
雰囲気は最高ストーリーは違和感『都市伝説解体センター』※ネタバレあり
前から楽しみにしていたゲームが、先日ついに発売された。それが『都市伝説解体センター』だ。
以前紹介した『和階堂真の事件簿』の製作者、墓場文庫の新作ということで期待大。早速プレイしたので、その感想を書き連ねたい。
前置きすると、タイトルでお察しの通り正直ストーリーは期待に反していた。正直綻びが目立っていたと思う。そのため具体的にどこが綻びと感じたかも触れる。
『都市伝説解体センター』
呪いの箱、事故物件、異界... 「都市伝説」の正体とその向こう側にある真実... 呪物、怪異などの調査・回収を行う『都市伝説解体センター』。 その調査員である主人公が、能力者の廻屋歩とともにさまざまな依頼を解決していく、アドベンチャーゲームです。
主人公である福来あざみが、ひょんなことからセンターの調査員として都市伝説を調査し、「解体」していくゲームだ。
SNSから噂を把握し、実地調査してどのような都市伝説かを特定し、真実を暴く(=都市伝説を解体する)という流れで進む。
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以降ネタバレ全開で、ゲーム内設定と感想と書き連ねていくため、
未プレイの人はご注意を。
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良かったところ
進化したピクセルアート
『和階堂真の事件簿』の頃から既に、横スクロール画面や背景のビジュアルはとても緻密で素晴らしいピクセルアートだった。
それがさらに人物画、アニメーションまでもが加わって進化した。

滑らかで緻密な絵や3Dモデルを用いるゲームは多いし、AIが描いた絵が一瞬にして大量に生まれる現代において、ピクセルアートはあえての縛りプレイならぬ縛り表現方法だと思う。
しかし、昔のゲームによくあったことからレトロ感の演出や、ウェブサイトや電脳世界っぽさの演出には役立つ。今作はSNSの大衆の闇も取り扱っているし、個人的には好みでもあるし、その点では好印象だった。
また廻屋とあざみが同一人物であることも、あまりに緻密・リアルな人物表現では最後まで隠すのが難しかったはず。ピクセルアートで細部が適度に曖昧になることで上手くできた表現かもしれない。
個性がわかりやすいキャラ設定

無垢でかわいらしい主人公の福来あざみ。
自分の興味が赴く先に突っ走り、その他の倫理や正義はやや適当な曲者の廻屋渉。
ただの運転手を装いつついざというときの戦闘力が高いジャスミン(止木休美)。
ビジュアルの差別化も相まって、キャラクター間で被った個性がなく、それぞれの良さを生かした動きをしている。
惜しいところ・疑問点・綻び
特定を挟むことによる間延び
依頼主は「ベッド下の男が現れたから解体してください!」とか「ドッペルゲンガーが現れたから解体してください!」といったように依頼してくるのではなく、「何かよくわからん不可思議な事象」にまつわる困りごとを相談してきている。
そのため、解体センターはいったん「どの都市伝説か」を特定するというステップを踏んでいる。
しかし、このステップは必要だろうか?
というのも、特定と言いつつ実際のところは「強いて言えばこの都市伝説に近いかな」みたいな話だ。わかりやすいところで言うと、ブラッディメアリーは日本発祥ではないがこぎつけている。
しかも結局のところ、すべては人為的に引き起こされた事象だった。であればむしろ都市伝説と無理矢理結びつけることで、調査過程で「こういう事象のはずだ」「こういう人が襲われるはずだ」といった先入観が生まれてしまう。客観的に調査するならば、無理矢理こじつけず、事実を積み重ねて普通に原因を突き止めるべきではないだろうか?
そのため、依頼時点で「ベッド下の男が現れたから解体してください!」みたいなスタートにして特定の過程を飛ばし「解体して真実を暴いてみせましょう!」みたいな展開にしたほうがスッキリしたのではないだろうか。
解体時の電話をどうやっていたのか
肝心の解体シーン。いつもあざみは廻屋と電話を繋いで、しかもそれを関係者に聞かせていた。
結末を知ってからこのシーンを思い返すと、非常に不可思議だ。あざみと
廻屋は同一人物なのだから、当然電話はできない。
どうやってタイミングよく電話を鳴らしたのか?そして、解体時音声をどうやって聞かせていたのか?無理がないだろうか?
