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人間2.0というおもむきのスーパースターがいた TRUMPシリーズヴェラキッカ感想

私の推しは梅津瑞樹さんである。
演劇の上手な彼には、ずーっとこのTRUMPシリーズに出演してほしいと願っていた。
それがなんとこのたび満を持して出演が決まった。
役の名をエゴ・ヴェラキッカというそうだ。
ヴェラキッカ……
「ヴェラキッカ」というと、このTRUMPシリーズの1年半ほど前の新作ミュージカルだが
そういえばタイミングが合わずまだ観劇できていないかった。
DMMtvでの配信が始まるとのことで、
予習にと配信を見てみることにしたのでその感想です。

とんでもない役者、美弥るりか様


演劇大好きと言いながら演劇の知識に乏しいことでお馴染みの私だが(涙)
このたび、とんでもねえスターに出会ってしまった。
宝塚OGの美弥るりか様だ。
何!?こんなスターが世の中におったの!?
冒頭のシーンで舞台奥からのライトを受けながら登場するのだが、
なんというか舞台装置のライトが役者を照らしているというより、
自ら輝きながら登場、
といった様子で度肝を抜かれた。
自ら輝く、とか人間技ではないだろう。
ただ登場しただけなのにあっけに取られ、
紛れもないスターの登場だと、ファーストインプレッションでそう感じさせる迫力があった。

今作は、
この美弥るりか様演じるノラ・ヴェラキッカを
「愛すること」が家訓、という不思議な一族が舞台になっている。
そのため、美弥るりか様演じるノラには「私を愛してくれ」というセリフがある。
ただの劇のセリフのはずなのだが、こんなに美しい人に「私を愛してくれ」と言われたら、
自分はただ客席に座って見てるだけなのに、
ていうか配信だからもっと遠い画面越しに見ているだけなのに、
ポケモンでいうところのメロメロ状態みたいな(状態異常)
いや、もう好きですが……?みたいな……
そういう感じになった。
すごすぎる。
この人に魅力があるせいで、
客席の客までもが「ノラを愛するべし」というヴェラキッカ家の家訓に無関係でいられなくなっていた。
例えばステージと客席を物理的につなぐ演出には、
銀テープがバーンと飛んでくるとか、
花吹雪がひらひらと飛んでくる、とか
役者が客席から登場する、などがあるが、
今作では目には見えない「役者の魅力」が客席にまで飛んできて目と心に突き刺さる。
こんな演出ありえるのか、と思った。

それと、この「本当は誰もその姿を見たことがないノラ・ヴェラキッカ」を表現するにも、
「現実離れした美貌の持ち主」であることで説得力が生まれていたと思う。
みんなの想像の集合体だから、
男のようにも女のようにも見える。
そして兎に角、美しい。
そういう存在のあやふやさを、
とんでもない美貌で演出していた。

宝塚出身の女優さんてホントすごい……
舞台上にいる役者はもちろん、客席の最後尾の客に至るまで劇場全体からの視線や気を一瞬で自分にグッと引き寄せる「技術」があるようだ。
ハンターハンターでいうところの念能力みたいな。
そんな「技術」がこの世にあること自体、宝塚の女優さんを見るまでは知らなかった

ほとんどワンピースでいうところの覇王色みたいのを当たり前みたいに実装していてマジかよみたいになった。
覇王色とかいうチート能力もあるが、
当然、「宝塚」のご出身なので歌も上手いしダンスもできる。ほんとに、何!?

末満健一の脚本が「体質に合う」


単純に好みの話だけど、どうも末満健一の演出する舞台が好きだ。
ところで私が劇に一番に求めるのが「役者の感情が乗っていること」だ。
いや、まぁ役者が役に感情移入しないまま上演される舞台というのもそうないだろうとは思う。
けど、私も高校の3年間演劇やって、舞台に立って感じたことなのだが、
すべてが嘘で虚構の「演劇」という枠の中でも、
板の上で感じる「感情」は意外と本物なんだな、ということが実感としてあった。
舞台の上では、いつも一緒にいる演劇部の仲間と、何度も練習し覚えた通りに台本のセリフを言う。
言うなれば、録画したビデオを毎回再生するような、そんなもののはずなのだが、
あるシーンで突然、
練習の時には感じなかったような感情が湧くことがある。
時には、何回も繰り返している劇のはずなのに、あるシーンで急に泣けてくるようなこともあった。
これは本当に不思議な体験だった。
まるで役に身体を乗っ取られているみたいというか。
(自分の思考とは別の、感情由来の身体反応が身体にあるので)
私だけでなく他の部員にとってもそうで、
相手が同じセリフを微妙にニュアンスを変えて言ってくることもあった。
こういう瞬間、劇が「覚えたセリフを言う」以上のものになっていく不思議な感覚というのを、
まあ高校演劇という子供の部活動の中ではあったワケだが、体験できたことは興味深かった。
それが私にとっての「演劇ってオモシロい!」と感じる現体験になった。
そういうわけで、今でも
設定や衣装や大道具がどれだけ現実離れしていても、
役者からほとばしる「感情」がリアルっぽい作品が好きだ。
役者が作品に飲み込まれているような表情が見られる作品が特に好きなのだ。

