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中原一歩の小山田本

中原一歩『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』を読んだ。2021年の五輪騒動のとき、唯一、小山田本人へのインタビューをとりつけて記事を書いたライターが、その後も地道に取材を重ねたノンフィクション。 取材を始めるまでコーネリアスを聴いたこともなかった著者が、「ネット炎上」や「メディアの責任」への関心から書き始めているので、小山田擁護ありきの論調でないのが読んでいて安心感がある。今後同様の追跡調査を行う(できる)者が出るかと考えると、この件に関する決定版とな

    • スティーヴ・アルビニからニルヴァーナへのメッセージ('92-11-17 06:01)

      スティーヴ・アルビニが亡くなってしまいました。ニルヴァーナの公式アカウントが、『イン・ユーテロ』の録音のオファーをした際に、アルビニから届いたファックスを掲示していました。 アルビニが自身の録音哲学を明快に説明した内容で、真摯な人柄もしのばれる素晴らしい内容なのですが、日本のWebメディアでは機械翻訳そのまんまみたいな抜け漏れの多い訳文がしれっと掲載されているだけだったりして、なんだかムカついてしまった。だから自分が読むついでに、日本語としてそれなりに読めるレベルの翻訳を作

      • 荻上チキの小山田インタビュー

        2023年の年末に、荻上チキによる小山田圭吾のインタビューが公開された。2年前の五輪の炎上について小山田本人がどう受け止めたのか、問題とされた過去の自分の行動についてどう考えているのかを、少し時間をおいた地点からあらためて語っていて、とても貴重な内容だと思う。 小山田圭吾×荻上チキ 東京オリパラ騒動から2年…小山田圭吾は何を思い、考えたのか〜いじめ、メディア、キャンセル - wezzy|ウェジー https://wezz-y.com/archives/95845  このw

        • 『BUBKA』の小山田インタビュー

          雑誌『BUBKA』2024年3月号の、吉田豪による小山田圭吾インタビューを読んだ。インタビューのけっこうな部分が、Velludoをリリースしたオフィスパラ周辺の話という、吉田豪らしすぎる内容で面白かった。でも単に80sインディーの重箱の隅をつつくだけではなく、小山田のキャリア展開を理解する上で意外と欠けたピースになっていた話も、新たにいろいろ聞き出しているとも思った。 母方の叔父さん(田辺靖雄)が六本木野獣会だとかいう小ネタを当てるのも吉田豪らしいけど、そうやって家系や交友

          リチャード・ノース「パンク・ウォリアーズ(Punk Warriors)」――ポジティヴ・パンクの語源

          出典: Richard North, "Punk Warriors" (New Musical Express, 19th February, 1983). テキストは以下を参考にしました。 https://punkrocker.org.uk/punkscene/nme.html パンク・ウォリアーズ(Punk Warriors)76年パンクのリヴァイヴァルには時期尚早か、それともこれらの新たな戦士たちは83年の新たなポジティヴィズムの一翼を担うのか? リチャード・ノースが

          リチャード・ノース「パンク・ウォリアーズ(Punk Warriors)」――ポジティヴ・パンクの語源

          「インプリント」と「レーベル」の違い

          「マイク・オールウェイの「イフ(If...)」について」でも触れましたが、noteで翻訳シリーズをやっていて意識しはじめたのが「インプリント(imprint)」という言葉です。「レーベル」にかなり近い言葉だと思われるのですが、使われ方に微妙な違いがあるようにも思えて扱いが気になる。いろいろ調べていたら長くなってしまい、かつ違いに確信が持てたわけでもないのですが、今回は途中経過を書きます。コメントなどで情報提供いただけるとありがたいです。 「『Big Gold Dreams』

          「インプリント」と「レーベル」の違い

          マイク・オールウェイの「イフ(If...)」について

          マイク・オールウェイがエルをやめた後、90年代半ばから2000年代前半までやっていたイフ・レコーズ(If... Records)の活動について調べてみました。イフについては、コンピのシリーズ『Songs for the Jet Set』で認識している人が多いのではないかと思います。古巣エルの関連アーティストに新人を加えた、マイク・オールウェイの新レーベル、ないしプロジェクトだと。ところが内実はもう少し複雑でした。 マイク・オールウェイの発言から 「The El Recor

          マイク・オールウェイの「イフ(If...)」について

          レ・ディスク・デュ・クレプスキュール:健全な折衷主義と危うい海外取引

          原文: "Les Disques Du Crépuscule | healthy eclecticism and dodgy foreign deals" by Frank Brinkhuis https://web.archive.org/web/20230130231802/http://home.planet.nl/~frankbri/crestory.html レ・ディスク・デュ・クレプスキュール:健全な折衷主義と危うい海外取引フランク・ブリンクホイス(Frank

