舌の成人式
コーヒーは大人の飲み物です。だって苦いから。名古屋に住んでいた叔父さんがコーヒー好きで、実家つまり我が家に帰省するとコーヒーメーカーを使って、ずっと飲んでいる。好奇心から、それを一口飲んでみてあまりの苦さに「無理」となりました。インスタント・コーヒーの「ネスカフェ・ゴールドブレンド」も家にあったけど、それも苦かった。飲めたのは甘い缶コーヒーの「UCCミルクコーヒー」だけ。そういえば「Nestlé」の読みはいつの間にかネッスルからネスレになり、インスタント・コーヒーもソリュブル・コーヒーと名を変えましたね。そんな私も親元を離れ一人暮らしをし、コーヒー好きの恋人もでき、一丁前に真似してブラックコーヒーを飲んでみるのだけど、ただ彼女に合わせて背伸びしているだけで、美味しいとは思えなかった。20歳を超えて、周りの友人たちがコーヒーを楽しむ中、なんとかカフェオレでついてゆく自分。紅茶の方がまだ、味がわかると諦めかけた20代後半、その時は来たのだった。
京都三条通、鴨川近くのギャラリー射手座で個展を開いていた私は、接客に疲れ果てながら、帰りのバス停近くのカフェ・オパールになんとなく寄ってみた。知人のカフェで何度か来ていたが一人で入るのはめずらしい事。さらになんとなくブレンドを頼んでみた。驚いたのが、一口飲んで「美味しい」と思ってしまった。「苦い」は不味いだったのに、「苦い」が美味しいになったのです。あれだけ苦手だったコーヒーを楽しむ初体験が齢二十六にてやってるとは。
私はこの瞬間を後に「舌の成人式」と名付けることにした。そもそも苦いを不味いと受け取るのは生物として正しいらしい。苦味と毒素は関連があり、体が拒否する仕組みができている。それに対して、苦味でも毒がないことを経験的に体が理解したことで、苦味が美味しいと変化するのだ。まさに、味覚的に大人なった証明なので「舌の成人式」です。18歳を過ぎて、公的に成人なった若者たちよ。選挙権は手に入れても、まだまだ舌は未成年が多いはず。来るべき味覚の大人化に備えつつ、ブラックコーヒーを我慢して飲み続けて欲しい。
甘苦一滴 田中慶一さんのnote
カフェ・オパール
https://www.cafeopal.com
初めてコーヒーを美味しいと思った、カフェオパールは、
三条から移転して、四条東山の建仁寺あたりに移転していました。
追記
「舌の成人式」のあと、私はすぐに友人の田中慶一さんに連絡して、コーヒーの淹れ方を教わりに行った。ドリップの基本を指南いただいたのだが、よく覚えているのは、「結局は豆の鮮度だよ」との言葉でした。慶一さんは、今では京阪神の喫茶店研究では右に出る者がいない文筆家で、小冊子「甘苦一滴」を刊行している。「京都喫茶店クロニクル」「大阪 喫茶店クロニクル」など書籍や雑誌、Webで執筆されている。もう四半世紀くらい関係なのだが、この縁を無理やり引っ張って、私が住んでいる兵庫県の日本海側にある豊岡市の映画館豊岡劇場でのシンポジウム「映画と喫茶店」に登壇いただくことになっています。私は司会進行役を仰せつかっております。
豊劇シンポジウム「映画と喫茶店」 10/27(日)11:05~
豊劇シンポジウム「映画と喫茶店」
10/27(日)11:05~15:15予定カフェが舞台の『アメリ』上映後に、コーヒーの専門家を迎え、まちの映画館と喫茶店・カフェのゆるやかなつながりを紐といていきます。豊岡の新たな魅力を再発掘していく香り豊かなスペシャルイベント。
ゲストスピーカーは、喫茶店文化・現代のコーヒー事情などを取材されているライターの 田中慶一 さんと、姫路でカフェインレスコーヒーを販売する coffeeLUTINO のオーナーの小林沙織さん、そして北近畿唯一のミニシアター・ 豊岡劇場 の3代目支配人の田中亜衣子さんの3人です豊劇シンポジウム「映画と喫茶店」
会 場|豊岡劇場 大ホール
日 時|2024年10月27日(日)11:05~15:15終了予定参加費|映画『アメリ』有料(豊劇通常料金)
シンポジウム「映画と喫茶店」無料
予 約|予約可(Googleフォーム※豊男映画センターHPから)
販 売|コーヒー「coffee LUTINO」、パン「CRUMB bread&coffee」
主 催|豊岡映画センター
共 催|一般社団法人豊岡コミュニティシネマ▼予約・詳細
https://sites.google.com/view/toyookaeiga/241027symposium?authuser=0