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第27回桜門杯争奪全日本学生弁論大会の感想

2024年10月5日(土)、第27回桜門杯争奪全日本学生弁論大会に参加しましたので、感想を記します。

学生弁論生活最後の1年間がどんどん過ぎていき、ついに最後の秋冬シーズンが到来しました。
前回のnoteでは「参加した全ての大会でnoteを書くことを目指したい」と宣言してみたものの、その後の2大会で細々とした予定が入ってしまい全弁士を観ることができず、気づけば秋になってしまいました。)

例年の幕開けとなる桜門杯は、3年前に自分が初めて出場した大会でもあり、思い入れの深いものです。
夏休みを経て各部会で鍛えられた1年生たち(+上級生)、どれだけ活きの良い弁論が観られるか、今年も期待しています。


午前

第1弁士「迂回路」(國學院大學)

弁論として最低限の形は整っていたが、論理構造に恣意性と不十分さがあるように思う。
政策が先にあり、それを正当化するための分析が行われたように感じる。
データの提示(信頼性は別だが)からの問題設定の語り方は上手かった。

しかしここまでで5〜6分が費やされてしまい、問題の真因が何なのか、解決すべき・解決できる課題は何なのか分からないまま、何に対するものか分からない政策に至ってしまった。
現状の支援に有効性がない理由が3点提示されていたが、3点あること自体が課題特定の不足を物語っている。
問題を提示した後、政策に至るまでの接続部分をさらに深堀り・論点整理し、字数を割くとなお良くなると思う。


第2弁士「沈黙の悪魔」(東京農業大学)

弁論としておおむね1本の筋は通っており、一定の完成度には達していたと思う。

残り1点の議論、解決策自体への分析が不足しているように考える。
弁士の言うようにそれほど大変素晴らしい手段が存在しているのであれば、それが普及していない原因=課題を特定し、その課題を解く解決策を提言できるはずである。
この点が明らかになっていれば、違和感のない弁論であった。


第3弁士「おみずおみずおみず」(東京大学)

なかなか良い弁論であった。(優勝だと思っていました)
まず、力強い声量、態度(、東大ラベル)によって、説得力のある雰囲気を纏っていた。

弁論の内容についても、多少でも水道事業の政策を追っている人にとっては良くある論点ではあるものの、示唆深い提言であった。
「チームおみず」を作るという提言については、弁論だからこそのポップな見た目ではあるが、霞ヶ関に相当の部局を作るものであると理解した(上下水道担当の審議官の直下に置くイメージをした)。

質疑や審査員講評で指摘されていた「民営化になぜ反対するのか」については、些末な論点であり趣旨から外れると考えるので、指摘は当たらないように思い、弁士に共感する。
なお、蛇足ではあるので、民営化の話は取り下げておいた方が良かったのかもしれない。

ちなみに、まずは下水道からだが、財政投融資の面からなんとかできないかという流れもある。参考:「下水道事業者の資金繰りの研究」(令和6年6月17日 財政投融資分科会)


第4弁士「八方美人」(慶應義塾大学)

問題設定に共感できなかった。
弁士の理想とする状況は既に一定程度実現しているように思う。

減税を求める有権者がいて、政治家はその目に見える欲求そのままに減税を行うのではなく、有権者が何に苦しんでいるのかを考えて、景気促進策を採るべきかもしれない、といった具体例が挙げられていた。
この具体例は、まさに現実に日本で起きていることである。
物価高の中、各種の世論調査で国民が減税を求めているが、現実に減税は行われていない。
であるからして、弁士が何を問題視しているのか、分からなかった。
現実社会ではなく、本の中(古代ギリシャの世界)に問題を見出しているように思えてしまった。

哲学的な議論と現実社会の具体例を結びつける手法には光るものがあった。


第5弁士「縁の下の力持ち」(早稲田大学)

おおむね良くまとまっていたと思う。
リスクを問題設定にする弁論は難しいが、よく論じられていた。

政策の詰めが甘い部分があった。
政策を提言するまでに、「多角化が必要」という方向性は論じられていたが、その手段についての分析が薄かった。
故に、「60%」という数字に根拠がなかった。