末満健一の台本(特に「絶望劇」を標榜するTRUMPシリーズ)は「末満さんの血の色はミドリ色なんじゃないか」と言われるほど「なんてこった……」という顛末が終盤にかけて立て続けに訪れる。
とはいえ、これは物語としてかなりキレイなカタルシスでもある。
なので、「最悪」な事態が舞台上で起きてはいるものの観劇後には謎のスッキリ感(着地感?納得感かも)がある。
例えばリリウムなどは、
前半で丁寧に育てた可憐な花を、
後半ではそれを摘んだ上で火をつけ、灰になるまで燃やし尽くした後に踏みつける、
客はそれを茫然としながら見届ける、
みたいな観劇感がある。

また、「苦しみ」「悲しみ」「絶望」の表現がそのままラベルを変えずに「苦しみ」「悲しみ」「絶望」として描かれることも「安心感」に実は繫がっているのではないかと思う。
意外と冒涜的だったり、退廃的な雰囲気ではない、ような気がする。すんごい最悪なことは起きるけど……。

ともかく末満健一のつくる舞台では、
物語の進行に身を委ねているだけで、役者は表現すべき感情に自然となれるのではないかと感じている。
「ここでこういう感情にならなきゃ」と緊張して意識していなくていいので、表現が自然になりやすいのではないかと。

今回においては、クライマックスの松下優也演じるシオン・ヴェラキッカの。
遠くを見ているような、近くを見ているような、
どこも見ていないような、全てを諦めたような。
物語の結末にシオン・ヴェラキッカがしているべき表情をしていて、見事だった。

こういった要素によって「観て良かったな……」という感想になった。
好みの問題だと思うが、
末満健一の作品は私にとって「こういう演劇が観たかった」という感想を大抵の場合得られる。
どうも体質的に合うようだ。

主題が素朴


今作は架空のヴァンパイアの社会を描いたTRUMPシリーズの一作だ。
なので設定も週刊少年ジャンプのファンタジー系新連載みたいな感じに非常に整理されていて、細かい設定がのちのち活きてくるのが面白いが、凝っているので複雑と言えば複雑だ。
例えば、ヴァンパイアにも人間みたいに思春期があって精神が不安定になるから、その「繭期」の時期にはクランという寄宿舎に入らないといけないこと。
仲間のヴァンパイアに噛みつかれると、
噛んだ方の命令を無条件に遂行してしまう「イニシアチブ」を握られること。
そういった設定が矛盾なく、物語を進めるピースになっていく過程の見事さも、TRUMPシリーズの魅力の一つだ。

でもそういう設定の複雑さとは裏腹に、今作はびっくりするくらいテーマが素朴だった。
幼いうちに野心家の親族に地下室に幽閉され、
外に出ることなく、そのまま亡くなってしまった女の子。
そういうノラの「誰かに愛されてみたい」という願いが、あまりにも素朴で心を打つ。
後半にかけて不穏さを増す不気味なミステリーに対して、明かされるヒロインの心のうちがあまりに素朴で強烈に印象的だった。
なんならノラは最初っからそう言ってたのだ。
なんか、こう、
バキバキの美貌と泰然自若とした孔雀みたいな容姿が、でかい宝石みたいなノラ・ヴェラキッカのまばゆいばかりの輝きを楽しむ前半、
そのでかい宝石に、後半は種明かしをしつつ彼女の暗い過去を暴くことで細かくヒビを入れていき、最終的に深川ガラスみたいな繊細な細工として仕上げる、みたいな。
そういう「美しさ」を終始感じる3時間だった。

すげえ良かった


観ようと思った時なんかめちゃくちゃ体調が悪くて、
モニターを用意する元気がなく、
(いつもは大きいモニター(といっても14型のテレビにFIREスティックを繋いだだけ)に接続し部屋を暗くして簡易ホームシアターにしてから観る)
スマホの横画面という小さい画面で観はじめたのだが、
あまりに面白くて引き込まれ、中断しないで一気に観てしまった。
TRUMPシリーズといえば初演のTRUMPもだが、Spector、グランギニョル、Cocoon、マリーゴールドどれもクライマックスで絶叫する結末になるので(役者も、客も)
今回も身構えていたが、
意外とあたたかい(?)雰囲気で終わってホッとした。
とはいえノラの生涯を思い出し、
数日のうちは仕事中にうるうるするなどした……

新作のマリオネットホテルはいよいよ今月だ。
すごい楽しみ!たけど、
かの「TRUMPシリーズ」ですからね……
嫌な予感を遥かに超える嫌な出来事が起きて頭を抱えるような気がする。(全員死ぬ、みたいな……)
でもそれはそれで楽しみなのでした。

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