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【最強のライフハック】非暴力的コミュニケーション(NVC)で仕事と生活のクオリティを爆上げしよう

突然ですがみなさんは非暴力的コミュニケーションを知っていますか?

非暴力的コミュニケーションは、英語ではNon-violent communication (NVC)と呼ばれる、心理学者Marshall B. Rosenbergによって開発されたコミュニケーション方法です。

NVCの根本的な思想は、相互理解と尊重を生み出し平和的で思いやりのある方法で人と人との間の利益の相反を解決することを目的としています。

管見によれば、日本のビジネス界ではNVCはそこまで浸透していないように感じますが、実はこのコミュニケーション手法はチームの心理的な安全性を高め、個人のQOLを高めるのに非常に高い効果を発揮するのではないか?と考えています。

私自身、スクラムなどエンジニアリング組織の生産性向上とチーミングの文脈で、自分の仕事にNVCのアイデアを日常的に取り入れるようにしています。

この記事では、NVCの基本的な考え方と、NVCがどのようにチーミングを促進し、個人のQOLを高めることにつながるのかを紹介したいと思っています。


1. 非暴力的コミュニケーション(NVC)の原則

NVCの基本的な原則は以下の通りです。それぞれの英単語の頭文字を取って、OFNRと覚えると良いでしょう(覚えづらいですね)

1. 観察/Observation - 相手を非難したり批判したりすることなく、客観的な方法で状況や行動を説明すること。

2. 感情/feelings - 相手の行動や状況に対する自分自身の感情を表現すること。その感情が相手によって引き起こされたものではないことを示すこと。

3. ニーズ/needs - 感情に対して根底にある必要性や価値を特定すること。具体的な行動や状況に焦点を当てるのではなく、自身の内発的なニーズに焦点を当てること。

4. 要求/request - 根底にある必要性や価値を満たすために、明確で具体的な行動を要求すること。相手に命令したり強要するのではなく、行動を要求すること。


1.1 観察/Obesevations

非暴力コミュニケーション(NVC)において、「観察」とは、客観的な方法で状況や行動を説明することを指します。これは、相手の行動を解釈したり評価したりするのではなく、状況の具体的な事実に焦点を当てることを意味します。

観察は、NVCにおいて最も重要かつ困難なステップです。状況を客観的に、具体的な事実に基づいて説明するためには、自分自身の解釈や仮定を一切捨て去ることが必要となります。そして、それはとっても難しいのです。

例えば、あなたは、同棲しているパートナーが常に洋服を脱いだままにして玄関に放っておくことに腹を立てているとします。それを誰かに伝える時に、"観察"に基づいた方法で伝えるにはどうしたら良いか。

ダメな例は、”彼はいつも脱いだ服をそこかしこに放っておくのよ”みたいな表現です。いつも”という単語は、人によって定義が変わるので、主観的な評価です。これを言われた相手は、”いつもじゃない!”と言い返すことが容易に想像できますね。

言葉の中には、話し手の主観的な解釈・判断を含む物が多くありますが、これらのは、全てNVCでは禁止されています。特に、相手の行動の動機や意図などを、事実の観察として混同するのは絶対にNGです。

私たちは気を抜くと、簡単に「あいつはいつも人を馬鹿にして見下したようなことを言うんだ」のような言葉を発してしまいます。NVCでは、具体的にいつ、相手がどのような言葉を発したのかという事実のみを表現することが求められます。


1.2 感情/feelings 

非暴力コミュニケーション(NVC)において、「感情」とは特定の状況や行動(観察/Observation)に対して生じる感情を指します。感情は、個人が自分のニーズや価値観を明確かつ効果的に特定し、伝えるために重要な要素です。

NVCは、感情を抑圧したり否定したりするのではなく、正直な方法で感情を表現することが重要であるとしています。感情を認め、率直な表現することを通じて、共感に基づく他者との深い理解とつながりを作り出すことができるのです

個人が経験する感情には、悲しみ、怒り、恐怖、喜び、挫折感、罪悪感、恥、感謝、など、さまざまなものがあります。

ここで重要なのは、NVCでは、感情を他者を非難したり批判したりしない方法で表現することがルールになっています。これは、英語だとわかりやすいのですが、英語の感情に関わる動詞は他動詞の形式をとり、自分の感じている感情が他の誰かによって引き起こされているという形を取る傾向があります。例えば、You always irritate me.(あなた本当イラつくわね) のようなものですね。他にも、interest, disgust, frigten など、あげればキリがないですね。

