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「あいつ雪隠で饅頭食ってやがったんだ! 許せねえ」 「その悔しげなのは義憤?」 「え? まあうん」 「見過ごせないよね。陰で誰かが悲しい思いをするなんて嫌だよ」 「そう、だな。汚い奴だ」 「にしてもさ、そんな言い方もするんだね。昔からあるんだなあ、便所飯」 「あー確かに。そうかもなー」
「融けない雪って何か素敵よね」 「おや雪国への挑戦か?」 「そんなつもりは全然無くて、空に知られぬ雪のこと」 「なら海の、……プランクトンの死骸?」 「花吹雪とかよ。てか雪に恨みでもあるの?」 「雪はね? 儚いから良いの」 「だからこそよ」 「んじゃ一度さ、本場の雪掻きしてみよっか?」
「私さ、肝心な時に限って雪が降るんだよね」 「雨は?」 「それが全く無いの」 「珍しい! 雪女だ」 「冷え性だけど、いやまさか」 「大雪に困って雪宿り」 「一夜の宿を、って?」 「雪の肌はそういう理由?」 「それは吝かではないね」 「よし。雪降って地隠れるね」 「いや一難も隠れてないぞ?」
「テレビ台にテレビの構図ってさ、なんか祭壇ぽくない?」 「画面が位牌と?」 「離れた時や場所を繋ぐインターフェースで思いを遣り取りする装置」 「お祭り騒ぎや儀式中継の番組だって画面の中だし、そこに向かって礼拝とかする?」 「ドルオタのあんたこそ、しっかり拝んでるでしょ。愛しの推しを」
「この番組もさ、散々暴れて結局台本なんでしょ?」 「でしょうねえ」 「なんか騙された気分になるんよね」 「まあプロレスだと思えばさ」 「でもこれはリングでも舞台でもないじゃん」 「危険な番組や出演者に局やスポンサーが付くと思う? それに出演者って、そこで芸を披露する人のことでしょうに」
「最近テレビが楽しくなくて」 「若者でもなくテレビ離れ?」 「むしろテレビの俺離れ。実は妖怪の仕業なのかと」 「妖怪テレビツマンネ?」 「ああ。ザッピングしてさ、ぴんと来なくて電源切ると、たまにぼんやり映るんだ、オフの画面に人影が。俺の心が映す幻なのかな」 「いやそれ多分お前自身だ」
「もうすっかりテレビ離れしたんだね」 「諸行は無常なのさ」 「画面にべったり齧りついてたのに」 「その分、友達と居るからね」 「電脳箱眼鏡、でだっけ?」 「うん。テレビが箱の中の世界を眺める窓なら、こっちはその世界にすっかり入っちゃうんだ」 「なら画面とは、もっとべったりになったのか」
「あの白い衣装に憧れてるの」 「研究室で割烹着とか?」 「ありですね」 「医療現場?」 「天使には向かないかな」 「料理人? 道着? 巡礼?」 「外れー」 「大穴で白詰襟」 「それなら相手は海軍士官ね。これヒント」 「あー白無垢!」 「正解、ウェディングドレス」 「ご予定が?」 「真っ白ー」
「デッド、……アンド、アライブ?!」 「え、何それ?! 死者蘇生? 半死半生?」 「キョンシー?」 「それ死体操縦」 「じゃあゾンビ?」 「それ動く死体」 「これ手配書。もう手遅れかなあ、これ」 「……箱にでも詰めとく? 開けるまで生死が重なり合ってるってことで」 「それだ、全死全生!」