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#8.しんしょう

「あなたが、生まれることを選んで、望んだことよ。」
そう、言われ続けてきた。
あなたの魂は、あなたが選んでここに在るの。

それなら、初めから取り消したいと思った。
わたしが選択をし、手を伸ばしたというのであれば、わたしがそれら全てを無かったことにしようと、それもまた、わたしの選択であるはずだ。そう思った。

常、遠いところへ行きたいと思っていて、
実際、行ってみたこともある。
わたしが今、ここで見ているものから遠く離れた、想像では追いつかない、わたしの身の丈からずっとずっと向こう側でしか息ができないと感じた。

それでも、わたしはわたしに追いつく。
剥がしたかった。わたしの頭の中にあって、わたしの中心をゆっくり静かに侵すものから距離を置きたかった。
あまりにも強烈な自意識が、鋭くこちらを見つめているので、どうにかその眼差しに呑まれないように、縺れて、もつれて、どこへ向いているのかもう、わからない。

「あなたが、選んでここに在るの。」
呪いだと思った。何度も何度も、お前の選択だと指をさされる度に、頭の中で光が明滅して視界が歪んだ。

長く、付き合ってきたと思う。
いつからなんてことは覚えていない、それでも長く、それと歩いてきたように思う。

わたしはわたしと、頭の中のわたしと着実に年を重ねていた。
消えることなく、わたしはわたしの隣を離れず、憎いと剥がそうにも、触れることはできないものだから、わたしはわたしに疲弊したのだろうか。

諦め、それでよいと思えた。
遠くに行っても行かなくても、わたしはわたしから離れることはできない。
追いつかれるのではない、最初から、わたしはわたしを大事に抱えて、歩いていた。

「あなたが、望んで選んだことなのよ。」
それでよいと、わたしが決めた。
他の誰でもなく、わたしが選んだことであるならば、この感情の寄る辺を見つけようとしなくてもわたしは立っていられる。

呪いでよい。
わたしはわたしに祈ることができる。


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