49. 大芦治『無気力なのにはワケがある 心理学が導く克服のヒント』
日本に戻ってきてからほどなくして、ひどい無気力状態に陥った。
それまで仕事はそこそこやってきたつもりだったのだが、新しい仕事と新しい職場環境にまったく適応できず、必要以上に凹んだ。
そして、無気力というか、無力感というか、直属の上司からも顔色の悪さを指摘されるようになり、結局、帰国からわずか3ヶ月後に異動。もっとも、仕事の内容はまったく変わらず、座席もそのまま、上司と所属部署が変わっただけ。
それでも、異動をきっかけに、仕事へのモチベーションは大方復活した。たった3ヶ月での異動を決断した新旧の上司には心から感謝している。
ジブン語りの前置きが長くなったが、その無気力の時期に購入したのが、『無気力なのにはワケがある』だった。残念ながら、当時は無気力すぎて本を開く気力すらなかったが、いま、ようやく読みはじめるに至ったわけだ。
本書は、読めばやる気が出る、だとか、やる気を出すための方法論的なものではない。副題にあるように、提示するのはあくまでも「ヒント」だ。
なぜ無気力になるのか、心理学をはじめとしたさまざまな実験から、その根っこを追っていく。
まずは、無気力は学習されるという説。
有名なパブロフの犬の逆で、コントロールができないという感覚を学習してしまい、結果、無気力になってしまうというもの。
ひっくりかえせば、自分の行動は自分で決める、つまり、コントロールできているという実感は、やりがいにつながるという説でもある。
こうしたアンコントローラブルな状況は、健康の悪化にもつながるというのが次の説。
コントロールできる範囲が広いと、確かにやりがいにつながる。しかし、そうして範囲を広げていった先には、難易度の高い課題が横たわる。
たいていは、優秀だからこそ、コントロールできる範囲が広くなる。そして、優秀な人間ほど、その次にそびえる高い壁にぶつかるようになる。結果、管理職の疲弊や、優秀と思われていた人間のうつという結果を招く。
では、どうすればいいのか。ヒントとなるのが、遂行目標と学習目標というキーワードだ。
遂行目標とは、学習そのものではなく、学習に伴う成果や社会的な評価である。一方、学習目標とは、学習によって知識を増やし、深め、技能や見識を高める行為そのものである。
遂行目標にフォーカスしてしまうと、少しでも壁にぶつかったら、すぐに学習性無力感に陥ってしまう。そうではなく、学習目標にフォーカスし、あるいはフォーカスさせ、学習性無力感から遠ざけられる可能性が高まる。
「無気力のワケ」は学習性無力感であり、そこから脱却する鍵は、学習目標へのフォーカス、コントロールできるという成功体験、そして、オプティミズムであると、本書は説く。
なるほど、ぼく自身の無気力時代は、コントロールできないという無力感と焦りだったと、いまとなってはよくわかる。そして、多少なりとも得意分野にフォーカスできるようになり、その無気力は徐々に消えていった。
次はオプティミズムで、さらなる飛躍を期す。という心意気も、一種の楽観主義。