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「群馬って馬が群れてるん?」 「昔、毛野国が上下に別れて」 「上の毛の国と下の毛の国。……とにかくケモノに豊かそうだな。馬も居そうだ」 「上毛はじょうもうと読んだりして」 「あーかるた!」 「ぐんま読みは明治、群馬県群馬郡群馬町に拠るそうな」 「『群馬』の群れとはさすがに思わないよ!」
「紫金銅分福茶釜」 「茶釜に化けたきり戻れず困る狸とそれを助けた男が曲芸で一山当てるあれ?」 「元はあるお寺の代々の住職に仕えた物の怪が、千人に振る舞って湯が尽きない茶釜の福徳を讃えて名付けたそう」 「ふむ。つまりラッキーケトルか」 「そのセンスを聞くと、茶釜が幸運なのは本当らしい」
「鍋は食材を火で煮る容器を謂うんだって。だから釜もフライパンも鍋なんだ」 「なら鉄板も鍋か」 「で、鍋ごと食卓にある煮物が鍋料理なんだとか」 「タコパは実質鍋パだった?!」 「たこ焼きは煮てないだろ」 「鍋焼きうどんは?」 「煮てるから鍋物」 「なんかもんやりする」 「そりゃ湯気だな」
「闇鍋しようぜってなって。ただとにかくみんな貧乏で」 「最悪、全員で出汁を啜るってのも、まあ乙じゃないか」 「みんな期待してたんだ。混じり気ない純粋な期待が生んだ闇鍋は限りなく透き通ってたな」 「空鍋か?」 「それは怖いな。でも水は入れたよ」 「……白湯か」 「雪が積もった夜だったな」
「鍋奉行、うどんかラーメンか雑炊かで締めが割れちゃって。楽しく囲んでたのにこれじゃばらばらに」 「ならば割れた数だけまた鍋を囲むのだ。割れた鍋を見て、数が多くなってめでたいとする鍋売りもある。割れ鍋に相応しい綴じ蓋があるように、仲も円満に綴じれよう。でも鍋奉行お白洲しない思うの」
「ビフロスト?」 「デフロスト。除霜。ぐらつく虹の橋じゃないよ」 「霜の巨人倒せそう」 「うーん。霜消しなら霜の巨人をただの巨人にできるかも」 「それなら歳月は星、十一月は月にできそうだな」 「酩酊するほど飲ませばね」 「ビフロスト渡れそう」 「ぐらつくわ、虹の橋塗れだわ、散々な道だ」
「寒さが凍みる。息は白むし手は悴むし」 「手袋マフラーは必須だね。眼鏡は曇るし鼻はつん。懐炉が沁みる」 「木も腹巻するし」 「霜焼けするからね」 「そういやお地蔵様も霜焼けするのかな」 「そういう温かい人の世話なら手厚く焼いてくださるかもよ?」 「ぜひ手を焼いてもらって暖を取りたい」
「あー、じゃくじゃくしたい!」 「かき氷?」 「惜しい。霜柱」 「踏む方か。あれ楽しいよね」 「いや口で」 「ならお酒を割っても楽しそう」 「でも食用で作るのは難しいそうでさ」 「シモバシラの霜華じゃ、じゃくじゃくしないか」 「三秒で作れば大丈夫か?!」 「お腹ぐるぐるしたいんだっけ?」
「つまり露が凝縮なのに対して、霜は昇華なんだ。これが上空で起こると雨と雪――」 「あのさ、どうして霜が付くのとは訊いたよ? 冷凍庫の霜取りしてたあなたの頭にって意味でね。確かにお互い白髪になってもずっと一緒に笑ってたいねとは話したよ? でもこれじゃさすがに幾星霜が短すぎでしょもう」