NVCにおける感情は、あくまで自発的なものとして表現される必要があります。自分の感情の責任は常に自分にあり、感情の原因は満たされていない自分のニーズにある、と考えるためです。そのためん、感情の表現に他責的な表現(〜のせいで)を使うことは許されません。


1.3 ニーズ/needs

非暴力コミュニケーション(NVC)において、ニーズは私たちの行動や感情を駆動する根本的な人間のニーズを指します。ニーズは、個人が自分の行動の背後にある動機や価値観と言い換えることができるでしょう。

NVCは、文化や背景、状況に関係なく、すべての人間が同じ基本的なニーズを共有しているとしています。例えば、以下のようなものがその例だと言えるでしょう。

・物理的なニーズ(食べ物、水、住居、休息など)
・安全に対するニーズ(危険からの保護など)
・人との結びつきとつながりに対するニーズ(愛、友情、コミュニティなど)
・尊敬に対するニーズ(認識、尊重、自己価値感など)
・自律に対するニーズ(自由、独立、選択など)
・意味と目的に対するニーズ(創造性、貢献、精神的なものなど)

NVCにおいて、自分自身のニーズを説明する際のアンチパターンは、ニーズを表現するそぶりで、実際は他人の行動や性格をジャッジしたり診断する言葉を使うことで、相手を責めるような言葉遣いをしてしまうことです。ニーズは常に I メッセージで表現され、相手を主語にしない物である必要があります。

たとえば、「あなたは自分勝手すぎるので、もっと私の話を聞いて欲しい」と言うことは、自分自身のニーズを表現しているとは言えません。正しくは、「私は自分の話がしっかりと届き、理解されたということを認識したい」または「自分が話していることが重要で他の人に対しても重要であると認識したい」というものになるでしょう。


1.4 要求/requests

非暴力コミュニケーション(NVC)、リクエストは、個人が自分のニーズを満たすために求める行動や行動のことです。例えば以下のようなものがあります。

1. 特定の行動や行動を求める:「今晩、皿洗いを手伝ってくれませんか?」
2. 特定の相互作用の質を求める:「この問題について、冷静で敬意を持ったやり方で話し合えますか?」
3. 特定の戦略やアプローチを提案する:「一緒に解決策を考えてみませんか?」
4. フィードバックや明確化を求める:「もう少し詳しく教えてもらえますか?」
5. 時間を求める:「リチャージするために、一人でいる時間が必要です」

ニーズを正確に取られられていれば、それを満たすためのリクエストを行うことも簡単です。要求は、可能な限りシンプルで具体的である必要があります。”もっと掃除を手伝って欲しい”のような曖昧な表現ではなく、”帰ってきたら靴を揃えておいて欲しい”のように具体的な要求をするように心がけましょう。



2. 非暴力的コミュニケーション(NVC)の実践

NVCのOFNR原則は理解できましたでしょうか。なんとなくわかったという方も、どのように日常的に活用すれば良いのかわからないかもしれませんね。

ここでは、具体的なシチュエーションをもとに、どのようにNVCを活用したコミュニケーションを取ることができるのかを考えてみたいと思います。


2.1  Giraffe language vs Jackal language 

NVCを利用するコミュニケーションは、Giraffeコミュニケーションと呼ばれます。これは、キリンの心臓が哺乳類の中で一番大きいので、Rosenberg博士がそう名付けたと言うことらしいです。反対に、VC(暴力的なコミュニケーション)のことは、Jackalコミュニケーションと呼びます。

下記では具体的なGiraffeコミュニケーションとJackalコミュニケーションの対比を提示してみます。

Jackal Communication vs Giraffe Communication

Jackal language : "あなたいっつも私の話聞いてないよね、人の話をいつも遮ってくるし、本当にムカつく"
Giraffe language : "あなたが私が話している途中に話し始めるとき(O)、私は自分の意見が伝わっていないかと不安になります(F)。なぜなら、私は敬意と配慮を重視する人間だからです(N)。私の言葉に反応する前に、私が話し終えるまで待っていただけませんか?(R)”

