転びそうになった。
ようやくたどり着いた避難小屋。
暖炉の火が心地よく、疲労困憊の体を癒した。
翌日は、さらに高い小屋を目指し、険しい道を進む。
雪に覆われた岩場を慎重に歩み、眼下には雲海が広がっていた。
その絶景に一瞬、疲れを忘れた。
翌日は、荷物が軽くなったおかげか、比較的楽に2300mの伝蔵小屋まで辿り着いた。
小屋から先は、いよいよ本格的な冬山。
アイゼンを装着し、慎重に一歩一歩進んでいく。しかし、私はアイゼンの扱いに慣れておらず、何度も滑りそうになった。
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緊張と安らぎ
山頂を目指す本隊から遅れ、途中の岩峰のテラスで、同じようにアイゼンに苦戦していた同期と待つことになった。
私たちを気遣って、ベテランの女性先輩が話しかけてくれた。
クラブのこと、様々な山の話を聞いているうちに、緊張がほぐれ、心が安らいだ。
翌朝、テントを出てみると、眼下には雲海が広がり、その上に剣岳の雄大な姿が浮かび上がっていた。
紺碧の空に、雪を冠した岩稜がくっきりと浮かび上がり、そのコントラストは息をのむ美しさだった。
遠くには、加賀白山がまるで海に浮かぶ島のように見えた。
生まれて初めて見る光景に、私は感動し、同時に自分の小ささを感じた。