Web3において日本の税制を変えない限り日本に未来はないと思う件について。
こんにちは、Astar Networkの渡辺創太です。今回は「Web3における日本の税制」をテーマに、日本の税制の現状や今後どうすればいいのか、など自分の見解を述べていきます。これからWeb3で起業したい方にとって、この記事が何かお役に立てば嬉しいです。
Web3における日本のガラパゴス化
はっきり言うと、暗号資産に関する日本の税制を変えない限り、日本のWeb3に未来はありません。起業家としての意見ですが、特に法人が保有する暗号資産の期末課税の問題は全く的を得ておらず、この税制があることで日本でWeb3ネイティブなビジネスをする事業者は厳しい状況にあります。もしアイデアがあっても、税金で会社が潰れる可能性があるため、なかなか創業できず、ましてや海外から最先端のプロジェクトを呼び込むこともできるはずがなく、リテラシーの高い起業家はどんどん日本から抜けて海外で最初からスタートするので、日本のガラパゴス化が凄まじいスピードで加速しています。
Web3ネイティブなビジネスをすると目指す先が世界規模のオープンで透明性高くパーミッションレスなDAOやビットコインのような理想像なので、参加者間同士でコラボレーションするためにパブリックブロックチェーンで発行されたトークンが必要になります。このコラボレーションツールは流動性の低い株でも、円でもドルでも代替できません。しかし、このトークンを発行すると税金で会社が潰れます。繰り返しますが、節税のレベルではありません。マジで潰れます。
日本の税制の現状
例えば、Astarを日本でやっていてトークンを日本で発行した場合、2022年に我々が納めなければならない税金は約200億円です。トークンで発行しマーケットでついた額(上場後の株価と一緒)なので、もちろんそんな現金はありません。日本政府はトークンで税金の支払いを受け付けてくれないので、トークンを現金化する必要があります。仮に200億円を運営主体であるAstarチームが1年以内にマーケットで現金化した時にどうなるでしょうか?
まず第1にマーケットが持たず価格が崩壊する可能性が非常に高く、プロジェクトのレピュテーションが下がり事業継続困難になることは疑いの余地がありません。第2に保有トークンはガバナンストークンとして機能するため、自社保有のトークンを売ることはネットワーク全体の意思決定権を手放すことであり、短期で多くのトークンを手放すことで推進力がなくなります。本来であれば段階的に分散化を進めるところを一瞬で分散化せざるを得なくなるため、こちらもプロジェクトの継続が困難になるでしょう。この仕組みがいかに馬鹿げており、理解していない人たちが作り上げた悪法であるかは、クリプト最大メディアのCoinDesk本家の記事にも英語で取り上げていただきましたが、海外のプロジェクトや関係者からも、「流石に酷すぎる」、「ここまで酷いのは日本くらいだろう」といった内容のコメントを複数もらいました。
一年前ほどからこの話題に関して当事者として発信していましたが、当時は相手にされませんでした。しかしながら、日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkで世界レベルの数千億円、これから数兆円の挑戦をやっていくことで、日本の世論も変わってきたと思いますし、これからもより良い方向に変えていきたいと思っています。僕個人としても会社としても日本の暗号資産に関する税制が酷すぎるので、海外に出ており、日本に拠点を持っていないので、この文章を書くこと自体にメリットは全くありません。ただ、これから起業していく人たちが僕らが経験したような大変な思いをしてほしくないと強く思っており、自分達が発信することで世の中が変われば良いと思い、この記事を書きました。
では、どうするべきなのか?
飛行機の中で書いているので激浅な考察になりますが、愚痴る行為そのものに価値はないので、解決策も大枠ですが提示したいと思います。前提として税務の専門家では全くないので、詳細は柳澤先生や泉先生にお任せしたいと思います。
まず、意思決定者(多くの場合政治家先生)に正しい知識と最先端の情報を理解していただくことが最初のステップかと思います。
色々な記事を読んでいて、いまだにICOとか印象論が出ていることに個人的に驚いています。例えば、資金調達の方法1つ見てみてもグローバルでは肌感9割くらいがSAFTという手法で資金調達しており、1割未満がICOやIDOなどです。あくまで肌感ですが、IEOに限ってはもっと少ないと思います。それにもかかわらず、ICOがどうこうとか言われても情報が古すぎると思うことが多々あります。
実際、SAFTなど最先端でやっているプレーヤーはそもそも日本にいなく(日本人の数も10人もいないかもしれませんが)、2次情報や3次情報ではなく1次情報をインプットしていかないといけません。もっというと、Gavin WoodやVitalik、Juan Benetのような超最先端のトップティアの人たちに教えを乞わないといけないと思います。肩書きや過去の経験とかはどうでもよく、むしろ実績ベースで人を選定し生の情報を得たほうが、いわゆる専門家や肩書きが凄そうな人より良いと思いますし、間違った人に教わることほど悲劇はありません。
次に、経済特区を設定しWeb3起業家、投資家を集積させること、自社でパブリックブロックチェーン上で発行するトークンに関しては期末課税を完全に撤廃し、暗号資産を法定通貨に換金した時点において課税対象とするのが良いと思います。この場合、いわゆるトークンとトークンの交換に関しては課税対象にするのには反対です。トレジュリーマネジメントと呼ばれますが、プロジェクトは安定した運営を目指すために自社で管理するトークンを自社発行ずみのもの100%にするのではなく、USDTやUSDC、BTCやETHにすることでリスクを分散した方が良いため、トークン間の交換に課税されるのは厳しいです。
そもそもどこで起業しようが、インターネットにつながれば関係ないのがWeb3です。日本国として人材獲得の競争関係にあるのは、キャピタルゲイン課税0であるシンガポールやドバイであり、また税収の観点においても日本は一定の妥協は許し、まず人材が海外に大流出している止血作業を急ぐ、シンガポールやドバイまでは行かなくても合理的な範囲である税率に設定するのがよいのではないでしょうか。少なくても現状は海外流出で税収も減り、本当は日本でやりたい事業者が出て行かざるを得ない誰も得してない状態なので、事業者にインセンティブを持たせ、そもそものパイ自体を拡大し、そこから税収を得た方がみんな得をすると思います。