Jackal language : "あなた本当の自己中心的だよね、自分のことしか考えていないじゃないですか"
Giraffe language : "あなたが私に話さずに計画を中止にした時に(O)、私は傷つき残念に感じました(F)。なぜなら、私たちの関係において、私は信頼を必要としているからです(N)。二人が納得できるような計画を一緒に考えてもらえませんか?(R)

いかがでしょうか。Giraffeコミュニケーションでは必ず、具体的な事実の描写から入り、それがどのような感情を惹起させたのか。そしてそれがどのような自分の心理的なニーズに基づいているのかを話しています。そして、最後に自分のニーズを満たすための要求を明確に伝えています。また、すべてのコミュニケーションが他責的な色彩を帯びず、自己内在的なものとして表現されていることがわかるでしょう。

人は、自分が非難されていると感じると、心理的な防衛機能が働き、否定や責任逃れに走ります。Jackalコミュニケーションのような言葉をかけられた時、私たちはこう感じるわけです。”いつもっていつだよ!” とか ”自分のことしか考えてないわけないでしょ!”と言いたくなりますね

そうではなく、Giraffeのように、個人に内在する感情やニーズを通じて相手に自分の要求を伝えることで、自分と相手の間には”共感”の回路が生まれるのです。この共感の回路が成立すると、私たちは相手のニーズを満たしてあげたいと感じ、その慈しみがコミュニケーションをよいものにする動機につながるのです。


2.2  NVCを仕事で使ってみよう!

理論において最も重要なのは実践と応用です。ここでは私が仕事においてどのようにNVCを活用したいと考えているかを簡単に紹介します。

①:フィードバックや1 on 1における活用
NO RULESでも紹介された通り、日本人は特に直裁的なフィードバックが苦手です。1on1は行っているものの、曖昧で穏やかだが本質的でない、ダラダラした会話がひたすら繰り広げられ、期末の評価は散々といった経験はありませんか?

また、フィードバックを行う側に対しても、改善してほしい事項をコミュニケーションすることは、多大な心的負荷を要求します。言外のニュアンスで伝わってほしかった!というのは、インパール作戦での河辺と牟田口の会話を彷彿とさせますね。(失敗の本質は日本人論としても組織論としても白眉です)

私が(未だそのようなポジションにはないですが今後)マネージャーとして実践したいなと思うことは、NVCの枠組みを紹介して、必ずこの枠組みに基づいてFBを行うという約束をすることです。そもそもNVCは、Rosenberg博士の膨大な臨床経験に基づいて、相手に自分の求めている行動をとってもらうための最も効果的なコミュニケーション枠組みとして考案されました。その意味では、FBに最適なコミュニケーション手法だと言えるのではないでしょうか?

実際に、MicrosoftはFB手法としてNVCを活用し、マネージャークラスにはRosernberg博士の著書を購読することを勧めていることを明言しています。

私個人としても、昔から「あなたのためにならないからこうした方が良い」というアドバイスよりも、「私はこうしてほしいと思うからこうしてほしい」というアドバイスの方が入ってきやすいと感じてきました。その人のために頑張りたい、という動機づけを重視するビジョナリーリーダーシップの考え方にも、NVCは極めて親和性が高いと思っています。

②イラっとした時こそOFNRルールを心がける
仕事をしているとイライラしますよね。私は忙しいことに対しては全然イライラしないのですが、自分の言ったことや要求したことが他人の行動や成果に反映されていないと、とても強い憤りの感情を感じます。全然自慢になることではないですが。

私はNVCを知ってから、「イラっとした時こそOFNRに基づいて自分の感情とニーズを分析する」を心がけています。そうすると、この枠組みの中で一番難しいのは、実は観察/Observationであることに気付かされます。ドラッカーの言う通り、「正しい答え」を探すことよりも「正しい問いを立てる」ことの方が重要で困難なわけで、NVCは常に「なぜ自分はこのような感情に至っているのか」という根本の原因を究明することを問うてきます。

NVCは、”いつも”とか”絶対”みたいなJackal languageを許しません。イラッとしたのはいつどこで誰によって行われた具体的言動/行動なのか、常にそこから始める必要があるのです。