あと一歩で完全になるように思う。
お疲れ様でした。


昼休み

水道橋駅の南側、一捻りあるラーメン屋が多くて大好きです。

ラーメン大戦争 水道橋店(「衝動」¥1000)


午後

第6弁士「教育 3.0」(中央大学)

弁士の目指す社会からして分からなかった。
日本企業のDXが進んでいない現状を示せておらず、課題特定に至る前段で議論が止まってしまっている。

DXと言っても色々ある。
それを一緒くたにして「DXの技術はあるが活かせていない」というフレームに当てはめるのは無理がある。
仮に当てはめたとしても、なぜ進んでいないのかの分析がほぼなされておらず、リカレント教育を推進するための休暇制度という解決策に強引に結びつけられてしまっている。


第7弁士「停滞する研究」(明治大学)

問題設定が大きすぎるのに対し、解決策が小さすぎた。
弁士が提示する解決策によって、本当に日本の研究力を世界並みに回復させることができるのか、よく考えてほしい。

1つの解決策によって国家規模の問題を解決するのは無理がある。
全てを解決しようとせず、課題の輪郭を明確にし、真に解決すべきものはどれか、分析することを怠らないようにする必要がある。

また、弁論では聴衆に聴いてもらう工夫が重要となる。
まずはその出発点として、聴衆の方を向くことを期待したい。


第8弁士「百花斉放」(法政大学)

問題設定と分析以降が対応していなかった。
冒頭で価値観を変えたい、と強調していたものの、後段では価値観ではなく政策の話ばかりになり、弁士が理想とする社会の実現には結びついていなかった。

さらには後段からの問題設定について、就労継続支援B型において労働契約がなく安い工賃しかない、というのは、問題でもなんでもなく、ただの現状の制度の説明でしかない。
それがどう問題なのか、それは弁士の価値観であり、そこは価値弁論的になるにせよ、一般化しないとその後の政策で説得できない。

また、原因分析で提示された「労働契約がない」は原因でも分析でもなく、現状を細かく説明しただけである。
弁論の構造をひとつひとつ捉えて、各主張が根拠づけられているかチェックし、その中にトートロジー、または主観による根拠づけしかない部分を探し、論理的に主張できているか注意する必要がある。

(自分ならどういう弁論にするか)
就労継続支援B型の施設(またはそれに準じる障害の重さの人々が働いている施設)でも、最低賃金並みかそれ以上の賃金を出しているところがある。
どのような成功要因によってそれが実現しているのか特定し、それを一般化するために政府ができることを探る、など。


第9弁士「ジャパンアズナンバーワン」(日本大学)

"マクロ経済学"の権威性を信奉しすぎているように思う。
その根底として弁士の持つイデオロギー的なものに固執した弁論になっていないか、危機感を抱いた。
青山繁晴、藤井聡、山本太郎のようなオピニオンリーダーに引き摺られていないか…。

また、根本の問題意識に立ち戻って解決策を考えてほしい。
経済財政諮問会議にマクロ経済学者を1人招くだけで、ジャパンアズナンバーワンが実現できるのであろうか。


総評

全体として、一定程度の完成度に達していたように思います。
あまりに暴論、というようなトンデモ弁論がなかったことはかなり良いことです。

一方、これまた全体として、明らかな残論点がある弁論が多かったように思います。
また、他より頭ひとつ抜けた素晴らしい弁論、というのも見受けられませんでした。
是非、リサーチやレトリックだけでなく、頭を使って問題の構造を捉える手順をさらに重視してみてください。

最後に、審査員長の講評に共感するところがありましたので、メモを記します。
「インパクトだけで受けるのは、YouTubeやTikTokだけで良い。弁論はそうではない。」
→「インパクト×実現可能性」で説得力は評価すべきです。学生ノリでインパクトだけを重視しようとする風潮への警鐘として、共感しました。
「質問者が質問を忘れるとは何事か。」
→他に質疑をしたかった人の気持ちも背負って質疑したいものです。本気で刺せる質疑がないのであれば手は挙げないべきだと思います。(一方で質疑技術は場数がものを言うので、許容すべき部分もあります)


さいごに

ご意見、ご感想、ご批判などをお待ちしています。
聞き取りきれず誤認している部分や、不本意な解釈があるかもしれません。
著者に直接ご連絡くださいませ。


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