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#11.りんかく

書きたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が浮かんではそのまま浮遊して、いつの間にかわたしの身の丈からは遠い遠いところで、所在なさげにこちらを見ている。ような感覚がある。
何を話したかったんだっけ、この感情を表す言葉ってなんだっけ、わたしはこの感情を知っていたんだっけ、あれ、わたし何を感じていたんだったかな。

言葉を持たないといけないんだったか、暑い熱いな、ああそういえば発熱していたんだった、あれ、ここに居たかったはずなのに、どこに居るんだっけ、吐く息が熱い。ああそうか、そう熱があるんだったね。

わたし、ここを守りきれるかしら。自分で選択したことを自分の感情で保つことを、続けられるかな。蝉の声の潔さを全身に浴びながら、そっと両手を重ねる。誰に咎められるわけでもないのに、祈ることへの罪悪感に目を閉じる。掌を合わせたときに伝わる熱が気持ち悪い。どうか、守りきれなくても生活が続きますように。

毎朝、遠くの山を見る。
陽のひかりに霞んで、雨で輪郭を取り戻し、雲にゆっくり煙る。
そうね、わたしはもうここに居るんだった。


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