          レ・ディスク・デュ・クレプスキュール:健全な折衷主義と危うい海外取引

          チェリー・レッド物語(2):1991年から現在まで

          原文: The Cherry Red Story https://www.cherryred.co.uk/the-cherry-red-story/ 上記テキストの後半、"The Cherry Red Story 1991 to 2017"という見出し以降の部分。なお小見出しは訳者が適宜補った。 (前半はこちら) 再発盤と著作権ビジネスにシフト イアン・マクネイは1991年、大きく変化した音楽業界の中で会社を再編成することを意図してチェリー・レッドに戻った。イアンはこう

          チェリー・レッド物語(2):1991年から現在まで

          チェリー・レッド物語(1):イアン・マクネイの回想

          原文: The Cherry Red Story https://www.cherryred.co.uk/the-cherry-red-story/ 上記テキストの前半、"The Cherry Red Story 1991 to 2017"という見出しの手前まで。なお小見出しは訳者が適宜補った。 (後半はこちら) 創業 それは、ウスターシャーのグレート・マルヴァーンという、最もありえない場所から始まった。時は1971年、サイケデリック・ミュージックとフレアパンツが流行し

          チェリー・レッド物語(1):イアン・マクネイの回想

          Alice Through The Looking Glass

          谷村新司さん、安らかに。1948年12月生まれの74歳だったそうで。今年は日本のロックを作り上げた世代の訃報が続きますね。 谷村新司に関しては、3年前にあるインタビュー記事を読んで興味を持ち、アリスの音源を聞き漁った思い出がある。アマチュア時代の1970年、アメリカツアーに駆り出された彼が、現地でリッチー・ヘブンスのパフォーマンスを観て、「アコースティックなサウンドをパーカッションで」やるグルーヴに魅せられたのがアリス結成につながるという話。 アリスがもともとはグルーヴィ

          Alice Through The Looking Glass

          おしらせ

          「@sosaidkay」というTwitterのアカウントを削除しました。9月5日にアカウントを停止してから、30日間の猶予期間が過ぎたため、アカウントが完全に削除されました。 Twitterで出会ってオンラインで仲良くしてくださった皆さんや、ツイートやnoteの記事を読んで情報提供してくださった方々には感謝しています。本当にありがとうございました。 ことここに至ったきっかけは複合的で、何か一つの原因があるわけではありません。ただ、個人的にTwitterを眺めている時間がだ

          おしらせ

          ジュリアン・コープ「ドラッグまみれの屋根裏の物語(Tales From The Drug Attic)」

          出典: Julian Cope, "Tales From The Drug Attic" (New Musical Express, 3rd December, 1983). テキストは以下を参考にしました。http://www.phinnweb.org/retro/garage/articles/drug_attic.html ドラッグまみれの屋根裏の物語(Tales From The Drug Attic) 60年代の忘れ去られたサイケデリックな遺物、正気と忘却の間の

          ジュリアン・コープ「ドラッグまみれの屋根裏の物語(Tales From The Drug Attic)」

          1987年、エル・レコーズ東京へ行く:日本冒険譚

          原文: él Records in Tokyo, 1987: A Japanese Odyssey https://www.cherryred.co.uk/el-records-in-tokyo-1987-a-japanese-odyssey/ 1987年、エル・レコーズ東京へ行く:日本冒険譚 エルで僕たちが成功したのは、国内外を問わず、激しいギグの結果ではなかったと言うべきだろう。僕たちは、イギリスやヨーロッパはもちろん、僕たちの多くが拠点としていた西ロンドンで「ブレイ

          1987年、エル・レコーズ東京へ行く:日本冒険譚

          「The El Records Story」書き起こし Part 4/4

          The El Records Story - Part 4 - Mike Alway - Interview by Iain McNay (Part 3はこちら) 「If…」での奮闘 イアン:そしてあなたはそれエル・レコーズをやめて、ある種の撤退をしました。そして、イフ・レコーズ(If... Records)というレーベルで一時的に戻ってきましたね。3、4年後ですか? マイク:はい、そうです。面白いことに、80年代後半にはファンジンのおかげで、サッカーの世界に引きこも

          「The El Records Story」書き起こし Part 4/4

          「The El Records Story」書き起こし Part 3/4

          The El Records Story - Part 3 - Mike Alway - Interview by Iain McNay (Part 2はこちら) 日本での成功 イアン・マクネイ(以下、イアン):〔エルでプロデュースされるアーティストは〕性格俳優のようなものですね。 マイク・オールウェイ(以下、マイク):そうなんです。とてもいい指摘だと思います。まさにその通り。普通のレコードの作り方というより、映画のキャスティングのようなものです。そしてその結果、より

          「The El Records Story」書き起こし Part 3/4