「子どもの村福岡」のデザインにいたるまで
学び、見学し、イメージふくらませて
子どもの村の建設計画が上ってきた2008年度、子どもサポート部のなかに建築担当のチームがつくられました。子どもたちをケアし、育てるための機能や空間をどう創りだすのか、私たちには子どもの側に立った考えが必要でした。このチームと建築家グループとが作業グループをつくり、検討会やワークショップを行いながらデザインを進めました。
「社会的養護を必要とする子どもたちの育ちの場はどうあるべきか?」「家庭的環境と専門的なサポート、地域の支え、それらを実現できる空間とはどのようなものか?」そのための手がかりを得るために、子どもや教育、建築に関する各分野の専門家を迎えての研修会や市民公開フォーラムなど、さまざまな学びの場をつくり、参加しました。そしてSOSキンダードルフの本拠地があるオーストリアを含む国内外の施設を見学するなどして、多角的に検討しイメージを膨らませていきました。
SOSキンダードルフの建築ガイドラインと、建築プログラム
SOSキンダードルフは、世界に広がる子どもの村建設に共通するガイドラインを以下のように示しています。このガイドラインの内容を遵守しながら、私たちにはこれらの内容が示すものを日本型として実現していくことが求められました。
また具体的な建物の設計方針を示すものとして、「SOSキンダードルフの為の建築プログラム」も存在します。私たちはこれらのプログラムについても事前に内部で検討し、尊重しながら、日本独自のデザインを組み立てていきました。
キンダードルフの建築の手引きによると、「子どもの村」の建物は130㎡未満の家族の家(10~15軒と設定)、100㎡未満の村長の家、共同のエリアとしての100~140㎡のファミリーアシスタントの家(養育スタッフの家)、60~80㎡のゲストハウス、村を運営する130㎡未満の管理スペース及び、100㎡未満の多目的に使えるミーティングホール、60㎡未満のガレージ付き作業場、80㎡未満の作業小屋兼宿泊所などが設定されています。
この中から必要な建物を選択し、統合できる建物は用途を共有するなどして、面積の調整やプログラムの再構築が行われました。また、遊戯スペースや駐車場や外構、植栽や敷地内公園においても同時に検討されました。
実現のための、設計者選び
「子どもの村福岡」では建築設計にあたり、前出の「SOSキンダードルフの建築ガイドライン(要約)」にある、「地域の建築家とともにつくる」という指針を尊重しました。
また、多くの寄付によって行われる子どもの村の建設は、公的事業の性格を持つものと考え、設計・施工者選びは、誰にも納得いくように公明正大にすべきだと考えました。そして、子どもの村の「理念」を理解し、実現していただく建築家をと、竹下輝和氏(「子どもの村福岡」顧問・九州大学大学院教授)にお願いしました。
その提案により、日本建築家協会九州支部ヘコンサルティングサポートを依頼、そこから推薦された田島正陽氏に設計・管理をお願いすることになりました。加えて、アドバイザリースタッフとして同協会から西岡弘氏、広瀬正人氏のお二人が推薦されました。
この3名の建築家と「子どもの村福岡」の建築担当チームとで、子どもの村のデザインを検討することになりました。田島氏の人選はまことに的を得たものであったことは、その後の過程で、数々の難問を、おだやかな表情を崩さず乗り切ってくださったことで証明されました。西岡氏、広瀬氏のお二人は、私たちの細かな注文に忠実にあろうとする田島氏に、「あんまり注文通りにすると面白味がなくなるよ」などと意見されるのでした。このように総勢3名の建築家と子どもの村プロジェクトスタッフによって建築チームが再綱成され、計画草案から実務的な設計業務へと進んでいきます。
夢を実現するためのワークショップ
2008年6月から、ワークショップを計5回にわたって行いました。「子どもたちが育つ家のあり方・住まい方」、「各家庭の自立した営みと、協力し合って育てる空間のあり方」、「地域に開かれ、地域とともに子どもを育てる家の配置」、「地域の子育て支援、里親支援も担うセンターハウスに必要な要素」、「子どもたちの遊びを豊かにする庭や外構」など、子どもたちが育つための建築のあり方を多角的に検討しました。その中から少しずつ具体的なかたちが見え始め、わくわくする楽しさで、夜が更けるのも忘れるほどでした。
現実には、厳しい資金の問題などいろいろな事情で折り合いをつけていくことになり、計画は100%実現できたとはいえませんが、精いっぱいの努力がなされました。こうして目指したものは今後に受け継がれ、暮らし方、住まい方によって補われ、さらに充実した空間になることを願っています。