ベンチャーキャピタルがコンサルを必要とするわけ
つかの間の休暇をエストニアで過ごすヒルズ氏。ワインを傾けつつ、出国前に会ったベンチャーキャピタル(VC)社長、通称パネライ社長との会話を回想する。(前回)
別にすぐ転職するつもりではないんだ。だがいつ何があるかわからぬヒルズ砂漠のコンサルタント、可能性は常に模索せねばな。さて、パネライ社長のオフィスに向かうぞ。
◆スタートアップテンプレ
商店街を抜け、小さなビルの前に立つ。
「どうぞ」
導かれるままオフィスに足を踏み入れる。
ふむぅ。。。。
木の床に白いテーブル、観葉植物が並び壁にはコンテンポラリーアート。BGMにはジャックジョンソンが流れている。まさに、日本人が憧れる”西海岸系スタートアップ”のテンプレだ。
そうか、この会社かなり若かったな。。。カリフォルニアの苦い記憶を追いやり「おしゃれですね~」などよいしょを挟む。ご機嫌なパネライと共に奥の会議室へ。
会議室は、ガラス張りだった。
急に気が引き締まる。ガラス張り=風通しが良いではないと現職で嫌というほど思い知ったからな。むしろ真逆。警戒心が頭をもたげる。
「ようこそ!」
中には目を輝かせる若手スタッフ。スタートアップ服装マニュアルでも導入したのだろうか?まだ寒いのにポロシャツに短パン、手元のパソコンはもちろんアップル社のマッキントッシュ。
「早速だが、事業を紹介しようか」
パネライ社長のプレゼンが始まった。
◆パネライの誘惑
支援したスタートアップの紹介が続く。
農業、介護、教育、ファッション、、、多岐にわたる分野だ。中にはかなりチャレンジング、つまり収益化が難しそうな事業もある。
「うちは割と勝率がいいんだ」
得意げなパネライ。
確かに興味深い。
「ヒルズ君も是非ジョインしてほしいね」
0から1の場に身を置く、かーー。
心惹かれるが、、、
疑問は残る。
この規模の企業でなぜここまで冒険できる?
パネライ氏の個人資産がでかいのか?
それとも本当に勝率がいいのか?
いやその前にだ、、、、
なぜ私をここまで誘っているのか?
コンサルのネクストキャリアとしてベンチャーキャピタル(VC)はさほど不自然ではない。だが「私のVC適性を見抜いたか、やるねぇ」など浮かれるほどこちらもお花畑ではない。
これは、、、恐らく、、、
考えていても仕方ない。
「事業比率を教えていただけますか?」
◆会社存続のからくり
質問にパネライの眉が微かに動く。「事業比率? うちはVC一本だが?」とでも言いたげな表情、その横で空気を読まないポロシャツ君が説明を始める。
「VCが2割、インキュベーターおよびアクセラレーターが1割、あとは、、、企業向けの新規事業支援ですね」
ほら、大企業って新規事業やりたいけどやり方がわからないって意味不明な状況が多くないすか?なので僕たちがスタートアップとマッチングしたり、市場分析したり、事業戦略を書くサポートするんですよ。
スタートアップとマッチングし
市場分析をして
事業戦略を書く
ついこの間、カリフォルニアでやってきた業務じゃないか!
何が「0から1」だよ。。。
恰好つけて話すオーナーに限って "1から10" の事業で会社の収益を支えていたりするもんだ。しかも7割? 実質コンサル会社じゃないか。スタートアップかぶれの"あるある"がすぎるぞ。(*)
なのに、、、なのに、ちきしょう、無駄にコンサルを下にみやがってパネライのくせによぉ!!!
愚痴りたい気持ちを、
「へぇ、7割が企業向け支援ですか」
の一言にのせる。
深いため息をつき、パネライがまっすぐこちらを見つめる。
「ヒルズ君、君は勘違いをしている」
(次へ)
(*)スタートアップ界隈はコンサルタントを「虚業」と馬鹿にしがち。それは別にいいんだが、実は事業が軌道に乗るまでの日銭稼ぎにコンサル業務を選択するスタートアップは多い。そして事業がいつまでたっても軌道に乗らず、そのままコンサル会社で終わる者もいる。意地張らずに仲良くしようぜ?なっ!?
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