私は、物事を抽象化して一般的な傾向を見出すことに長けた、一般的には知的水準の高い人ほど、実はこうした個別具体的な事象に目を向けるのが苦手なのではないかと感じます。どうしても、”そんな小さな話をしているんじゃない”と感じてしまうわけです。

ただ、人間同士の関係を良いものにするという究極的な目的に沿って合理的に行動しようとする際に、相手の性格や人間性に対する抽象化や一般化に基づいて、相手に”●●な人間になってくれ”と要求するのは、筋論として優れているとは言えません。相手はきっと”俺は別に✖︎✖︎なわけじゃないんだけどな”と感じ、防衛モードに入ってしまうからです。

そうではなく、相手の具体的な行動が自分に対してどのような感情を惹起させるのか、それが自分のどのようなニーズに基づいているのか、という自己内在的な言語を使ってコミュニケーションすることで、相手のニーズを満たしてあげたいという共感回路を成立させることこそが、結局欲しい結果への近道であることを意識する必要があります。

イラっとした時こそ、まずは冷静なObservationを心がけましょう。

③自己理解を深める
OFNRの枠組みに沿って自分のニーズを分析する訓練を重ねていると、自分の苦しんでいる不快感やネガティブな感情が、実は相手の小さな行動や発言によって引き起こされていることに気付かされます。そして、それに苦しんでしまう自分のニーズと向き合うことで、自分のことをより深く理解することができるのです。

例えば、私はある友人を”向学心がない”という理由で遠ざけていた時期があります。しかし、NVCを学んでからこれがJackal languageであることに気づき、OFNRルールに基づく分析を行ってみました。そうすると、下記のように整理できることに気づきました。

O:「自分のスキルを伸ばしたい」と言いながら、そう言った日から一ヶ月間私の推薦した本を一冊も読まなかったこと
F:残念でがっかりした、落胆した
N:自分が価値がある感じている知識や学習方法に対して、他者から尊重を受けている状態でありたい。自分の提案や意見が相手に重要なものだと認識したい。
R:私の提案を部分的にでも良いので実践してみて、それに対してあなたがどう感じたかをFBしてほしい。

要するに、私は”自分の提案が相手にとって重要であり、リスペクトを持たれていると認識したい”というニーズが満たせなかったことで、ひどく落胆し相手を暴力的にラベリングしていたわけです。このように整理すると、他者からのリスペクトを受けたい、自分の考えていることが他者にとっても重要なものであると実感したい、という尊敬に対するニーズを強く持っている人間なのだと自己認識を改めることができました。

自分のニーズが整理できれば、それが惹起する感情との付き合い方も楽になります。こと仕事においては、尊敬に対するニーズが満たされないシーンはママありますので、ここを満たすために対人コミュニケーションをどうやって工夫するのか、という建設的な思考を行うことができると思います。

④おまけ:就活にも応用できそう?
書いていて思いましたが、これは就活の自己分析なんかにも応用できそうですね。

日本ではNVC自体の知名度があまり高くないので、面接官に響くかはわかりませんが、私が頑張って流行らせます。なのでこれを読んだ学生や求職者の皆さんはぜひNVCを実践して自己分析してみてください!



3.最後に 〜NVCについて一緒に考えてくれる方を募集します!〜

NVCはまだまだ日本では知名度の低い枠組みです。これからビジネスの現場でどのように活用できそうか、日本へのローカライズをどのように行うべきか(NVCはかなり英語の言語的特性に依存した枠組みになっています)などなど、考えるべきことが山積みです。イベントとか、勉強会をやりたいなぁ〜となんとなく思っております。

ご自身の生活を豊かにしたい方、チーミングのあり方を模索しているマネージャーの方、企業文化を醸成したい人事担当者、人間について理解を深めたい哲学者、エトセトラ。もしこの記事を通じてNVCにご関心を持っていただけた方がいれば、ぜひ一緒にNVCについての理解を深めましょう!ご連絡お待ちしております

Twitter:sota_omusan
LinkedIn:Sota Omura
mail: sota.omura@coincheck.com

*追記
私がNVCについて知ったきっかけは、UKのスクールで認定スクラムマスターの資格講座を受講した際に、講師の方が紹介してくれたことです。先人の知見の積み重ねに感謝します。


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