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「ジョーカーは宮廷道化師がモデルなんだ。宮廷に召し抱えられ、ペットやマスコットのように扱われ、主人への批判も許されたんだ。だからジョーカーは特別なんだ。キングに勝れば、ワイルドカードを務めもし、今こうしてババとして孤立することもあるんだよ」 「御託はいいからさっさと引きなさいよ」
「正直、ピエロが怖いんだ。異様さがもう狂気でしかない。舞台上なら分かる。それがこちらに関わってくる不気味さよ」 「マスクや着ぐるみも?」 「理由もなく接近されてみろ」 「かわいいアバターなら?」 「画面から飛び出して来ないなら」 「それは饅頭だろ」 「その無遠慮さには似た怖さがあるよ」
「まったくとんだピエロだよ」 「すまん」 「あんまりにもはっきりしないお前の背中を押すつもりで俺はスカイダイビングまでしたのにだ。なのにもう付き合ってて? しかも俺だけ知らないとか!」 「てっきり知ってるかと。でもそっちだってその時に出会った人といい感じなんだろ?」 「……まあ、な」
「滝行でさ、上から丸太が降ってくるじゃん」 「漫画の山籠もりでしか見ないよ」 「そこの流木」 「うん。良き風合いのインテリア」 「元はある達人が修行に使った物なんだとか。その時の思いを忘れぬように近くに置いたんだって」 「ちゃんと回収するのな」 「流し灯篭だって回収する時代なんだよ?」
「浜辺の小石はさすがに丸い」 「人間もそうあるかな」 「石の方がだいぶ素直だ」 「硬いのに。いや硬いからか。透明で綺麗なやつも混じってるぞ」 「海玻璃か。打ち捨てられたガラス瓶とかの成れの果てだな」 「投棄物が原石か。人間もそうあるかな」 「そうあってくれるならいくらか救いがあるな」
「始原の霹靂に躍る星の子。天球が騒いで火球が沈む。マグマが噴いて大地が離合。空かさず生命が地表を覆う。果て無く続く血の交錯。山が風化して砕ける岩。川と海が磨いて渚の砂粒。瓶や風船に託された手紙にその一粒が付着するキセキ」 「何それ」 「私があなたに、あなたの詩に巡り合うまでの物語」
「貴方からははっきりと付き合おうとも好きとも言ってくれることは無かったね」 「そうだったかな」 「お人好しで、誰の言うことも何だかんだで聞いちゃうし、自分を省みず相手の力になろうともする。私が切り出した別れ話も結局受け入れちゃって。変わんないなあって。だから私は貴方と別れられるの」
「開業以来、ずっと人気のホットスポットなんだ。クルーはいつも笑顔を絶やさないし、セキュリティもダブルどころかデカプルなんだ」 「どれだけ細心」 「命に係わる態度の表れだな。それに然る平安貴族も通い詰めたとか何とか」 「そんな昔からあるのかよ。で、入場料は?」 「六文あれば十分だって」
「この暑さは何なんだよ!」 「うちの犬もぐったりだよ」 「こりゃ見事なホットドッグだ」 「梅雨明け前に冷房に頼るのは抵抗があるが」 「……快適快適。ホットドッグ様々だわ」 「昼どうする?」 「ホットドッグ?」 「食材は、……あるな」 「マジなのかボケなのか判らんリアクションは止めてくれ」
「最近のあいつ、妙に情に厚いっていうかさ」 「若干暑苦しいくらいだな。何かに嵌ってるみたいだぞ」 「何かに熱中できるってのは幸いなことだな」 「これも布教の内って」 「そんなに信仰に篤かったのか」 「推しの品位に関わるからと」 「あー推し活にアツいせいなのか。これ漢字でどう書くんだ?」
「別にね、好きで素っ気なくしてるわけじゃないんだよ。あいつとは気も話も合うし、二人で居るのも嫌じゃない。でもさ、私の気持ちを先回りして優しくされるとぞわぞわってして。それが何か負けた気がして悔しくて」 「だってさ?」 「……」 「は? えっ?」 「二人共、顔真っ赤。これはお熱いこと」
「こっちは満月が見事に真っ赤!」 「……こっちは周囲がすっかり赤くて新地球が青暗く見えます」 「皆既月食と皆既日食を同時に見てるなんて不思議な感じ」 「……今僕が目にしているこの光景をいつか二人で見られたら、その時には貴女に伝えたいことがあります」 「いいよ? 分かった。何だろうな」
「地球は青かった」 「習ったよね。昔はそうだったって」 「それでも地球は動く」 「ガリガリ! その一言が無かったら軌道を離れることは無かったんだ」 「地球空洞説」 「地上に住めなくなる前に囁かれてたって奴か。ずっとやられっぱなしじゃないって、あいつらに見せ付けてやらないとな」 「ああ」