「たかが4ドル」

靴磨き世界一周アジア編54日目
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俺は仕事をクビになったんだ。
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と低い声で私の質問に答えてくれた
フィリピンから来た1人のおじさん。
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年齢は50を超えているだろう。
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うわ、気まずい質問をしてしまったな
と正直思った。
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「Sorry about that.」〔それは残念です。〕
と答えると、そのおじさんは明るくこう答えた。
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「気にしないでください。
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私は朝、目を覚ました時に思うんです。
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まだ生きてる
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まだ息を吸って吐くことができる。
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まだ手足も問題なく動いている。
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まだ誰かを労う言葉を話すことができる。
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まだ新しいことにチャレンジするための欲もある。
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まだ何も終わっていない。
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I am excited 〔俺は興奮してるんだ〕」
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強い人だ。
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このピンチを楽しんでやがる。
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きっとこの人孫悟空のモデルになった人だ。　　　
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#ワクワクすっぞ
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「昨日も今日も面接に行ったけど、
雇われることはなかった」と言っていた。
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私はこの人を応援したいと思ったし、
既にオーストラリアで高級ホテルに泊まる
ことができるほどのお金をいただいている。
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「今日はお金はいらないです。
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応援させてください」と私は言った。
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「いや、お金は払う。僕はこの靴を履いて、
面接に行きたいと思う。
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この靴を履いたら、きっと他のところが雇って
くれなくて良かった。クビになって良かったと
思えるほど素晴らしい会社で働くことができる
気がする」と言いながら、その人は4ドル私に
支払った。
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たかが4ドル。
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オーストラリアではハンバーガー１つ
購入することができる値段。
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でも、お金がエネルギーなんだとしたら、
人を喜ばせるための道具なんだとしたら、
計り知れないほど価値のある4ドルだなぁと思った。
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オーストラリアは給料が高い。
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日本で同じ1時間働いても倍のお金をもらえる。
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街も綺麗だ。
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政府の支援も手厚い。
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でも厳しい所もある。
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入れ替わりの激しい職場環境や、どんどん外国
から優秀な若者がやってくる。
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家賃も高いよ。
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街には年を取ったホームレスが物乞いして
いる姿もよく見かける。
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でも、やっぱり人生は心の持ちようが
ほとんどを占めるんじゃないかなぁと
改めてそのおじさんから教わった。
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「life is 10% of what happens to you.
90% of how to response to it.」
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人生で起こりうる出来事なんてたった10%だ。
残りの90%はその出来事に対してどのように
反応するかが人生だ。」
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「おじさんを素敵な所へ連れて行ってくれますように」
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そう願って私はおじさんの靴を磨いた。