なぜドッペルゲンガーと目が合っていたのか
これは明かされなかったと思う。メガネをかけたあざみに見えているものはあざみの主観の影響を受け、実際の見た目から変わってしまうという点は触れられている。
にしても、「あざみを見ている」ことの理由がわからない。
ジャスミンは何に驚いていたのか
突撃したジャスミンが怪我をする直前、管理人を見て何かに驚いている素振りがあった。
もしあざみである、もしくは廻屋であると気づいたならばこの反応は自然だが、その後彼女は普通にあざみと接しているし、廻屋を追い詰める素振りも無かった。
では何に驚いたのだろうか?
結局大衆の意見が正になってしまった
大衆は証拠もなしにセンターがグレートリセットを起こす、テロの首謀者かのように扱っていた。それをあざみは根も葉もない噂として戸惑っていた。
しかし、実際にはSAMEJIMA管理人=センター長廻屋(=あざみ)であるため、結果的にセンターが首謀者というのは正しい推測結果だった。
このゲームは終始、SNSの大衆は根も葉もないことを勝手に言いふらし、人を貶めるものという危険性を重視して取り扱っていた。しかし結局最終的にこの大衆の意見が正しかったとなってしまったら、せっかくストーリー中で築いてきたSNSの恐ろしさが薄まってしまう。それに如月歩の復讐のターゲットの一つは無責任で過剰なことをいう大衆だったにもかかわらず、その大衆が結果的に正解となると復讐が完遂できていない。
歳が離れすぎている兄妹
如月努は大学教授であり、上野天誅事件があった7年前に亡くなった。
教授であれば、7年前時点でどれだけ若くても30代以上だろう。40代以上のほうが自然だ。今生きていれば若くても30代後半、40代後半でもおかしくないということになる。
そして妹。如月歩は福来あざみという大学生として自然に振る舞っていた。同じ大学の美桜と友達として接することができていた時点で、如月歩の見た目は同い年くらいに見えていたのだろう。つまり20歳前後だ。
となると、30代後半以上の兄と20歳前後の妹ということになる。20歳近く年の離れた兄妹ということになってしまって不自然だ。
如月歩が実際にはもう少し年上だが、あざみとして振る舞う際に幼く見せていたのだろうか?
教授とまで言わずに、助手とか准教授とか、もう少し若い年齢でもおかしくない設定のほうが良かったかもしれない。
なぜ黒沢はHDDを捨てなかったのか
仲間の残り4人もHDDが残っていたことにびっくりしていたが、あのHDDさえなければ証拠はなかったはず。残しておくメリットが何もない。それにもかかわらずなぜ黒沢はHDDを捨てずにとっておいたのだろうか?不自然に感じてしまう。
なぜジャスミンは地下の実態に気づけなかったのか
ジャスミンはずっと運転(と、ときに体術)役で、6話の終盤でようやく地下にあるセンターに入る様子が確認できる。そしてそこでセンターは蜘蛛の巣が張るような状態で、実質廃墟であると気づく。
これはありえるのだろうか?
というのも、ジャスミンは明らかにあざみが調査員になるよりも前から調査員として潜入していた。ジャスミンがあざみに調査の流れを教えたり、調査後に動画配信がある流れが定着していた頃からわかる。
つまり、ジャスミンは廻屋に採用されるために接触を図ったはずだ。その際地下に入らないことがあり得るだろうか?また、仮に採用時オンライン面接か何かで対面接触していなかったとしても、ジャスミンの目的からして積極的に接触を図ったはず。なぜ6話の場面まで地下の実情に気づけなかったのだろうか?
廻屋の声を男性声優にしてしまった
ゲーム公開後、彼が喋る動画が公開された。それがこれだ。
声は声優の岡本信彦さん。男性だ。完全に男性の声だ。
しかし彼の正体、肉体は如月歩という女性だ。この声は矛盾になってしまう。
メディアミックスしそうだが綻びが足かせになりそう
話題性とビジュアルの良さから、アニメか何かメディアミックス展開はあり得るのかもしれない。
ただ、その際上記矛盾点を解消しないと、大衆の目に触れたときそのストーリー展開に疑問を持たれるはずだ。
個人的に、前作の『和階堂真の事件簿』が非常に面白かったからとても期待していた。それゆえにとても残念だった。前作は王道と見せかけて期待を超えてくるストーリー展開と、ドット絵ながらもクオリティの高い表現がとにかく魅力的だった。しかし今回はストーリーの方が大きく削がれた感じがあって、もともとあった魅力を失ったように感じてしまった。
サムネイル、記事中画像:steamストア『都市伝説解体センター』より引用